青森県の特対 これまでの歩み青森県健康福祉部 地域福祉健康課 疾病予防班主事 谷地 和子 |
表1 青森県の特対の主な取り組み はじめに
本州の北のはずれ青森県で結核対策に取り組んで3年、やっと結核対策の何らかがわかってきたようななんとも頼りない担当者です。 さて、頼りないながらも、保健所の担当者の叱咤激励と、協力のおかげでがんばっている本県の特対事業について紹介します。
本県は罹患率、有病率、死亡率、また、平均入院期間及び有病期間とどれを取っても全国平均より高く、全国対比された時、常にといっていいほど下から数えた方が早い県でした。 これら指標を低下させ、全国平均以下にすることを目標として、昭和61年度から各種施策を行ってきました。その主な事業は、表1のとおりです。
主な事業の概要
それではその中のいくつかを紹介していきたいと思います。
@結核予防関係職員研修及び伝達講習会
結核研究所が実施する研修に、放射線技師、臨床検査技師、保健婦、行政すべての職種を派遣し、復習と新しい知識の習得をはかり、 さらにそれを事業に反映させるべく、研修修了者からの伝達講習会を開催しています。(最も参加してほしい医師は、なかなか派遣が難しい。)
A初感染結核調査
本県では、初感染結核の罹患率が高いことが目立ちました。平成7年の全結核罹患率は、47都道府県の中で低い方から第32位でしたが、 マル初罹患率は最も高率という結果でした。そこで、初感染結核の発生、登録、服薬状況を把握し、罹患率の低減を図るための基礎資料を得ることを目的として、 平成7年度に「初感染結核調査」を実施しました。青木先生に調査票作成時からアドバイスをいただき、調査結果の分析解説までお願いし、 本年7月17日には青森までお出でいただいて、「初感染結核調査研修会」を開催したものです。
結果として、青森県はとてもまじめに事業に取り組んでいる。しかし、そのまじめさが逆に初感染結核が多い原因であるという実に複雑な事実が明らかになりました。 というのは、今回の調査結果のほとんどの例で、ツ反応の大きさは国が示している初感染結核の適用区分の基準に合致しているからです。すなわちツ反応・BCGをしっかり行い、 国の基準に沿って化学予防を実施した成果が、初感染結核が多いという結果となって現れたのでした。
この調査結果から、ツ反応・BCG接種技術の確認と、本県の実状に即したマル初基準の見直し等が、今後の本県の大きな課題であり、また、本県のみならず、全国的にも大きな課題となるものと考えられました。
B結核医療精度管理事業
図1 青森県及び全国の全結核有病期間の推移
本県は平均入院期間及び有病期間が長いことから、早くから結核対策の技術的なレベルの向上を図るため、結核医療精度管理事業として「症例検討会」を開催してきました。
症例検討については、結核診査会委員、結核指定医療機関の医師等を対象に、結核登録管理後1年を経過した者を対象として、X線フィルムとビジブルカード等をもとに、 治療の効果、今後の対応について検討。併せて結核診査会の機能の強化を図ったものです。
検討会では、青木先生、和田先生から症例ごとに的確なアドバイスと手厳しい意見もいただきました。また、診査会の委員から、治療経過中の投薬の切り替え時期、治療の中止時期の決断ができなかった症例の反省と、 検討会での指導を今後の結核診査会に反映させていきますという意見があったことが、とても印象に残りました。
本県の特対事業は昭和61年度からスタートしたものですが、その中で精度管理事業は早くからの取り組みだったことから、その成果には目覚ましいものがありました。 本県の全結核の有病期間は、昭和58年には平均4年3カ月と全国47都道府県中、長い方から第3位でしたが、平成7年には15.4カ月となり、全国平均を下回ることはもちろん、 短い方から第7位となるまで改善されました(図1)。
Cツ反応・BCG接種技術研修会
平成7年度から2年計画で全11保健所にて、症例検討に併せ、乳幼児期や小・中学校でBCG接種を行っている医師等に対し、「ツ反応・BCG接種技術研修会」を開催しました。 接種技術の善し悪しが結核の罹患率、有病率の低減と、また、小・中学校における集団感染の防止、小児結核の早期根絶に大きく寄するということが事務担当の私には新しい知識でした。
Dツ反応・BCGサーベイランス事業
同年度からは、本県の特対事業のモデル地区であった、むつ保健所がすでに実施していた「ツ反応・BCGサーベイランス事業」を全保健所でも開始しました。 サーベイランスのデータは、医師会、市町村関係機関に還元するとともに、各保健所において関係者を集めて実施する「結核実務者研修会」の研修資料としても活用しています。
この分析結果が、技術の地域格差をはっきりと示すことに驚き、また、この事業を継続することにより今後の青森県の結核の現状が大きく変わることを確信しています。
目標は高く、沖縄県に追いつき追いこせです。結核の現状を改善していくためにはまずデータが必要であるということを、初感染調査、サーベイランス事業、 次に紹介するコホート調査等で実感しています。
Eコホート観察調査
「コホート調査」の調査結果については、毎年山下先生にお出でいただいて「コホート調査研修会」を開催し、本県の実態を解説していただくとともに、 併せて保健婦活動の研修の場となり、保健指導のよい刺激になっていると思います。
本県でも、この4月から保健所の統廃合により、従来の11保健所から8保健所1支所となりました。このことにより現場での活動の場が広くなり、 地域へのきめ細かな配慮がより難しいものになると思いますが、そんな中でも現場の担当者の熱いエネルギーを感じています。
F胸部X線撮影フィルム評価事業
本県の保健所の結核業務担当者はほとんど放射線技師です。結核予防法が改正され、菌所見が重視されることとなりましたが、X線撮影技術もまた結核業務に欠かせないものです。 このことから、撮影技術の向上を図るため、青森県総合健診センター(結核予防会青森県支部)の協力を得ながら、各保健所、県内で検診事業を行っている医療機関等を対象に「胸部X線撮影フィルム評価事業」 を実施しています。
これは、お互いの撮影フィルムを持ち寄り、撮影技術を評価し、読影技術を学ぶものです。本事業での本県の評価はB上であり、Aまであと一歩です。
G結核既往者呼吸教室
本県では平成元年度に低肺機能者の実態を明らかにするため「青森県低肺機能者実態調査」を実施しました。そして、その報告書をとりまとめ、平成2年度に青森保健所で初めて「結核既往者呼吸教室」を開催し、 平成6年度からは全保健所で毎年開催しています。呼吸療法、運動療法等の実技指導等を通して日常生活の手助けとなるよう努力しています。 また、パルスオキシメータ等医療機器の整備にも努めています。
成果と新たな取り組み
本県の結核の現状は、全国レベルにはまだまだ遠いものがありますが、これまで実施してきた結核対策が功を奏して、平成5年に初めて罹患率が全国平均以下となり、さらに平成6年には罹患率、有病率とも全国平均よりも低くなりました(図2)。 担当者の努力が着実に実りあるものとなっているのです。「青森県の結核は良くなった。」とほめられる度にそれを励みに一歩一歩前進しています。
図2 有病率の推移
これらの事業に加えて、本県のもう一つの課題は、住民検診等の検診率の向上です。結核に対する正しい知識の普及と検診の必要性の呼びかけを地域の実情に合わせた対策として考えていることが必要と思っています。
また、遅いスタートではありますが、本県では昨年度末「結核業務検討会」を組織し、結核業務遂行上の問題点の検討の場として活動しています。 委員は保健所から、医師、放射線技師、臨床検査技師、保健婦、そして行政から2名の計7名で組織されています。
各関係業務のマニュアル作りを手始めに、保健所における問題点、今後の青森県の実状に即した結核対策の取り組み等、結核業務担当者の検討の場として今後も活動していくこととしています。
これまで全国の担当者の皆さんの実状を聞ける機会はあまりありませんでした。その中で、結核研究所主催で6月に行われたコホート調査説明会での各都道府県、政令市の皆さんの生の声とやる気に、 衝撃を受けています。