公益財団法人 結核予防会結核研究所/抗酸菌レファレンス部

予防・診断・治療薬開発の基礎研究

結核の病原性の研究

 結核菌が宿主細胞に対して細胞傷害活性を持つことを見いだしました(JICR, 2001)。本活性は生菌特異的であり、抗結核薬の活性測定に応用できることを示しました(AAC, 2002, 2005)。現在、本活性の発現誘導機構について菌側と宿主側からオミックス解析を試みています。

ワクチンの研究

 ウシ型結核菌の弱毒株であるBCGは結核ワクチンとして唯一世界で使用されています。BCG株にはパスツール研究所からの分与時期やゲノムに株特異的な欠失や変異がある亜株が存在します。亜株の中でメトキシミコール酸の有無によって免疫原性が異なることを報告しています(FEMS Immunol. Med. MicroBiol., 2009)。BCGワクチンは接種後、加齢とともに感染防御能が減少しますが、加齢による免疫低下時(ヒト年齢換算で50歳代後半)にオリゴDNAを接種することで免疫能が回復することを実験動物モデルで示しました(Immunity & Ageing, 2013)。現在、さらにより良い結核ワクチンを目指した研究を進めています。

BCG 2nd Edition -TB vaccine- Application against tuberculosis and other diseaseが出版されました。(2022年8月)BCGは唯一の結核ワクチンで、世界で生まれた乳幼児に広く接種されています。第1版ではBCGワクチンの開発の歴史や疫学的な解析、細菌学的、免疫学的な解析を概説していましたが、第2版ではさらには各国での接種状況や効果、BCG菌の細菌学的、免疫学的な解析の最新の情報から開発中の結核ワクチンの情報等を取り上げ、網羅的に紹介しています。さらに、BCGワクチンの他の疾患(I型糖尿病など)への利用や新型コロナウイルス感染症に対する訓練免疫の効果など最新の内容もわかりやすく紹介しています。本巻は第1版に続きBCGワクチンに関する基礎から応用までを紹介した他に類のない本です。

結核菌・BCG鑑別

 ウシ型結核菌の弱毒株であるBCGはヒトの結核のワクチンとして小児に接種されています。また、膀胱がんの治療薬としても利用されています。ワクチンやがん治療薬の副作用として体内でBCG増殖することがあり、皮下膿瘍や尿等の検体から菌が検出されることがあります。現在、結核菌群とBCGを鑑別する方法としてキャピリアTBが多く使われていますが、BCGの株の中にはTBと同じ測定結果を示すものがあります。臨床の支援として、ゲノムの違いを測定するマルチプレックスPCR法により結核菌群とBCGを鑑別を行っています。

結核菌では、主としてET2とET3プライマーから150 bpが、BCGでは、ET1とET3プライマーから190 bpのPCR産物が得られる。

鑑別を依頼を受けております。
詳細は、結核研究所抗酸菌部 主任研究員 瀧井猛将 (t-takii@jata.or.jp)までお問合せください。

抗菌薬の探索

 糖骨格を持った化合物ライブラリーから探索を進め、多剤耐性結核菌に抗菌活性を示す化合物を複数見いだしました(BMCL, 2009, 2011)。その中の1つOCT313の構造活性相関の研究から抗嫌酒薬であるジスルフィラム(製品名:ノックビン)が多剤耐性結核菌に有効であることを見いだしました(AAC,2012)。ジスルフィラムは感染実験動物でも治療効果が認められました(AAC,2012)。現在、さらに有効な抗結核薬のシーズを探索しています。

 令和4年度AMEDの支援事業「薬剤耐性結核および非結核性抗酸菌症治療薬開発を加速する支援技術の開発」で、結核菌生菌が宿主細胞に傷害活性をもつこと(JICR, 2001 , AAC, 2002, 2005)を基盤にしてin vitro感染細胞を用いたスクリーニング系を構築しました(SFA法)。リアルタイム細胞傷害活性測定装置を導入することにより、従来法と較べて迅速でhigh throughput なスクリーニングが可能です。化合物の抗菌活性の他、time killing効果、化合物の細胞毒性も同時に測定することが可能です。本スクリーニング系の利用したスクリーニングの共同研究を受け付けております。

非結核性抗酸菌の病原性の研究と治療薬の探索

 非結核性抗酸菌(NTM)を原因とした感染症が近年増えています。日本ではMycobacterium aviumとMycobacterium intracellulareを原因菌とした感染症MAC症患者が多いことが知られています。MAC症をはじめNTM症の原因菌の病原性はよくわかっていません。また、有効な治療薬の開発が強く望まれています。現在NTMの病原性の機構の解明やNTMに対して有効な抗菌薬の探索を進めています。

主な業績(詳細はresearch mapをご覧ください)

本研究室では結核菌・抗酸菌の病原性に関する研究と新たな抗菌薬のシーズの探索,ワクチンの研究を展開しています。共同研究等につきましてはお問合せください。

お問合せ先
〒204-8533 東京都清瀬市松山 3-1-24
公益財団法人結核予防会 結核研究所抗酸菌部 瀧井猛将
mail:t-takii@jata.or.jp TEL:042-493-5711(代表)