結核についてのなぜ?
を家庭での知識として
ご活用いただけるよう
分かりやすく
解説しました。

 


HIV、エボラ出血熱、O−157大腸菌。1973年ごろから現在まで、新顔の恐ろしい伝染病が多数出現し、私たちの健康を脅かしています。
こうした新興の感染症(伝染病)のほか、忘れられていたものが復活し始めています。
これを再興感染症といいますが、その代表選手が結核なのです。エイズウイルスの迷惑な支援を得て、特に途上国で大蔓延しています(エイズウイルス感染→免疫低下→結核菌元気!)。
さらに、薬の効かないやっかいな結核菌の流行も深刻な問題で、21世紀の子孫のためにも、今世紀中に解決をしなくてはならない問題です。

TBメモ
1996(平成8)年の結核    ( )は前年の数
・新登録患者=42,472(43,078)
・罹患率(人口10万人あたりの新登録患者の率)=33.7(34.3)
・塗抹陽性罹患率(人口10万人あたりの塗抹陽性新登録患者の率)=11.9(12.0)
・要治療患者=59,760(65,167)
・有病率(人口10万人あたりの要治療患者の率)=47.5(51.9)
・死亡者=2,858(3,178)
・死亡率=2.3(2.6)

 

              

日本の結核は次のような経過をたどってきました。

戦後の混乱期を終える頃から、年間11%というすばらしい減り方を示し、21世紀までには人口10万人に対し5.4人(罹患率)ぐらいになるのではと楽観視された。
 
 
1977(昭和52)年あたりから減り方が急に鈍くなる。
 ↓ 
 
2000年にはなお、3万9千人の新登録患者があり、罹患率は10万対30ほどだろうと推定されるほど。
当初の期待を裏切るような結果となり、先進国の中では最下位の状況だ。
 

TBメモ
菌の兄弟関係を追求する。
遺伝子工学を活用すれば菌の由来が鑑別できます。A患者の菌とB患者の菌の遺伝子を調べて、もし兄弟と断定できるなら、 たとえばAからBに感染し発病したなどの動きが分かり、これは疫学の上でかなり有力な情報を提供することになります。
沖縄県では結核予防会結核研究所と協力して、今年の4月から県下で発生するすべての患者の菌をこの方法で調べています。またオランダ、 オーストラリアでは全国規模で、米国ではサンフランシスコなどの市や州で行われています。
X氏とY夫人とが同じ菌種の結核と判定されたことが動かぬ証拠となって、、、こんな推理小説が出てくるかもしれませんね。

日本では143人にひとりが結核だった!?
人口10万人あたり698人。1951(昭和26)年、戦後間もない頃の罹患率です。日本国民の約143人にひとりが毎年新たに結核になっていたのです。
今、途上国で結核が大蔓延しているといいますが、これより高い数字にはちょっとお目にかかりません。まさにギネス級の数値といえます。
 

なぜ結核がスムーズに減少しないのか。
その理由は大きく分けて次の2つです。

1.既感染者が高齢化してきたため

大蔓延時代、結核菌に感染しても発病せず、胸の中に菌を持ったまま過ごしていた人々が高齢化し、体力や免疫力が低下してきたために発病するようになりました。 事実、新登録患者の70%は50歳以上です。
大蔓延時代の後遺症ともいえますが、極端な高齢社会を迎える日本では、特に大きな問題といえましょう。
逆に、49歳以下の年齢層は、結核菌の洗礼を受けていないため感染も発病もしやすいので注意が必要です。

2.問題意識が低下してきたため

不治の病として恐れられてきたころとは違い、結核は薬で治る病気として一般にはとらえられています。そのため、結核に対する関心が 失われ、まわりの人に感染させるほど重症になるまで気づかない場合が増えているのです。

 

TBメモ

気をつけよう こんな人たち ハイリスク


    高齢化(加齢)のほかに、既感染者の「再燃」を促したりする要因を持った人々をハイリスク集団、未感染の人に結核をうつす要因を持った人々をデンジャーグループと呼び、結核対策の重点目標としています。

  • 1.排菌している結核患者に接触した人、ツベルクリン反応で自然陽転が疑われる人。
  • 2.結核にかかったことのある人。
  • 3.免疫抑制につながる病気や薬に関係ある人(糖尿病、胃潰瘍、ステロイド治療、人工透析、塵肺等)。
  • 4.健康管理からもれがちな集団(生活困窮者、中小企業就労者、アルコール依存症、自分で症状を訴えることの少ない精神障害者、検診連続未受診者)。
  • 5.職業上のハイリスク集団(医療従事者)。
 

排菌状態でみつかる、つまり重症になってからみつかる患者さんの数は、確実に上昇しています。これはどのような結果を生むかというと、 気づかぬうちに人にうつしてしまい、集団感染を起こすことになります。本人の油断か、医師も気づかず治療が遅れたのか。受診、診断の遅れが患者本人以外の人も巻き込むことにつながります。 治療を開始しても10%以上が9ヶ月以内に死亡し、この約1/3が結核で死んでいるという事実は(塗抹陽性患者の場合)、 いかに重症になるまで無関心に放っておかれたかを端的に表しています。未感染年齢が上昇するにつれて、学校から、会社・事務所へと集団感染の場所が変化してきていることも注意しなくてななりません。

 

TBメモ
プロもダウン、院内集団感染事件
結核の院内感染事件が続発しています。この10年間に分かったものだけでも10件、最近の事件では若い看護婦さんが亡くなりました。
院内感染の原因は
1.排菌している患者が病院に来て受診する。
2.病院職員の90%は結核未感染である。
3.病院内の気密性が高く、菌が空中を漂い浄化されにくい。
4.患者のセキを誘発する検査が多くなった。
等々で、これからも当分、減少することはないと専門家は警告しています。

塗抹(とまつ)検査と塗抹陽性
結核かどうか、他人に感染させるほどのものかどうか。これを調べるにはタンを検査するのが一番。
タンをガラス板にこすりつけて染色処理すると、結核菌がいれば赤く染まります。これを顕微鏡でみるのが「塗抹検査」で、 赤く染まった菌が見つかれば「塗抹陽性」です。たくさんいれば非常に危険。
患者のセキやクシャミのシブキにのって、結核菌がいっぱい浮遊しているからです。
(塗抹:塗りつけること)
 

 

結核対策の最重点項目は、発見した患者をすばやく、確実に治すこと。それでは、結核治療に歴史と伝統を誇る日本の治癒率はというと、 最新の調査では77.4%。菌検査成績は分からないが治癒と考えられるものを含めて、治療成功率は82%です。中国、ベトナム、カンボジアでは 90%以上の治癒率をあげていますから、これは決してほめられた数値ではありません。
日本では高齢の結核患者が多く、結核以外の病気で死亡する率が高いため、これが治癒成績を下げているからです。日本の結核患者の入院率は大変に高く、 しかも治療期間が非常に長いので治癒成績は絶対に優れているはず、、、と考えられていたのですが、、、

 

 

日本人にとって結核治療は「時間がかかる」ものでしたが、今は6〜9ヶ月で治すのがあたりまえです。
「短期化学療法」とよばれ、薬を3〜4種組み合わせて短期間のうちに菌をやっつけます。
最近、ピラジナミドという強力な薬が見直され、治療効率が上がりました。
こうした化学療法を2〜3ヶ月続けて排菌が止むと、入院治療の必要はなくなり、外来治療になります。

 

 

結核患者が巷にあふれていた時代と、現在のように少なくなってきている時代とでは、その対策が違うのは当然のこと。 結核蔓延時代はどういうわけか、軽症のうちは自覚症状をもたない人がたくさんいたようです。そこで投網を打つようにX線の集団検診で患者を捜し出した、 というわけです。最近は自分で身体の不調を訴えて医療機関に行き、それで結核と分かる場合のほうが多くなりました。
今は、患者が出たらまずタンの検査、菌が危険なほど出ていたら家族や接触した人たちの検査というように、一つ一つ丹念につぶしてゆく、 いわば石をめくって、隠れている魚を探す方法が主流となっています。
しかし、高齢の人は結核既感染というだけでハイリスクなのですから、定期的に住民検診を受けるべきです。早く見つければ、かわいい孫たちにうつすこともありません。 

 

TBメモ
大都会にある結核菌の温床
東京、横浜、大阪などの大都会には、非常に結核が心配される地域があります。
生活が荒れている、アルコール依存、医療関係者の言うことを聞かない、治療を始めても脱落するケースが多い等々、大都市型の結核が問題としてクローズアップされてきました。
こうした特定の地区ばかりでなく、繁華街の片隅でも結核が問題となっています。東京某区の保健所でサウナ従業員の結核を調べていたところ、 サウナの休憩室を宿泊所のように長期間利用する人たちの間にも結核が見つかりました。この休憩室が結核菌の感染場所だったのです。

結核菌には、よく似た仲間がいます
結核菌は「抗酸菌」の一種です。「抗酸菌」は非常に種類が多く、私たちの身の回りのいたるところに存在し、中には、病気の原因となるものがいくつかあります。 菌の外形や症状も結核とそっくりで、間違えられることも多々ありますが、幸い、伝染性はありません。現在、入院患者の15〜20%をこの非結核性抗酸菌症が占めています。 しかし、結核に効く薬が効かない場合があり、治療に手間取ることも多いようです。これからの病気といえましょう。

 

 

 

財団法人 結核予防会
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Updated 97/12/15