【RIT/JATA Philippines, Inc. 設立】
結核予防会国際部 看護師 鈴木真帆
〔フィリピンの医療事情と結核〕
フィリピンは大小7000以上の島々で成り立っています。この島々は地域ごとに言語や慣習が異なるため、地方によって経済や保健療の格差が大きいことが特徴として挙げられます。更に国策として海外就労が推進されているため、有能な医療者が職を求めて海外で就労するケースが多く、医療者不足が国の医療水準低下に拍車をかけています。 フィリピンは結核患者の多い国であり、世界の結核患者の8割が集中する22の結核高蔓延国のうちの1つで、その中での順位は例年7位から9位となっています。またフィリピン国内の死亡原因の第6位が結核によるもので、これは全死亡者数の7%が結核で死亡しており、平均すると1日に132人の患者さんが結核によって亡くなっています。 フィリピンの結核対策は、1968年から一般保健サービスに組み込まれているものの、地域によってDOTSや検査の質が一定ではないことや、特に辺境地や離島などにおいて医療者が不足していることから、国家結核対策事業のガイドラインに沿った'質の良い'DOTSが全国展開されるまでには至っていません。
〔フィリピンにおける結核予防会の歩み〕
結核予防会は1992年から15年に渡り、JICAプロジェクトを通してフィリピン結核対策向上のための技術支援を行なってきました。この活動は結核対策の推進に大きく貢献したものの、2007年8月末を以って終了することになりました。しかし、依然としてフィリピンの結核対策は、薬剤耐性結核、小児結核、貧困地域における結核など、様々な問題を抱えたままです
プロジェクト事務所があるマニラ首都圏には「都市貧困地域(Urban Poor Area)」と呼ばれる地域があり、そこには居住権を持たない住民が劣悪な住環境に身を置いています。様々な病気や低栄養などの問題を抱え、結核が蔓延しやすい環境となっています。
しかも、このような地域には公共の医療設備はなく、治安上の問題などから医療サービスの手が届きにくい状況にあります。よって、NGOが中心となってこのような状況を補うように保健医療活動や生活向上支援などを行なっています。
このような状況を受けてフィリピン保健省は、フィリピンにおいて各々の土地に適した結核対策を実施していく為には、従来の行政を中心とする保健医療サービスだけでは限界があると認識し、その土地の事情を熟知したNGOや地域ボランティア、住民組織の協力が不可欠とした上で、'Public-Private Mix DOTS(PPMD)とCommunity DOTSの推進'を提唱しました。これは公的・私的保健医療機関、NGO、住民組織、その他結核対策に協力可能なあらゆる組織が協働で結核対策を実施していこうというものです。しかし、これらのNGOには必ずしも保健医療分野を専門とするスタッフが存在しておらず、特に結核対策においては、どの程度の質的レベルで結核の診断と治療が実施されているか定かではありません。
〔RIT/JATA Philippines, Inc. (RJPI)の設立〕
結核予防会はJICAの経済支援よる結核対策プロジェクト終了後に残されたフィリピンにおける結核対策の課題の1つである年貧困層における結核対策の改善に対して支援するために、現地NGOであるRIT/JATA (Research Institute of Tuberculosis / Japan Anti-Tuberculosis Association)Philippines, Inc.(RJPI)を立ち上げることになりました。
JICAの経済支援による結核対策プロジェクト終了直後から、現地NGOの登録手続きを開始し、2008年1月にはフィリピン保健省敷地内に新事務所を開設しました。時を同じくしてRIT/JATA Philippines, Inc. のお披露目を兼ねたワークショップも開催されました。このワークショップの目的は、マニラ首都圏の公的保健医療機関(WHO・保健省・保健所など)と、私的保健医療機関等(NGO・私立病院・住民ボランティア)の、結核対策に従事するスタッフが集まり、都市貧困地域において、質の良い結核対策をどのように実施していくか話し合うというものでした。しかし、それ以上に今まで「結核対策」という共通の目的を持って活動していたにも関わらず、なかなか顔を合わせて話す機会のなかった人たちが、結核対策に関する情報交換や、ディスカッションをする良い機会となりました。
〔RIT/JATA Philippines, Inc.の展望〕
今年はRIT/JATA Philippines, Inc.の初年度であり、私たちの活動の可能性は未知数です。本年度の活動としては、マニラ首都圏都市貧困地域において、既存するNGOを通じて「国家結核対策(NTP: National Tuberculosis Control Program)」 の方針に基づいた質の良い結核事業の実施に向け、既に2回のワークショップを開催したほか、今年度内には現地NGO等の医療スタッフを対象とする研修、各NGOとの定期的な会合やワークショップの開催などを予定しています。また、日本からの研修生受入れや、スタディツアーの開催なども予定しており、日本の方々にフィリピンの現状をより広く理解していただく機会も増えることは大変うれしいことです。
未知数であるがゆえに、本当に支援を必要としている人々への対策を実行できるよう、柔軟な体制で今後の活動を探っていきたいと思っています。