胸部直接・間接撮影の違いと特徴

結核研究所研修部
放射線学科長 中野静男

はじめに
 「咳がひどく病院に行ったら胸の写真を撮った」などと聞きますが、病院や診療所での撮影は直接撮影 というものです。また、学校や職場に検診車が来て胸の写真を撮りますが、こういう場合は間接撮影 というものです。
 このほか、胸部X線写真といっても、装置や撮影方法の違いでいろいろな写真があり ます。まず、本題に入る前に簡単に説明し整理しておきたいと思います。

 

いろいろな胸部X線写真

1.直接写真…説明は次項で
2.間接写真…説明は次項で
3.断層写真
 X線管とフィルムを、断層 面を中心に互いに反対方向に等速度運動させ、必要な断層面を撮影する
4.CT写真
 身体の回りをX 線管が回転し、目的部位の横断面の吸収差をコンピュータで処理し、身体の輪切断層をデジタル写真と して作る
5.CR写真
 イメージング・プレート(従来法ではフィルム)にX線撮影し、 これをレーザービームで読み取りデジタル処理し写真を作る
6.造影写真
 血管や気管支等に造影剤を注入し、血管等の走行や造影剤の溜まりを フィルム等に撮影する

 

直接撮影・間接撮影の原理

1.直接撮影とは
 人体を透過したX線は吸収の度合いに応じて、増感紙(蛍光体でX線を吸収すると緑 色や青色を発する)を発光させ、増感紙に挟み込まれたフィルムにX線像が写される。蛍光体とフィル ムが直接密着しているので直接撮影といわれている。フィルムには実物大のX線像が写る(図1)
図1 図2 写真1 間接フィルム

 

2.間接撮影とは
 人体を透過したX線は吸収の度合いに応じて、蛍光板に可視光としてX線像を結像さ せる。これを離れた位置からカメラ(ミラーやレンズ)で撮影する。蛍光体とフィルムは離れているの で、間接撮影といわれている(図2)。フィルムには縮小された像が写る。フィルムは1コマが100 ミリ×100ミリでロールフィルムになっている。縮小像を読影するので、拡大レンズ(1.5倍が適 当)の付いた、間接フィルム用観察器で見る(写真1)

 

直接と間接との病巣発見能カの比較

 同一人に直接撮影と間接撮影を行い、間接フィルムの質が結核予防会の評価基準でB評価(読影に支障 を来さないもの)を与えられたものを選び出し、直接撮影で病巣の大きさを計測し、それぞれの病巣の 発見能力を比較してみたものが表1である(評価は結核研究所の医師、研修部医学科に研修中の医師で 行った)。
 この表から、病巣発見能力と病巣の大きさには密接な関係があることがわかる。病巣の大き さが3〜5ミリの場合だと、病巣発見能力が「直接の方が間接より著しく優れている」2.1%、 「わずかに優れている」8.2%とあり、「間接の方が直接よりわずかに優れている」3.9%であること から、間接が少し劣っていることになる。6〜10ミリの病巣になると直接も間接も発見能力に差がな いことが分かる。
 ここで注目したいのは、病巣発見能力について総数で「間接の方が直接より著しく優 れている」と「間接の方が直接よりわずかに優れている」の率を合わすと、全体として間接が良かった 率が3.5%あったことである。  このことから、物理的実験等をしないで軽々しく言えないが 、病巣の腫瘤の性状によっては、間接撮影は縮小してフィルムに写 るため腫瘤の組成がより密に写り、識別しやすくなるのではないかと考えられる。
 このようなケースでは、間接撮影の結果精密検査になり、直接撮影をしても病巣がはっきりと識別 出来ないということが起こる。原因解明は今後の課題である。

 

表1 表2

 

直接と間接との諸条件の差異

☆X線像

間接では撮影距離が短いため、どうしても像が10%前後拡大する。 また、レンズなどの撮影で周辺部の解像力が低下し、周辺部の肺紋理が減少してしまう(表2※1)
☆被曝線量
撮影条件等で大きく違ってくるが、結核研究所で直接、間接撮影の被曝線量を測定した結果、 直接に対し間接はおおよそ1.5〜2倍の線量比である(表2※2)
☆1時間当たりの撮影枚数
間接撮影の方が1.5〜 2倍多く処理できる(表2※3)
☆X線写真の読影
直接フィルムの場合1枚ずつのフィルムになって おり、読影時にはフィルムをシャーカステンに掛けながら読影するため、相当の労力と時間がかかって しまう。その点、間接フィルムの場合はロールフィルムになっており、一定時間に多人数の読影ができ る。
☆フィルムの保管
直接フィルムはスペース と重量を考えて保管場所を設けなくてはならず、これは結構大きな間題となっている。 その点、間接フィルムの方はロールフィルムになっており、スペースも重量もそれほど気にしなくてすむ メリットがある。
 このように、間接撮影は3〜5ミリという極めて小さい病巣の発見能力等でやや劣るものの、 上述した条件から、集団検診では現在のところ間接撮影の方が優れているといえる。

 

被曝線量の低減への努カ

 被曝線量は、撮影管電圧、撮影距離、グリッド、附加フィルター(軟X線をカット)、蛍光体の感度 、フィルムの感度、また現像処理によっても大きく変わってくる。その中で撮影システム全体を検討し、 被爆線量と画質との関係を保ち、診断に適した写真を提供することが、放射線技師としてさらに努力し ていかなければならないことである。

 

参考文献「胸部X線写真の読み方」  高瀬昭・徳地精六・増山英則著    結核予防会発行


Updated 98/12/18