ゲノム疫学に関する研究

研究枠内

国際医療協力研究委託事業慶長班「開発途上国における疾病のゲノム疫学的解析のための倫理指針整備と応用14-9

平成14-16年度 野内分担研究分分担研究課題名「タイ国における結核病のゲノム疫学研究のケース・スタディー」

 

研究目的

ヒトの結核症をそのまま動物実験で再現し難い今日、その解答は臨床研究、特にヒトゲノム情報を活用した詳細な疫学研究にブレークスルーが期待される。本研究はタイ国を対象に、結核病のゲノム疫学研究のケース・スタディーを実施する。

 

研究方法

本研究チームは平成7年度より、疫学研究に適したタイ国最北端のチェンライ県で、県保健局の監視下で緊密な協力をして、死亡統計や結核とエイズのサーベイランスをコンピュータ化している。例えば、チェンライ県全域の結核患者登録データ-ベースは、1987年まで遡って入力し、様々な項目を追加強化して結核患者の発生動向を評価している。また、分子疫学的研究が地域レベルで出来る様に、結核菌体の保存を1996年以来、続けている。タイ国は本年10月1日より国民皆健康保険制度を確立し、地域住民が一次医療診療所に登録され、家族のケアを含めて包括的に且つ継続的に医療を受けるシステムとなった。また、住民登録制度の精度が高い(名字が家族に特有で、国民総背番号制度を使用)ので、地域レベルでのコホート研究の推進基盤が整っている。1987年からの結核登録で登録さて手いる結核患者を、後ろ向き研究を、2001年からの前向き研究と併用している。

 

個々人毎のインフォームド・コンセントに基づき、チェンライ県で発見された結核患者の家族にコンタクトし、質問表調査とツベルクリン検査を含む結核スクリーニング、HIV検査の為の血液採取を行っている。罹患同胞対分析とFamilial-based association study を第1義としてサンプルを収集している。具体的には、ASP: affected sib-pair ARP:affected relative pair、とTDT(transmission/disequilibrium test)の対応する家系(Trio, in-complete Trio)を同定している。通常の case control study も可能になる様に、各300例の結核症例と300例のコントロールの収集も目標としている。この患者と家族をフォローアップして、結核の発病や死亡の有無を見る。採血した血液は、プラズマとPBMCに分離して保存するシステムを確立している。

 

研究結果

現在まで、20021215日までの全県の既登録患者(Retrospective17,216人を検討した。発端患者となりうる喀痰塗末陽性肺結核患者は8,586人(喀痰塗末陰性肺結核患者6,296人、喀痰塗末結果不明肺結核患者1,306人、肺外結核のみ2,611人)には結核患者526人(HIV陽性者221人、HIV陰性者305人)であった。この発端家族より家族性遺伝疫学研究の対象となる家族が124家族(ASP22例、ARP35例、Trio64例、Incomplete Trio2例)発見された。家族性が認められないのが確定された患者は811人、入獄中が73人、他県への移動が260人、死亡が3,756人(うち、死亡登録データーベースより3,096例、フィールド調査より156例)確認されているが、現在残りの1,798人について年密な家族性の検討をしている(うち67例は結核の家族暦が問診であり、現在、研究スタッフで直接に家庭訪問をしている)前向き(Prospective)に質問表を元に12人のASP24人のARP64人のTrio43人のIn-complete Triを同定した。倫理面で、血液検体の国際的な移動が問題とならない事を検討し、Material Transfer agreement 2003年8月に結んだ。日本への検体移動を試行し、2004年度よりの実験開始に備えたい。

 

結核対策への貢献

タイ国を対象に、主任研究者が進められる国際ワーキンググループの検討資料となりうる、結核病のゲノム疫学研究のケース・スタディーを実施している。本研究チームは、結核の遺伝疫学研究の為の結核患者及びその同胞両親等家族のヒト血液サンプルの収集保存をする研究計画に対して、個人別インフォームドコンセントを徹底させる事で、2002年3月にタイ保健省倫理委員会の認可を得た。しかし、より綿密にデーターと検体管理に関するSOP(Standard Operation Procedure)、オーナーシップに関する取り決め等の具体的な実施指針を作製しなければならない。更に、この検体バンクを活用したDNA解析のプロトコールを作製・実施する際、技術移転の問題、将来の科学的発見の知的保有権、患者・地域・保健政策への還元の問題が問われよう。上記検体バンクのカウンターパートのタイNIHのパトム所長は、タイ国ゲノム医学研究推進の中枢メンバーでもある。地域裨益性、対象国における意義として、検体収集システムと検体バンクは、新進の研究者(医学部卒後5年目)であるタイ保健省NIH所属のDr. Surakameth Mahasirimongkol とマヒドン大学シリラート医学部博士課程Jutaporn Yorsangsukkamolの両名をタイNIH所長のDr.Pathom Sawanpanyalertとシリラート医学部教授Angkana Chaiprasert 氏の監督下に研究に参画して貰い、実施すると共に、将来の基礎免疫学的、遺伝学的研究の研究計画を企画している。結核研究所は日本での国際研修の卒業生(例:6人のエイズと結核の国際研修卒業生がチェンライ在住)とチームを組み信頼関係を持ち継続している。