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「ストップ結核パートナーシップ Briefing Note 1: World Stop TB Day 2005.」和訳(抜粋)
注1.世界目標:はじめWHOがDOTSの基準として設定し,後にストップ計画パートナーシップが正式に2005年までに達成すべき[世界目標]として制定した。発生する塗抹陽性肺結核患者の70%以上を発見し,その85%を治癒させる,これを2005年までに達成すれば世界の結核は遠からず減り出すであろう,としている。 注2. ミレニアム開発目標:2000年9月ニューヨークで開催された国連ミレニアム・サミットに参加した147の国家元首を含む189の加盟国は,21世紀の国際社会の目標として「国連ミレニアム宣言」を採択した。このミレニアム宣言は,平和と安全,開発と貧困,環境,人権とよい統治,アフリカの特別なニーズなどを課題として掲げられ,21世紀の国連の役割に関する明確な方向性を示した。そして国連ミレニアム宣言と1990年代に開催された主要な国際会議やサミットで採択された国際開発目標を統合し,一つの共通の枠組みとしてまとめられたのが「ミレニアム開発目標」(Millennium Development Goals,MDGs)である。「すべての人々に発展を」(“Development for All")のかけ声で国連事務総長の直属プロジェクトとして始められたミレニアム開発目標のための開発計画は,その健康領域のなかに結核の分野を含んでおり,これまでのDOTS拡大の実績の傾向分析・推定と将来予測によって2015年までに結核有病率・結核死亡率を半減することなどが目標として設定されている。
ストップ結核パートナーシップでは,2005年の世界ストップ結核デーは「結核根絶のため最前線で結核と闘う医療従事者及び彼らが担う役割」に焦点を当てる。 この10年間で1600万人が結核の治療を受けてきた。そして医療従事者や服薬確認者の献身的な努力により何百万もの命が救われている。世界には以下のような結核根絶のための強力な組織がある。WHO,ストップ結核パートナーシップ,技術的支援機関,世界銀行,世界エイズ・結核・マラリア対策基金(GFATM),資金提供団体,抗結核薬製造・販売業者,保健省,国家結核対策担当部局,病院,診療所,検査機関などである。これらの組織による活動の最終的な成否は,結核患者を診断・治療・支援し,年間300万人を治癒に導いている医療従事者及び服薬支援に携わっている保健ボランティアの手にかかっている。 このような結核対策における無名の英雄としては,草の根レベルの公衆衛生スタッフ,検査技師,ボランティア,刑務所の医師,開業医や薬剤師,商店主,学者,学生,患者自身,そして多くの場合隣人の幸せを考える一般の人々がいる。このような人々を広くたたえるべきである。 同時に,いまや多くの結核負担国で医療従事者不足の危機が高まり,過去10年間に得られた進歩が損なわれかねない状態になっている。このことを政策決定者に訴えるべきである。さもなければミレニアム開発目標の達成はおぼつかないであろう。
結核根絶のために今日までかなりの進歩があったが,まだ十分とは言えない。有効な治療法が開発されてから50年たった現在でも毎年900万人が結核を発病し,200万人が死亡している。世界保健総会では「2005年末までに推定される世界の全結核患者の70%を発見し,その85%を治癒する」という世界目標が設定された。さらに,この目標を達成するためにストップ結核世界計画 (2001年〜2005年)が策定された。しかし,明年刊行される予定の2003年WHO報告のデータによれば,患者発見率はいまだに44%,治癒率も81%と目標は達成されていない。DOTS実施地域が100%になったとしても,よほどの創造的な新たな努力がない限り患者発見率は50〜60%にしかならないと推定されている。 このような時に2005年の世界ストップ結核デーにおいて医療従事者に焦点を置く理由は次の通りである。
2005年は世界保健総会で設定された世界目標達成の最終期限の年です。世界の結核対策関連機関(途上国,先進国,援助国−被援助国,国際機関,民間団体等々)を糾合した「ストップ結核パートナーシップ」が構築されて以来,世界結核運動がいちだんと強化され,その下でDOTS拡大,結核/HIV対策,DOTSプラス(多剤耐性結核),抗結核薬開発,結核診断開発,結核ワクチン開発等の作業部会が目標達成のためにさまざまな戦略を立て活動を展開しています。WHOは独自の結核対策活動を行いながらも,このパートナーシップの事務局として重要な役割を担っていますが,パートナーシップは組織や財政のうえであくまでも独自の世界運動体です。 やはりWHOが事務局を受け持つ国際機関である「世界抗結核薬基金(Global Drug Facility, GDF)」は,貧困国の結核患者に良質で低価格の抗結核薬を配布する仕組みを短期間で構築し成果を上げています。さらに国連の肝煎りで「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(GFATM)」という新しい強力な資金提供機関が活動を開始し,これを通じて多くの途上国,援助機関,NGO等がエイズ,結核分野に参入するようになりました。結核はこの基金額の15%を受けています。これらの動きは,お金がないから,薬がないから対策が進まない,というこれまでの途上国の悩みにズバリ応えようとするものです。 これに対してWHOはISACイニシアチブ(Intensified Support & Assistance Country)というプロジェクトを開始しました。援助されたモノを効果的に使う技術面の支援を強化しようというものです。日本が40年にわたって続けてきた国際研修のような「人材育成」が,今更ながら,結核対策の非常に大きな課題になってきています。今回のテーマが医療従事者への注目を採り上げた大きな動機がここにあります。 途上国の結核対策を難しくしているその他の原因にエイズ問題があります。結核と密接な関係にあるエイズ対策にはさらに国連エイズ対策本部(UNAIDS)とWHOが「3 by 5(スリーバイファイブ)イニシアティブ」(2005年までに300万人にエイズ治療薬を)という運動を開始し,これによってこれまでは望めなかったエイズ治療薬が大量にエイズ蔓延途上国に入ってくるようになっています。多くのアフリカの国々やアジアの一部地域のようなエイズ蔓延地域では,結核患者の少なからぬ部分(国によりますが10〜80%)がエイズで,結核対策にはエイズ対策の連携は必須です。これまではエイズ治療薬は途上国では使えない,という理由から結核対策はこの問題を避けてきたようなところがあるのですが,これからはそうはいかなくなります。これにはますます有能な人材が必要になります。 ストップ結核パートナーシップは,2015年国連ミレニアム開発目標を自らの目標と定めました。この目標に向けて,ストップ結核パートナーシップにアドボカシー(戦略的普及啓発活動)作業グループが新たに設置されました。今後は国際社会の中だけでなく,国レベルでもこのアドボカシー戦略の作成が重要となるでしょう。このグローバルなアドボカシーである世界ストップ結核デーに,医療従事者問題が採り上げられたことを受けて,日本でもこの問題を日本の問題として考え,それを国内のアドボカシー活動につなげていき,世界に連帯することがますます望まれています。 |
2004年世界結核デー 呼吸するたび唱えよう、「ストップ結核!」もご覧ください。
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