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東京都では、平成9年3月から「世界結核デー」を記念して、結核に関する講演会を行っている。本年は、サンフランシスコ市、フランシス・カーリ国立結核センター、サンフランシスコ総合病院等において、結核の行政・臨床・教育の各分野で幅広く活躍されているチヤールズ・デイリー医師をお招きして講演会を実施した。
東京都の講演に先立って、東京大学付属医科学研究所においてエイズ・結核合併症についての講演会が行われた。トピツクスは広範にわたったが、サンフランシスコ市にはHIV感染者と結核の多い国からの移民の集団があり、両者の遭遇で爆発的に結核が広がった事例の紹介に始まり、HIV感染者でCTで気管分岐部下のリンパ節に壊死を伴った腫脹が見られれば結核を疑うべきこと、また抗結核薬と抗HIV薬間の相互作用は複雑で、その適切な使用のためには専門家によるガイドラインが必要であることなどが解説された。
その後、東京都の講演会がアルカディア市ケ谷(千代田区)にて行われた。前半は、院内感染対策についての講演であり、@病院管理体制、A陰圧室、HEPAフィルターなどの施設整備、B個人の感染予防策といった三つのレベルの院内感染対策についてそれぞれ解説が行われた。フランシス・カーリ国立結核センターでは、専門のエンジニアによる施設整備のコンサルトも行っており、実務に基づいた講演であった。
後半の講演では、サンフランシスコ市独自の結核対策について説明があった。
DOT(直接確認治療)は、サンフランシスコでは一部の市民に提供しているに過ぎないが、それでも塗抹陽性患者をはじめ、アルコール依存症患者、再発例などで全員に行われ、全患者の約60%がDOTで治療されていることになる。
サンフランシスコ市における治療完了率は、96−98%を維持しており、毎月行政関係者が患者の治療経過についてカンファランスを行っている模様もスライドで紹介された。
DOTS戦略について、サンフランシスコ市ではDOTS戦略は採用していないと力説された。アフリカを含め、HIV感染者の多い地域では、塗抹陽性患者だけを対象にしたのでは不十分であることがその第一の理由であるという。
また、サンフランシスコ市では、新たな移民には積極的にツベルクリン反応を実施し(実施率90%以上)、感染者には積極的に化学予防を行っていることも紹介された。発病者ではなく、感染者の発見であることに留意したい。
日本においては、結核対策事業費の大半は、医療費の公費負担を別にすると、患者を発見するための健康診断とBCGに使われており、東京都も例外ではない。21世紀における結核対策の軸足を考える上でも有効な講演であった。