乳幼児のBCG接種

一生に一度のBCG接種! だからこそ質の高いものを!!
そのために技術評価を!!!

第一健康相談所診療部長 中園 智昭(写真左)
結核研究所対策支援部企画・医学科長 星野 斉之(写真右)

はじめに
 平成15年度より,小中学校の健康診断におけるツベルクリン反応検査と陰性者へのBCG接種が廃止となりました。BCG接種を受ける機会は,乳幼児期の一回だけとなりました。失敗は許されません。そこで,本稿では,BCGの接種方法の要点と接種技術の評価方法を紹介いたします。

BCGの接種方法の要点
1.接種部位
 上腕外(伸)側のほぼ中央(三角筋下端)部に行うことが昭和42年3月17日厚生省公衆衛生局長通知に定められている。他の部位,例えば肩部に行うとケロイドを生じやすいので絶対に行ってはならない。
2.接種部位の消毒
 接種部位をアルコール綿で消毒する。乾かないうちにワクチンをたらすとBCGが死滅するので,よく乾いてからワクチンを滴下する。新BCG接種の理論と実際
3.ワクチンの滴下と塗布
 接種者は被接種者の上腕を左手で握りほぼ水平に固定する。アルコールが乾くのを待って滴下用スポイトで,接種に十分な量(大きめの1滴)のワクチンを滴下する(図1)。このとき,スポイトの先端が皮膚に触れないように注意する。通常1滴で充分であるが,不十分と思われる時はさらにもう1滴加える。滴下されたワクチンをツバの側面で上腕の縦方向に沿って(図2)約1.5cm×3cm程度の範囲(図3)に塗り広げる(ツバで強くこすり塗布層が薄くなりすぎないように注意)。
4. ワクチンの接種
 管針を皮膚面に垂直に保持し,上腕部を下から支えている左手で強く握って接種部位の皮膚を緊張させ(図4),ツバの両端が皮膚に十分つくまで(通常皮膚が5〜6mmへこむ程度)管針を強く押して(図5)接種する。管針の円跡が相互に接するようにして2カ所接種する(図6)。腕の縦方向とツバの縦方向とが一致するように押す。2カ所の接種が重なると,局所反応が融合するおそれがあるので必ず針痕が長方形に並ぶようにする。管針を押すとき,管針をねじらないように注意する(傷口を大きくして接種菌量が多くなるため)。
 押し終わったら,ワクチンを塗り広げたときと同様にツバの側面で皮膚上のワクチンを2〜3回針痕になすりつける(図2)。接種後,針痕が18個きれいにそろって膨れ上がり,わずかに血がにじむ程度が理想的である。押し直しはしない。 接種が終わったら接種部位に日光を当てたり触ったりしないで,ワクチンが乾くのを待ち,乾いてから衣服の袖を下ろさせる。接種後の注意事項を保護者に知らせ,局所反応について説明する。
BCG接種の評価方法
BCG接種後のツベルクリン反応の強さと針痕数は相関する(図7)ので,針痕数を検討することにより接種技術を評価することができる。ここでは,乳幼児期の健診時に,母子手帳から検討に必要な情報を集めるとともに,針痕数を数えて評価する方法を紹介する。図7針痕数別にみた発赤と硬結の平均値
1.BCG接種歴の情報収集
 過去のBCG接種の有無,接種した日時や実施主体については,保護者への問診や母子手帳から情報が入手可能である。入手すべき情報を以下に挙げる。
 1) 氏名と生年月日
 2) BCG接種の有無
 3) 実施主体
 4) 接種年月日
 BCGの有無を確認することにより,BCG接種率の検討が可能となる。生年月日及び接種年月日を記録することにより,接種月齢の検討が可能となる。実施主体と接種年月日の記録から,担当者ごとのBCG接種技術の評価を行うことが可能な場合がある。
2.BCG接種歴と針痕数の記録方法
 に記録用紙の例を示す。接種無しの場合にはその理由を記入しておくと,未接種の理由を検討する時の参考になる。また,1歳過ぎて接種を受けた場合にも理由を聞いておくと,接種月齢の検討時に参考になる。表BCG接種技術評価記録表
3.BCG針痕の観察方法
 BCG接種痕の観察方法を以下に述べる。
 1) 左腕に接種されている場合が多いので,左腕の袖をまくって上腕伸側を中心に広く観察する。
 2) 一見針痕が認められなくとも,指で皮膚を寄せることにより観察しやすくなり,発見できることがあるので,試行する。
 3) まれに右腕に接種されている場合があるので,左腕に針痕を認めない場合には右腕も必ず観察する。
 具体的な方法や事例については, 結核予防会発行のパンフレット「ひとめでわかるBCG接種の評価方法」を御参照下さい。
4.指標を用いた評価方法
 BCG接種の普及度及び接種技術の評価は,以下の指標を用いることができる。
 1) BCG接種率:調査対象者または管轄地域の接種対象者中のBCG既接種者の割合をもって示す。調査時の対象者の年齢にもよるが,少なくとも1歳6カ月時健診では,例外を除いて全員がBCG接種を受けている(すなわち接種率100%)ことが望ましい。未接種の場合には,未接種の理由を聞き,接種を希望しながら機会を逃した事例が認められる場合には,BCG接種の広報活動,接種機会等について再検討することが望まれる。
 2) 1歳時BCG接種率:BCG接種を受けた者について接種を受けた月齢を算出し,調査対象者中の1歳時BCG接種率を算出する。接種率は高い方が望ましい。低い場合には,広報活動や接種機会について検討する。なお,接種率の指標を計算する場合,当日の出席者に加えて欠席している対象児の人数やBCG接種状況を把握できている場合は,対象児総数を分母として検討する方が望ましい。
 3) 平均針痕数:BCGの接種技術のうち,管針の押し方の評価は平均針痕数を用いて評価できる。平均して15個の針痕が残っていれば,その集団に対して行ったBCG接種の接種技術には,問題が無かったといえる。平均針痕数が十分ではない場合には,実施主体やBCG接種担当者ごとの平均針痕数などを検討して,改善を進めるべきである。
5. 評価後の対応について
 1) BCG接種率が低い場合:BCG未接種の理由を検討し,予防接種の広報活動,接種機会や会場の検討等を行うことが望まれる。
 2) 平均針痕数が小さい場合:BCG接種の技術に課題がある可能性があるので,実施主体,接種担当者・団体,関係者と検討会を行い,次回の接種に向けて改善策を検討することが望まれる。
最後に
本年度より小中学校のBCG接種が廃止になり,BCG接種を受ける機会は乳幼児期の1回だけとなりました。乳幼児を結核から守るために,これまで以上に接種技術の評価と適切な方法の確保に留意する必要があると思います。本稿がその一助となれば幸いです。
                 


updated 03/09/04