兵庫県健康福祉部健康増進課
疾病対策室結核感染症係主査
東山 勝彦
はじめに
平成10年7月に公衆衛生審議会結核予防部会では「緊急に取組むべき結核対策」として結核の院内感染、結核患者の高齢化、罹患率の減少速度の鈍化、多剤耐性菌対策などを緊急課題として提言し、さらに本年同部会で「21世紀に向けての結核対策」について討議されています。
平成9年には、全国の結核新登録患者数が38年ぶり、罹患率が43年ぶりに増加し、また老人ホーム、精神病院等における結核集団感染事例が報告されるなど、いまだに結核は「わが国最大の感染症」であり予断を許さない現状にあります。
兵庫県の結核の現状(表1)
兵庫県の平成9年の罹患率は50.1であり、全国ワースト順位が平成8年の3位から2位となり、平成10年の罹患率(概数)では、前年に比べ3.6ポイント減少したものの依然として高い値を示していることからも、結核対策を積極的に推進する必要があります。兵庫県では早期発見・早期治療を基本として@結核予防思想の普及啓発、A健康診断及び予防接種の促進、B結核医療の適正化、 C結核の患者管理の強化、D結核予防研修の実施、E結核発生動向調査事業の推進の6本柱で昭和62年から対策を進めています。
兵庫県の結核対策重点事業
先に示した6本柱を基本として、重点的に行っている事業について紹介します。1.結核対策推進専門委員会の設置
国立療養所、民間の結核病院、保健所等行政の代表10人の委員構成で、結核対策推進専門委員会を昭和61年度に設置し、兵庫県の結核対策について年間1,2回事業ごとに評価を行い、方向性等を検討しています。この中で、平成9年の罹患率上昇の一つの原因について、住民、医師ともに結核への意識が低いことが指摘され、定期検診による早期発見、 早期治療の徹底、医師研修による知識の普及や、診査会における適正医療の徹底といった方針が示されました。また、評価を行う中で 結核対策についての具体的な目標を設定してはどうかという意見がまとまり、結核研究所が示している「結核対策パッケージ」を参考に、11年度目標が作成されています(表2)。2.結核医療の適正化の推進
平成8年4月に医療基準の一部が改正されたのを受け、新登録塗抹陽性肺結核患者の初回化学療法として、PZAを含む初期強化短期化学療法を標準化治療方式として定着させるため、医師研修等を開催し推進を図りました。その結果、平成9年県保健所での塗抹陽性初回患者へのPZAの使用率は63.2%(平成7年は9.0%)と改善されつつあります(「保健婦の結核展望」72号に報告)。3.予防可能例検討会
県内の各保健所において最低年2回、多いところでは毎月、適切な患者管理の強化を図るため、予防可能例について検討を行っています。その中で、医療機関で問題があった個々のケースについて病院に指導を行い、モデル診査会に近い形で症例検討会を開くなどきめ細かく対応しています。4.結核モデル診査会の開催
長期治療者や慢性排菌等難治症例の検討会、結核診査協議会の体制改善等を必要とする重点保健所において、結核診査協議会形式で診査会委員及び結核指定医療機関医師を対象に、モデル診査会を、平成10年度は5会場で開催しました。この事業は2年連続で行うこととし、評価も行っていく予定ですが、現在までのところ長期継続治療、INH単独治療は全般的に減少傾向です。また、初回PZAの使用は前述したとおり定着してきており、成果が現れてきています。5.結核感染源調査の実施
喀痰塗抹陽性(ガフキー3号以上)の患者で集団感染の恐れがあるケースにおいて、平成10年度、結核菌のRFLP分析を行い、さらに濃厚接触者等を対象に喀痰検査と併せて迅速検査法(PCR法)を実施。35検体実施し、そのうち同一株と考えられるものが3例あり、感染源の特定、感染拡大防止に効果が見られました。6.高齢者発生状況調査の実施
平成10年度、重点モデル保健所において、患者群・コントロール群を調査比較し、発生状況を分析しています。まだ実施中の事業であるため成績は出ていませんが、県内の新登録患者の半数以上が60歳以上である現状に合わせ、今後も重点課題として積極的に事業を進めていく予定であり、平成11年度は高齢者に対し結核発病の予防を図るため、抗結核薬の予防内服の実施についても計画中です。7.被災地における結核対策
平成7年1月の阪神淡路大震災で被災し、精神的ストレス等の原因による結核発病が懸念されていることから、被災地における結核発症状況を経年的に把握し、必要に応じて結核対策を講じていく体制を整えています。
また、平成11年度は、塗抹陽性患者に対する耐性菌検査実施の推進及び、保健婦による訪問服薬指導を通して治療脱落防止を図る薬剤耐性結核対策事業や、結核新登録患者のほとんどが医療機関での発見であり、複数の医療機関を受診している例も少なくない現状を考慮し、結核院内感染防止マニュアルを作成し、医療機関に対する感染予防対策及び蔓延防止のための指導を行う予定です。
最後に
結核対策における地域間の連携強化と共同的な取り組みについて広域圏ごとの連携組織を設ける必要性が提言されていることを受け、近畿地区では結核研究所の協力を得て、本年、近畿地区結核対策推進会議を設置し、結核対策のための情報資源の共有、担当者の相互啓発と研鑽等を実施することとしています。結核罹患率の上位3位(大阪府、兵庫県、和歌山県)を近畿で占めているという不名誉な状況であることから、近畿圏域レベルで結核対策を考えていくということは意義深いことではないかと考えます。以上、兵庫県の結核対策特別促進事業について述べさせていただきましたが、今後とも兵庫県の結核状況の改善に向けて、積極的に地域の実情に合った、成果に結びつくような結核対策を体系的かつ計画的に推進していきたいと思います。