Press Release WHO/79
(1998年10月28日)
ホワイトハウスにおける結核に関する頂上会談
結核研究所事務部
江川 優子 訳
財閥当主、世銀総裁、WHO事務総長らヒラリー夫人と会談
薬剤耐性結核問題の対策のために必要とされる緊急措置をめぐって
ワシントン発: 米大統領夫人ヒラリー・クリントン女史の招待により、厚生省長官シャララ女史(Donna E Shalala)、米国国際開発事業団(USAID)理事アトウッド氏(Brian Atwood)、世界保健機関(WHO)事務総長ブルントランド博士(Gro Harlem Brundtland)、世界銀行総裁ウォルフェンゾーン氏(James D Wolfensohn)と財閥当主ソロス氏(George Soros)が、結核対策と薬剤耐性結核問題の発生を防止のために可能な活動計画について話し合うため、本日午後ホワイトハウスにおいて、ヒラリー夫人と会談を行った。
そのようなイニシアチブによって、何百万ドルもの金額が結核制圧のための国際的な努力を促進するための新しい資金として投入され、その大部分が結核の高蔓延国における結核との戦いに直接投資されることと期待される。結核制圧に努力する人々が直面している問題の解決策を打ち出すためには、結核問題に対するより一層の国際的関心が必要である。一つの大きな課題は、効果的な抗結核薬が世界中のどこででも入手できるようにすることである。DOTS(Directly Observed Treatment, Short-Course、直接監視下短期化学療法)といわれる方策は上記の課題を遂行するためにWHOによって推奨されているものである(DOTSについての注釈を参照)。同時に、最終的な結核根絶の手助けとなる新しい技術の開発もまた重要である。
現在、結核は若者と大人の最も重大な感染症であり、毎年200〜300万人の死者を出している。さらに多剤耐性結核(MDR-TB)という、かつては効果的であった薬剤では治療できないかたちでの結核発生も起こっている。
1997年10月、WHOは世界中で多剤耐性結核「危険地帯」が生まれつつあることに警告を発した。このような地域では高度で高価な医療を受けられない人々にとっては、結核は不治の病である。多剤耐性結核の治療は経費が通常の100倍以上にもなり、先進国では患者ひとりあたり250,000 USドル(約3千万円)にも及ぶ。同時にそれによる死亡率も相当高い。
薬剤耐性をくい止めるために行われる方策は3つある。第一に、世界の国々がDOTSの適用を拡大できるように援助することである。これによって強力な抗結核薬が適切に使用されるようになる。これが多剤耐性結核の発生を予防する効果があることは、韓国、アルジェリア、チリ、タンザニア、ニューヨークなどで示されている。第二に、現在薬剤耐性結核で苦しんでいる患者を治療するための強化されたDOTS、つまり「DOTSプラス」として知られる方策の研究を進めることである。そして第三に、いつの日か結核の脅威を完全になくすため、新しい技術を開発する研究の長期的展望を育成することである。
結核と戦うためのいっそうの資金と政治的関与が得られなければ、現在地球上に生きている2億人以上の人々が今後結核に侵されることになると算定している。結核の予備知識
死亡−結核は1年におよそ3百万人の死亡者を出しており、世界で最も重大な、若者と大人の感染症である。結核はまた世界のエイズ死亡者の3分の1を占めている。結核のために毎年何百何千もの子供が孤児となり、結核それだけで若い女性のもっと大きな死亡原因である。10秒に一人の割合で、結核によって誰かが命を落としている。
経済的負担―結核患者の80%が、人生で最も働き盛りの時期である。結核は多くの自立した家庭を貧困に陥れている。もし家族の稼ぎ手が適切な診断や治療を受けなければ、彼または彼女は1年分の仕事を失うことになるだろう。
薬剤耐性―多剤薬剤耐性結核は、ロシアやバルト諸国を含むいくつかの国々において重大な脅威となってきている。例えば、ラトビアでは、結核患者の22パーセントが2つまたはそれ以上の抗結核薬への耐性をもっている。貧弱な治療実施体制が多剤薬剤耐性結核の原因である。薬剤耐性は、患者が間違った薬をもらい、薬の供給に信頼性がなく、また気分がよくなったからといって患者が服薬をやめてしまう、というようなことによって出来上がる。2つもしくはそれ以上の最も重要な薬に耐性がついてしまった結核の治療には通常の100倍も経費がかかり、しかもなかなか治らない。
DOTS戦略―DOTSは結核患者を見つけ出し、治療し、新たな感染を予防するために適用できる最も効果的な対策である。それは、過去20年以上にわたる結核に関する集団的な最善の診療、臨床試験、対策計画のなかでの実践から開発されたものである。DOTSで重要なのは服薬の直接監視だけではなく、政府の関与、顕微鏡検査サービス、確実な薬の供給、モニタリングシステムも必要である。DOTSは豊かな国であれ貧しい国であれ、あらゆる国で95%程度の高い治癒率を達成する手助けとなりうる。中国、ペルー、ベトナム、バングラデシュ、アメリカ合衆国のように様々な国での成功例がある。
DOTSの利点―それは戦略としてひろく普及するよう一般保健サービスにうまく組み込まれている。DOTSは入院も隔離も必要としない。患者は家庭にとどまり数週間後には仕事にも復帰できる。DOTSはHIV陽性の人々を延命させるための最も実施可能な方法の一つである。
DOTSの対経費効率―DOTSは、しばしば致命的であり治療に100倍もの経費を必要とする多剤薬剤耐性の予防の助けとなる。世界銀行は、DOTSは最も対経費効率のよい健康対策の一つとみなしている。DOTSの6ヶ月治療の薬剤はいくつかの発展途上国では10ドルから20ドルという低い経費である。DOTSは、あらゆる国の政府にとって妥当な経済投資である。例えば、タイにおけるDOTSの適切な実施は20年間に23億ドルの節約をもたらしうるものである。
DOTSの成功―DOTSは1990年代で最も迅速に普及し成功した保健介入の一つである。この10年間でDOTSを実施する国の数は12カ国から100カ国近くまで、劇的に増加した。最近の3年間では100万人の結核患者がDOTSによる治療を受けている。