結核研究所は、1939年の設立以来70年にわたり、日本および世界の結核対策を支えるための研究と人材育成を使命とした国を代表する研究所としての機能を果たしてきました。設立当時国民の間で猛威を振るった結核は著しい改善を来しましたが、その中で当結核研究所は、国および地方公共団体に対する新しい政策の提言、対策に関わる人材育成、情報発信、技術の開発、国際協力など、他の機関ができない重要な役割を果たしてきました。

 結核の流行を日本より早く経験し、低まん延化を来したてきた欧米先進諸国でも、現今、問題が解決したわけではなく、移民や社会的弱者の発病増加、HIVや糖尿病などの結核発病を促進する合併症など様々な対策上の課題を抱えています。数が減っても火種が社会の中で長く残り続けるため、公衆衛生の危機管理上おろそかに出来ない対策課題として捉えられています。わが国では、特に高齢者の結核問題が大きな課題であり、複雑化していること、都市部での若年者に小ピークがあること、1万人以上が感染性の高い塗抹陽性患者として発病しており、学校・職場などでの思いがけない集団感染事件や、多剤耐性患者・超多剤耐性患者の発生など益々看過できない課題が出てきています。

 当研究所は、対策現場に密着した研究や人材育成という基本姿勢を保ちつつ、時代に対応した活動内容や組織編成を行ってきました。低まん延移行期になった現在、「あり方検討委員会」の提言を取り入れ、結核菌検査・保管施設(菌バンク)や疫学情報センターの設置、低まん延化(罹患率人口10万対10以下)を促進するための研究体制強化を狙った組織変更を行いました。新しい診断法や分子疫学の新技術を用いた感染経路の分析、新薬・新治療法の開発も試みられています。国際協力の実績は世界的にも高い評価を得ていますが、世界的な取り組みなしには、自国の結核制圧もありえません。

結核研究所は今後とも皆様のご理解、ご協力、ご支援を頂きながら、地道な活動を続けていく所存です。




                     
        
       財団法人結核予防会結核研究所
                 所長 石川 信克