なぜ患者管理地域格差検討全国会議が必要か
平成7年度から一部、平成8年度からは全国規模で、結核対策特別促進事業(以下特対事業)の一環として行われた「コホート観察調査」は、患者管理の評価として多くの問題を明らかにした。そのことは、すでに第4報(平成9年度分)まで報告している。しかし、患者管理の地域格差に改善の跡は見られず、ますます増加傾向にある。
そこで、結核研究所では、「患者管理地域格差検討全国会議」を企画し、結核担当者による相互啓発、研鑽の機会を提供。地域の結核専門家及び結核対策指導者養成研修修了者、結核予防会支部等の協力を得て、特対事業の評価を行い、結核問題の地域格差の解消を目指し、あわせて全国の結核対策の推進を図ることを目的にした。
なぜ地域結核対策推進協議会(仮称)が必要か
昭和34年から国の委託を受けて結核研究所が企画、県持ち回りで開催してきた「結核対策技術者地区別講習会」、(以下地区別講習会)は、平成10年度から特対事業と研究所共催、平成11年度からは担当県の特対事業(10割国負担)となったのを機に、「特対事業の評価」を地域別に行う方向で動き始めた。
ここでは全国7地域ごとに1日半は従来通りの研修会、半日は都道府県市の結核担当者が集まり、それぞれの結核問題について情報交換、また専門家を交えて対策の評価と企画を検討する場を提供することとした。
「地域結核対策推進協議会(仮称)」の必要性については、地区別講習会の一部をそれにあてるかどうかという問題を含めて、平成11年6月3・4日に行われた「患者管理地域格差検討全国会議」で、地域別に分かれて検討していただいた。その結果、趣旨に賛同を得られて「平成11年度地区別講習会」開催県にお願いして、関係者で前向きに検討していただくこととなった。
平成11年度地区別講習会は現時点ですべて終了し、開催県結核担当者に地域結核対策推進会議の進行状況について、別稿で本誌に報告していただく予定である。
結核緊急事態宣言との関係
国は結核緊急事態を宣言して、国民や結核対策専門家に警告を促した。宣言は「結核の地域格差」について、「地域間格差の具体的評価と問題の明確化」を指摘しており、この度の「地域結核対策推進協議会(仮称)」と「患者管理地域格差検討全国会議」は、まさに国の期待を背負っていると言える。今後、皆様のますますのご協力をお願いします。
平成10年度コホート観察調査結果報告
この調査は平成8年1月1日から12月31日までに登録された肺結核患者2万7770例、1府45県11市分を対象として実施した。
活動性分類別では「喀痰塗抹陽性初回治療」33.2%、「同再治療」4.9%、「その他結核菌陽性」16.6%、「菌陰性その他」45.3%であった(図1)。
治療成績は低く死亡率は増加傾向
治療成功率は全体で83.9%(平成9年度調査では84.2%)、「喀痰塗抹陽性初回治療」は78.1%(79.2%)、「同再治療」は72.3%(74.0%)、「その他結核菌陽性」は、86.3%(87.5%)、「菌陰性その他」88.4%(87.7%)であった。
「喀痰塗抹陽性初回治療」の死亡率は12.9%、「同再治療」は15.1%と、高い率を示していた(表1)。
図1 結核活動性分類内訳 表1 治療成績 表2 年齢別治療成績 70歳以上が全体の3割、そのうち20%が治療中に死亡
2万7770例の31.9%を70歳以上が占め、しかも治療成功率74.7%、死亡率19.7%と高い。高齢者の対策が急がれる(表2)。
菌陰性の中断は2ヵ月までに50%
菌陰性その他で脱落中断したのは608例であった。中断の時期は、1ヵ月までに30.3%、2ヵ月までに51.7%、3ヵ月で84.5%と、早い時期に中断していることが分かった(図2)。
菌耐性化予防のためにも、早期の初回面接と、以後月1回の服薬支援活動で、中断を防止する必要がある。
塗抹陽性初回治療患者の「脱落中断」”ゼロ”が11県市に増加
「喀痰塗抹陽性初回治療」の「脱落中断率」は最高10.6%から最低0%と、地域間格差が大きい。しかし脱落中断率”ゼロ”を達成した県市は11ヵ所見られた。ちなみに平成9年度調査では、わずか2県であった。これは、患者管理を「喀痰塗抹陽性初回治療患者」の治療成績向上に重点を置いた効果と思われる。
ますます大きくなる地域格差
「喀痰塗抹陽性初回治療」の治療成績の地域格差について見てみた。
「治療成功率」は、93.3%を示した県市から64.1%の県市まで、その差は29.2ポイントと大きい。「治療失敗率」では最高13.6%、最低1.3%の差を示している。「死亡率」は最高25.3%、最低2.7%である。「初回保健指導の種類別割合」では、「本人面接率」が最高87.5%から最低8.1%と、79.4ポイントの大きな差が見られた(図3)。
図2 治療中断の時期 図3 喀痰塗抹陽性初回治療
県別初回本人面接の割合大都市と地方では多少の差は見られて当然であるが、今回の地域格差はそうとも言い切れない。4年間の「コホート観察調査」をまとめてみて、改善される県市はますます良くなり、地域格差はどんどん大きくなっていくように思われた。これらの地域格差をなくすためにも、即効果を期待できる特対事業に絞っていく必要性があると思われる。また、結核対策担当者の熱意が地域格差に影響していると思われることから、担当者の相互啓発、研鑽の機会を提供することは必須条件であろう。