国際協力・結核国際情報センター

国際協力

世界の結核の現状と対策

世界では、発展途上国を中心に未だ結核が蔓延しています。世界の人口の約4分の1がすでに結核に感染しており、WHOによれば2019年の時点では約1000万人が新たに結核を発病し、そのうち約140万人が死亡すると推計されています。

世界保健機関(WHO)は1994年よりDOTS戦略と呼ばれる、

  1. 喀痰塗抹検査による患者発見
  2. 6-8ヶ月の標準化学療法を用い、その間医療従事者あるいはボランティアが患者の服薬支援(DOT)を行う結核治療
  3. 標準的な記録及び報告様式の使用
  4. 薬剤管理を徹底し、在庫払底を防止する
  5. これらに必要な人材及び予算を確保するための高度な政治的意思を担保すること

などを基本とした本格的な結核対策を開始しました。

その後、2006年からはDOTS拡大に加えHIV合併結核、多剤耐性結核等への対応も含めたストップ結核戦略(Stop TB Strategy)が推奨されました。結核対策の改善により、多くの命が救われました。しかし、結核罹患率の減少速度は世界的にみると2%程度と推定され、結核問題の減少は遅々とした状況でした。

2019年の時点で、世界的にみると推定患者数の約30%は、発見又は報告されておらず、結核罹患率の減少を加速させるためには、塗抹陽性結核になる前の早期診断治療、結核発病リスクの高い結核感染者からの発病予防(潜在性結核感染症治療)や結核を発病しても診断されずに取り残されている人たちへの積極的な取り組みなどを促進する必要があります。

2035年までに年間の結核罹患率を2015年の時点に比して90%減少、死亡数を2015年の時点に比して95%減少、結核にかかることによる家計の破綻をゼロとする目標、そのための方策を示した結核終息戦略(End TB Strategy)が2014年に世界保健会議で採択されました。
この目標の実現のためには、結核罹患率の年10%以上の減少を達成することが必要です。年10%減少は、日本において結核の状況が現在のアジアの結核高蔓延国の状況と同様であった1965年から1978年に実現しており、早期診断の活動(検診等)、治療中の患者を支えるシステム(国民皆保険、福祉政策)など、日本の保健福祉政策・結核対策の経験が、世界の結核対策に活用されることが期待されているといえます。

なお、COVID-19パンデミックが結核対策実施を妨げたことにより、結核制圧の道は一時後退することになり、結核対策を再活性させ、さらに強化することが必要です。

活動内容

結核研究所国際協力・結核国際情報センターは、結核予防会の国際協力に関するミッション・ビジョンの下、本部国際部と協力して、事業を進めています。
世界の結核根絶を目指して、関係者と連携しながら、主に、各国の結核対策推進のための技術支援、人材育成、研究、国際結核情報センターの運営に取り組んでいます。

技術支援

結核対策の整備や推進を目的として、アジアとアフリカを中心に、日本の開発援助(ODA)による各国における技術協力プロジェクトや、途上国・国際機関等が行っている活動に、技術的支援を行うとともに専門家を派遣しています。
また、途上国の政府やNGOと協力し、毎年3カ国程度で「結核移動セミナー」を開催し、専門家を派遣しています。国際研修で培われた結核対策関係者とのネットワークを生かし、現地の実状を汲み取った企画や助言を行っています。

人材育成

以下のJICA課題別研修を中心に、世界の結核対策に関わる人材の育成を行っています。

健康危機に対応する結核対策-革新的技術を用いた保健システム構築-
対 象 途上国の結核対策にたずさわる医師等
経 緯 1963(昭和38)年、国際協力事業団の前身である海外技術事業団より委託されて開始し、その後結核問題・対策の変遷・ニーズに合わせて内容を改変しながら継続して、年に1回の研修を実施。
概 要 新結核世界戦略( The End TB Strategy) およびSDGsでは世界的な結核の蔓延を終息させることを目的としており、結核の予防と医療をUHCという広い文脈でとらえ、セクターを超えた取組と新たな技術の活用が必要となる。近年結核対策のみならずCOVID-19など他の保健プログラムでも有用と期待される技術革新が進んでおり、本研修で重視する。本研修では参加者が、自国で結核対策プログラムを強化するための能力を向上させること、結核対策で有用な技術・方策の他の保健プログラムへの適用について理解できることを目的としている
健康危機における結核制圧と薬剤耐性のための最新診断-実施指導による基礎技術から次世代シークエンス-
対 象 途上国の結核細菌検査にたずさわる指導的技術者あるいは検査担当医師
経 緯 1975(昭和50)年に「結核細菌コース(結核対策細菌技術指導者)」を開設、その後、世界の潮流やニーズに合わせ、内容を改変しながら継続して、年に1回の研修を実施している。
概 要 本研修では、結核対策の検査分野における指導者を育成することを目的としている。内容は、検査技術とマネージメントの大きく2つに分けられる。ひとつめの結核菌検査技術は、顕微鏡検査から培養・薬剤感受性試験、そして次世代シークエンスなどの最新の遺伝子検査まで、ほとんどの結核菌検査を網羅した総合的な内容を学ぶことができる。また、ふたつめのマネージメントについては、教授法(教え方)、トレーニング法、品質保証・精度管理なども理解・身につけ、問題解決の手法を学びながら帰国後の自分たちの活動計画を策定する。
結核国際協力派遣前専門家研修事業(日本人対象)

各国からの技術支援への要請に応え、海外で結核対策の指導を行える若い人材を育成するために、上記研修への受講などを通じて途上国結核対策への技術支援に関する知識技術を習得する日本人研修生を募集しています(原則年2回・トップ頁「お知らせ」に募集要項を掲載)。

問い合わせ先

国際協力・結核国際情報センター国際研修科
kokusai@jata.or.jp

 
国際研修卒業生分布図

結核国際研修50年記念報告(複十字 No.346)

結核国際研修50周年記念式典・シンポジウム報告書(PDFファイル 47MB)

研究

開発途上国の結核問題と対策の改善を目的とした研究や、日本と同様の問題を抱えている結核中蔓延国の対策についての比較研究などを行っています。 研究の多くは国際協力活動における経験や情報を生かして実施され、今後の活動の向上に資することを目的としています。

国際的な連携

国際的なレベルで結核根絶に取り組んでいる世界保健機関(WHO)、ストップ結核パートナーシップ、国際結核肺疾患予防連合(IUATLD)等のメンバーとして、スタッフが運営及び調査や研究等の活動に参加しています。
また、結核研究所は「WHO指定協力センター」に指定されており、結核のサーベイランス、調査、研究、研修、各国の結核対策への技術的助言、抗酸菌レファランスラボラトリーといった活動を通じて、WHO西太平洋地域事務局に協力し、当該地域の結核問題の改善に尽力しています。

結核国際情報センター

結核国際情報センターを設置し、各国の結核情報及びその関連分野に関する情報の収集・管理を行っています。また、国際研修の修了生を対象として、ネットワークの強化及び結核対策の重点課題等の情報を提供するためにニュースレターを年1回発行しています。

News Letter from Kiyose

No.39,March 2024

No.38,March 2023

No.37,December 2021

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