WHO西太平洋地域委員会が「結核危機」を宣言


WHO西太平洋地域事務局第50回会議(1999年9月13日〜17日


(訳:結核研究所国際協力部 木村もりよ)

 WHO西太平洋地域委員会は管轄地域の「結核危機」を宣言した。1998年、同地域ではおよそ35万5千人の人が結核で命を落としたと推定される。先頃、委員会は西太平洋地域での成果を見直すべく、マカオで会議を行い、過去10年間に結核届け出患者数は増えつづけていることを報告した。また、結核は途上国のみならず、新興工業国ないしは先進国の中でも重篤な公衆衛生学的問題だと指摘している。同地域では、新興工業国や先進国において結核患者の数としての減少はほとんど、あるいは全く見られず、これは一部は高齢者の結核患者が増加したこと、および結核蔓延国から結核が持ち込まれたためである。
 WPRO事務局長の尾身茂博士は、「西太平洋地域の結核患者数が増加した状態で2000年代に突入することは許されない」と発言した。
 同地域における結核蔓延を断ち切るという強い決意をもって尾身博士は、WHO結核特別プロジェクトとして「西太平洋ストップTB」戦略を展開することを宣言した。
 その中で尾身博士は、全世界の結核の約29%は西太平洋地域が負うているとして、世界諸国にこの新しい結核プロジェクトに対する支援を呼びかけた。「もし、我々が政治的意志を持って取り組むならば、この地域における結核患者数を10年のうちに半減することが可能である。」
 結核問題が深刻化していく中で、WHOの推奨するDOTS戦略を用いた結核対策を強化することをWHOの加盟国に強く求めた。「事態が極度に重篤な状況にあったとしても、我々にはすでに安価で対経費効果的な結核戦略を手にしている。」1人の患者が6ヶ月間化学療法を終了するには、20ドルから30ドル程度で済む。DOTSは90%の結核患者を治癒せしめることが可能であり、感染源対策により感染の拡大をくい止められる。さらに、DOTSを用いて患者の服薬を完全にすることにより、薬剤耐性の出現も防げる。尾身博士は中国におけるいくつかの地域で行ったDOTS導入の成果を引用し、こう語った。「結核死亡率は1991年の30%から1994年の7%に激減した。DOTSが西太平洋地域全域で行われれば、この地域でも同様の成果が期待でき、毎年何万人もの人命を救うことになるであろう。」

 DOTS戦略拡大を妨げる因子としては、政治的に政府の十分な関与が得られないことがあり、このことが結核蔓延国の大部分における結核政策の軽視を生んでいる。結核患者数を大幅に減らそうとするならば、これら結核蔓延国の特別な対策努力が必要になる。未だDOTSが導入されていない多くの太平洋諸島や地域に対しても、DOTSが適用されるようにする必要がある。

 西太平洋地域における感染性結核患者届け出数は、1994年の人口10万対18から1998年の23へと28%の増加をみた。これから推定すると1998年には196万人もの結核新患者が同地域において発生し、そのうちの43%だけが届出されたということになる。

 1993年にWHOの結核緊急事態が宣言されたとはいえ、西太平洋地域での結核対策はごくわずかに前進したとしか言えない。1999年6月30日現在、DOTSを実施しているのは34の国・地域のうち18だけである。届出患者のうち、DOTSで治療されている者は1996年の30%から1998年の46%に増加してはいるものの、裏を返せば同地域の半数以上の届出患者にDOTSが行われていないということになる。

 もう一つの問題はHIVと結核の複合感染である。西太平洋地域全体としてはまだ低率であるが、カンボジアの首都プノンペンではHIVと合併した結核患者が1994年の8%から1997年の15%に増加している。この数はこれから数年間のうちに、もっと増えるだろうと予想されている。

 西太平洋地域の結核は、結核患者発見率、治癒率が上昇し、DOTSが普及しない限りは減少しえない。現在のDOTSの実施状況では、今から20年間、結核は減ることはない。だが、DOTSが急速に拡大し、2005年までに同地域全体に広がれば、10年間で結核患者数は半減する可能性が大きい。
 「DOTS拡大の確保はWHOの最重要課題である」と尾身博士は語った。「すべてのWHO西太平洋支部加盟国が我々と共に結核対策を最重要課題として取り組むよう期待する。その中で、DOTSを保健セクター開発の枠組みの中に取り入れてゆきたい。皆が共同すれば、10年間に結核患者数半減という我々の目標は必ず達成されるものと信ずる。」

WHO原文:WP/RC50/PR/4