2007年3月24日<世界結核デー>テーマが決定!




結核研究所国際協力部企画調査科
小原 尚美


世界結核デーのテーマ解説
 2007年のテーマは,結核は治療をすれば治る病気であるのにもかかわらず,世界的にみて非常事態が続いていることを訴えている。この状況は,結核対策,サーベイランス,研究,新たな技術の開発,HIV合併結核に対して十分な資源が投入されてこなかったことを反映している。
 WHOは,患者発見率と治療成功率について,2005年に定めた目標の達成状況を今年中に発表する予定である。世界の50ヵ国が患者発見率の目標である70%を達成し,25ヵ国が両方(患者発見率70%と治療成功率85%)の目標値を達成したと報告している。世界の平均的な治療成功率と患者発見率は,それぞれ84%,60%(いずれも2005年)と推測されているが,絶対数としては毎年約200万人もの結核患者が治療を受けていない状況である。
 世界的な脅威である結核からの挑戦に打ち勝つためにも,「ストップ結核世界計画(2006-2015)」に対する資金を確保し,ストップ結核戦略を施行する努力が必要である。ドナー国を含めた全ての政府と各国の政策決定者が結核の影響を受けている人々や地域の立場にたって<ストップ結核>のために責務を果たすことが求められている。

 世界結核デーのテーマは,以下のメッセージを含んでいる。

 1. 結核蔓延国が自らの結核対策への財政的支援を改善する。
 2. コミュニティの関与を高める。
 3. ドナー国が結核対策に資源を投入する。
 4. 政策決定者が超多剤耐性結核(XDR-TB)
注)とHIV合併結核の脅威から地域を守る。

注)超多剤耐性結核については,今年度多くのメディアで取り上げられたが,WHOが10月に行った専門委員会では,多剤耐性に加えてフルオロキノロンいずれかと注射二次薬(カプレオマイシン,アミカシン,カナマイシン)の少なくともひとつに耐性をもつ結核菌をXDR-TBと定義すると発表した。


世界の結核対策 2006〜2015年 新10ヵ年計画へ
 世界では,毎年900万人が結核を発病し,170万人が結核の犠牲となり死亡している。特に,HIV感染率が高いアフリカでは結核が増加し深刻な問題を引き起こしている。さらに多剤耐性結核・超多剤耐性結核が脅威となっている。国境なき医師団は,2006年に,最も報道されなかった人道的危機を10項目かかげ,その中に結核の増加を挙げている。
 昨年1月に発表された,「ストップ結核世界計画」には,国連ミレニアム開発目標に沿って結核の罹患率を減らし,2015年までに結核の有病率病と死亡率を,1990年の半分のレベルにまで下げるための計画が示されている。昨年3月に発表された「ストップ結核戦略」では,@質の高いDOTS拡大の推進,AHIV合併結核,多剤耐性結核やその他の問題への取組み,B保健医療体制の強化への支援,Cすべての保健医療従事者の参加促進,D結核患者やコミュニティの権利の拡大(エンパワーメント),E結核研究の推進,が戦略として掲げられており,「ストップ結核世界計画」を支援する形になっている。これにより,DOTS戦略を結核対策の中心としつつ,新たな戦略の導入を通じて,活動の枠をコミュニティやNGOの参加,ACSM注)活動,MDRとHIV合併結核対策等に拡大することが示されている。
 このように活動の枠が広がりつつある中で,国レベルのパートナーシップの構築がますます重要になっている。日本でもストップ結核パートナーシップジャパンを結成し,結核対策に取り組むための緊急性を訴え,持続的なアドボカシー活動を行っていくことが求められている。


出典


世界結核デーテーマ:
http://www.stoptb.org/events/world_tb_day/2007/

XDR最新ニュース:
http://www.who.int/bulletin/volumes/84/12/06-011206/en/index.html

ストップ結核戦略:
http://www.who.int/tb/features_archive/stop_tb_strategy/en/index.html

2006年,10の最も報じられなかった人道的危機:
http://www.msf.or.jp/2007/01/10/5710/200610.php

注)ACSM (Advocacy, Communication, Social Mobilization):アドボカシー・コミュニケーション・社会動員
従来、アドボカシーやIEC (Information, Education, Communication)は、別々に表現されてきたが、社会動員などの活動を含む広い概念で、対策を強化するためにACSMと表現されるようになった。なお、ACSM作業部会はストップ結核パートナーシップの作業部会の一つとして、位置付けられている。
Advocacy(アドボカシー): 持続的に結核を政治・開発の優先的課題として位置付け、政治的意思を助長し、財務的資源を増やすように働きかける活動。
Communication(コミュニケーション): 一般市民の結核と結核対策に対する知識を増やし、患者の行動変容につながるよう患者と医療従事者間のコミュニケーションを改善する。
Social Mobilization(社会動員): 公衆衛生上脅威である結核を根絶し、結核に対する偏見をなくすために行動をおこすよう地域や市民社会を動員する。


updated 07/3/20