DOTSとは?
DOTSとは、英語のDirectly Observed Treatment(直接監視下治療)の略語であるDOTとShort
Course Chemotherapy(短期化学療法) の頭文字のSから作られた言葉です。これは、短期化学療法の治療方式を用いて、
治療監督者が患者の服薬を直接目で確認して行う治療を意味します。WHOは、DOTSを結核対策における世界戦略の
中心として位置づけ、その導入を強く提唱しています。
ネパールにおけるDOTSの曙
初めてネパールにDOTSを導入したのはジェネタップというドイツのNGO(非政府機関)でした。都市地域における
結核対策のモデル作りを狙いとして、首都カトマンズにおいて、1980年代から外来治療によるDOTSを開始したのです。
彼らの用いた方式は、治療の全期間を通じて週3回間歇短期化学療法(主要4剤による2ヶ月間の初期強化治療と2剤による
7ヶ月間の維持治療の計9ヶ月)を行うことでした。服薬管理は、外来において現地スタッフによる直接監視下投与により、行われました。
1990年から1993年までの4年間の登録患者における治療完了率は84%を示し、DOTSが有効であることが証明されました。
服薬を確認するヘルスセンタ−のスタッフ
国の結核対策としてのDOTSの歩み
ネパール国が結核対策として初めてDOTSを導入したのは1995年の11月からでした。その年の5月に同国政府とWHOの合同
による結核対策の評価が行われ、治療結果の改善が最優先課題として指摘されました。それを受けて、ネパール国家結核センターは、
全国から8つの県をモデル地域として選び、DOTSの試行を始めました。服薬確認の監督者とその場所については、方法に優先順位を
つけることにしました。まず、できれば入院、あるいは外来治療、外来に来れないならば地域保健ワーカーによる服薬の確認、それも
無理ならば患者家族が服薬の確認をする、という順序で設定しました。すると、患者の大半は、治療監督者に患者家族を選んでしまい、
実際には自己確認している事例も出てきました。また、医療施設近隣に居住し、外来治療によるDOTSが可能な患者でも、患者家族を
監督者としている事例もみられました。これらの反省から、1996年4月より治療監督者を政府系医療機関の医療従事者に限定した毎日法
DOTSが、新たに選定された4地域(人口の集中しているタライ平野地域の4県)において開始されました。国際協力事業団の結核対策
プロジェクトが、そのうちの1つ(ナワルパラシ県)において、DOTSの導入に協力しました。また、ネパール結核予防会や
他の多くの民間団体が、外来診療活動のボランテイアや脱落患者追跡などに協力しました。ここでは、日本製薬協会や日本政府からの
抗結核薬の援助が、DOTSの必須条件である薬剤の安定供給に大きな役割を果たしました。これらの4地域は、この2月に行われた
国際評価において、診療者による監督が適切に行われていることが評価され、喀痰菌陰性化率についても良好な結果が得られました。
この成功を受けて、国家結核センターは、DOTSを他地域に拡大するために、現在新年度地域拡大計画を現在作成中です。
ルンビニプロジェクト
日本の結核予防会とネパール結核予防会の協力によるルンビニ結核対策モデルプロジェクトは、1993年から始まりました。
同プロジェクトでは、1996年11月よりルンビニヘルスセンタ−と他2つのサブヘルスセンタ−において、直視下治療の試みを始めました。
同プロジェクトが活動しているルパンディ県内の周辺の政府系医療施設ではまだ短期化学療法が導入されていないので、
この試みの成功とその後の対象地域の拡大が期待されています。
ヘルスセンタ−スタッフ研修用の教材より
今後の課題
ネパ−ルは山岳地が多く、移動手段が未発達であるという地理的状況や、政府系保健医療機関の未整備などの厳しい条件を抱えており、
医療施設の診療者のみに治療監督者を限定していては、全患者に毎日法DOTSを施行することは不可能です。今後は、政府系医療機関
と援助機関だけではなく、NGO、地域自治会組織などを巻き込んだ形で、DOTSを強化、展開していく必要があります。
DOTSという新しい戦略のもとに、ネパールに対する日本の官民両面からの協力が、一つの実を結びつつあると言えましょう。