結 核 と H I V |
島尾忠男 (結核予防会顧問,エイズ予防財団会長) |
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仲の良いコンビ、結核菌とHIV | |||||||||||
HIVとは、ヒトにエイズという病気を起こす原因となるウイルスを英語で表現した場合の頭文字を並べて作った言葉で、エイチ・アイ・ヴィと発音します。ヒトに病気を起こす微生物の中で、結核菌とHIVは非常に仲の良い仲間で、両方が協力するとお互い単独ではできないことがやれるようになり、ヒトにとっては大変迷惑なことになります。ヒトと結核菌は、お互いの力が良く似た相手なのですが、ヒトの力のほうがやや勝っており、新たに結核にうつった場合に、十番勝負をすると八勝二敗か、九勝一敗くらいで、ヒトが勝ち、結核にならないですむ場合が多いのですが、HIVに感染している人では、勝敗が逆転し、結核菌側から見て悪くても五勝五敗、結核菌側が勝って、結核になってしまう場合のほうが多くなります。しかも、うつってから結核になるまでの期間や、結核になった場合、病気の進む速度が速くなります。また、HIVにうつっている人が結核になると、HIV感染の進行が早くなります。 実際に今から十数年前に米国では、HIV感染者を収容している病院で、ふつうの結核の薬が効かない結核菌で院内感染が起こり、結核になった患者さんの八十%が、結核が見つかってから数週から数カ月で亡くなってしまうという事件が続発しました。この事件の教訓から、結核を含めた感染症を軽視してきたことを反省した米国政府は、結核対策費と研究費を大幅に増やし、新しい技術を開発して、結核の診断を今までより早くできるようにし、また対策を強化して結核を抑え込むことに成功しました。 HIVとエイズについてぜひ知っておいてほしいこと
世界のエイズの現状 HIVの流行が始まったのは一九八○年ころからですが、わずか二十数年の間に、全世界に広がり、昨年末でHIVに感染している人は、エイズを発症している人も加えて、全世界で三九四○万人と推定されており、その三分の二がアフリカ大陸に集中しています。大人でHIVに感染している人は一・一%と推定されていますが、アフリカは七・五%です。一年間で三一○万人が亡くなっており、感染症の中で一番多くの人の命を奪っています。 日本は世界の中では、最も流行が少ない国の一つですが、昨年一年間で新たにHIVに感染した人とエイズを発症した人の合計が初めて千人を越え、今までの感染者と患者の累計は一万人を上回りました。多くの先進国では新たなエイズ患者は減っている中で、日本だけは増加しており、日赤で献血された血液のHIV陽性率も、十数年前には百万対一だったのが、最近では十万対一・七で、十倍に増え、HIV感染の流行がひそかに進んでいることが心配されています。 HIV感染の流行に伴い、仲の良い仲間の結核菌も活躍を始めて、アフリカ諸国では結核が急増し、WHOのアフリカ地域事務局は緊急事態宣言を発して、結核とエイズ対策への支援を求めています。 途上国のエイズと結核対策の支援は緊急の課題 同じエイズ患者が、たまたま先進国で生まれたおかげで、抗エイズ薬を使い、ほぼ通常の社会生活を送ることができるのに、途上国のエイズ患者は値段の高い抗エイズ薬が使えず、むざむざ死んでゆくという差別は、人間として受け入れがたい差別です。一方、製薬会社にすれば、新薬の開発には膨大なお金がかかり、特許を無視されては、次の新薬の開発ができなくなります。国際的な話し合いが進み、途上国が途上国で使う抗エイズ薬については、特許料を払わずに安い価格で製造し、提供できるようになりました。それでも途上国にとっては薬の経費の負担は大きいのですが、世界エイズ・結核・マラリア基金が三年前に作られて経費の一部を負担するようになり、やっと途上国のエイズ患者も抗エイズ薬の恩恵を受けられるようになりました。しかし、恩恵に浴しているのは未だほんの一部の患者で、多くの患者が救いを求めています。 結核対策は古知先生がWHOの結核対策を担当していた時に始めたDOTS(ドッツ)戦略のおかげで、最近十年間に途上国の患者にも抗結核薬がかなり普及し、多くの患者がその恩恵を受けつつあります。この結核対策での経験を生かして、検査を普及して途上国のエイズ患者を発見し、見つかった患者には抗エイズ薬をきちんと服用してもらわねばなりません。相手が仲良く一緒に人類に挑戦してきているのですから、こちらもエイズ対策担当と結核対策担当が協力して、強敵に対応しなければなりません。 最後に、結核では患者を早く発見して、治療で治すことがそのまま予防につながりました。しかしHIV感染者が感染源となるエイズでは、感染しないように、性行為の際には必ずコンドームを使うことが最大の予防であり、「予防に勝る対策はない」ことを強調しておきたいと思います。 |
Updated 2005/11/22