DOTSを行っている健康相談室がある
城北福祉センター

山谷地区のDOTS

東京都衛生局医療福祉部結核感染症課

結核係長 清水 文子


 東京都では国内初めての試みとして、台東区、荒川区にまたがる山谷地区において平成9年9月よりDOTS(Directly Observed Treatment,Short-Course)を開始した。
 かねてから、簡易宿所や住所不定者の多い山谷地区では、結核り患率が非常に高率であり、また重症例が多く、特に受診の遅れと治療中断から再発の多いことなどが指摘されていた。
 このため東京都では、ニューヨークや中国などで実績を上げ、WHOが結核対策の基本戦略として提唱しているDOTSを山谷地区で実施するため、平成9年度当初より検討を初めた。
 幸いなことに、山谷地区で日雇い労働者や路上生活者の生活相談、応急援護等を行う東京都城北福祉センター(福祉局)の2階に、衛生局所管の健康相談室がある。この健康相談室では、無料の応急診療等を行うとともに週2日都の委託事業として結核予防会渋谷診療所の結核専門医による診療が20年以上続けられていた。
 さらに、福祉局、台東、荒川両区の福祉事務所、健康相談室等による「山谷福祉関係機関連絡会」が開催されており、関係者間の意思疎通を図る土壌もあった。
 そこで山谷福祉関係機関に、台東、荒川両区の保健所、健康相談室医師さらに衛生局結核感染症課が加わった関係者の打ち合わせを繰り返し行った。東京都はこの打ち合わせ会で関係機関の流れを確認しながら、平成9年9月より服薬確認のためのDOTS担当看護婦を健康相談室に1名(3名による交代制)配置した。
 このDOTS事業では、自己退院等治療を中断した患者を関係機関がキャッチした場合、健康相談室への受診を勧める。健康相談室では、専門医が治療継続の必要性を診断する。福祉事務所では本人の治療継続の意思を確認し、生活保護の受給手続きを行う。こうして初めてDOTS対象として結核予防法34条を申請し、土日以外の毎日通院治療が始まる。
 実際に患者がDOTSを開始したのは平成9年11月からであり、現在まで治療の約束をした者は7名で、4名が治療を継続した。4名のうち2名は治療完了し、1名は治療完了しようとしているが、1名は入院治療が必要となり再入院となった。治療中断した3名は治療開始前や数回の投薬後に飲酒をしたり、居所不明になったりしたものである。
 DOTS担当の看護婦は、山谷地区での経験はなく最初は不安があったが、今では患者のよき話し相手となっている。また看護婦は患者の入院先の病院を訪問し、病院との連携や患者との信頼関係の構築、自己退院者の情報入手等にもあたっている。
 現在のDOTSは、自己退院した患者が自ら城北福祉センターや福祉事務所、健康相談室に訪れなければ開始できないという問題がある。さらに開始しても、患者が通院を中断した場合にはほとんど対策がないのが実情である。
 山谷地区のDOTSは、対象者の拡大、治療中断者への対応等困難な課題があるが、今後も関係機関との連携を強化しながら対応していきたい。



Updated 98/11/24