結核研究所国際協力部企画調査科主任

大角 晃弘
2004年3月29日〜30日・東京

   
 2004年3月29日と30日の2日間、国際協力機構(JICA)の主催により清瀬の結核研究所において開催されました同会議について報告いたします。この会議は、現在JICAが海外で実施している8つの結核対策関連プロジェクトのチーフアドバイザーに参集して頂き、JICA本部の担当者、プロジェクト国内委員、厚生労働省関係者、結核研究所の関係者と共に、プロジェクト運営上に関する問題点と解決法、及び今後の課題について話し合い、現地におけるより円滑なプロジェクト運営に寄与することを目的として開催されました。1日目は、各プロジェクト活動内容の発表をもとに、それぞれの問題点及び課題と解決法についての話し合いを行いました。2日目には、多くのプロジェクトが抱える共通の問題点のいくつかについての討議を行いました。


 イエメン結核対策プロジェクトは、1983年以降、途中内戦による一時中断を含めて20年以上にわたり技術協力を実施しています。内戦によって我が国による技術支援が中断されていたにもかかわらず、DOTSを導入して全国に拡大しようと努力しており、効果的な結核対策がなされつつあります。問題点としましては、巡回指導、研修、薬剤供給等のための予算確保が困難な状況のため、JICA、WHO、その他海外からの経済支援に頼らざるを得ない状況があります。今後は、イエメン自らによる結核対策のための必要な予算確保がなされるよう、イエメン政府に働きかける必要があることが話されました。


 アフガニスタンに対する日本の結核対策に関する支援は、1970年代の技術協力と無償資金協力により、国立結核研究所が建設されたことに遡ります。その後、旧ソ連の侵攻や内戦によって国家結核対策行政自体が中断し、国立結核研究所も略奪と建物の損壊が進んでしまいました。2001年9月米英軍等による侵攻後に暫定政権が設立された後、我が国は旧国家結核研究所の復旧工事を実施しました。さらに専門家を派遣して、同国における結核対策の復興を技術支援しています。問題点として、暫定政権設立後まだ間もないため、保健医療基盤の復興が途中であること、保健省結核対策課の組織と人材確保がなされていないこと、治安の問題によりJICA専門家の行動範囲が4市に限定されているために地方への技術協力に支障が出ていること等が挙げられました。


 パキスタンはWHOによって結核高負担国に数えられている国の1つですが、DOTSの拡大が遅れています。同国におきましても、日本による結核対策プロジェクトが実施されています。JICA結核対策プロジェクトの対象地域として選定されているパンジャブ州は人口7千万人を有している同国最大の州で、同州内のモデル地域構築を通じてのDOTSの普及とその質の確保としての巡回指導、塗抹検査精度管理体制の確立及び薬剤安定供給のためのマネージメントの確立等が課題とされていました。


 カンボジア結核対策プロジェクトは、1999年から実施されています。2001年には日本の無償資金協力により国立結核センターが建設されて、全国結核対策の拠点としてDOTSの普及、塗抹検査精度管理ネットワークの構築及び諸調査やオペレーショナルリサーチを実施しています。同国は結核と共にHIV感染のまん延が拡大しているため、いかに結核対策とHIV対策との連携を有効に実施するのかが課題の1つとなっています。また、色々な調査やオペレーショナルリサーチがDOTSの地域への拡大と塗抹検査精度管理ネットワーク構築業務等と同時に進行しているため、それら業務の円滑な執行のために適切な調整を行うことが課題として挙げられていました。


 フィリピンの結核対策に対する日本の技術協力は1992年から実施されています。2002年に国立結核リファレンスラボラトリーが日本の無償資金協力により建設されました。この施設が、同じく日本により建設されたセブのリファレンスラボラトリーによって確立された塗抹検査精度管理ネットワークを、全国規模に拡大する拠点となることを目指しています。また2001年にほぼ全国にDOTSの拡大が達成されたことを受けて、その質の向上のために結核対策担当官による巡回指導の質的改善も目指しています。課題としては、他の国際支援団体との連携と調整、保健省結核対策担当官や全国結核リファレンスラボラトリーの職員らによる巡回指導のための予算確保、さらに保健省から緊急に以来のあった抗結核薬固定用量合剤導入のための研修必要経費の支援等が挙げられていました。


 ネパールにおける結核対策への日本の技術協力は、1987年から実施されています。首都カトマンズにおける国立結核センターと地方都市ポカラのリージョナル結核センターとが、日本の無償資金協力によって建設されて、全国の結核対策活動の拠点として機能しています。2000年から開始された現プロジェクトは、都市部及び遠隔地における結核対策活動の強化を中心として、喫煙対策及び小児呼吸器感染症対策等を含む呼吸器疾患対策を包括的に実施するモデル作りを行っているところです。課題としましては、数多くある国際支援団体及びNGOとの連携強化、経済発展が停滞している中での結核対策への予算確保の困難さ等が挙げられていました。


 ミャンマーへの日本による結核対策技術支援は、「主要感染症対策プロジェクト」の中の一つとして、今年の7月に開始される予定です。同国では、既に全国でDOTSが実施されていますが、その質の維持と向上とが課題として挙げられています。日本による結核対策支援は、首都ヤンゴンと第2の都市マンダレーとを対象地域として実施する予定です。課題としては、同国の政情不安定による現地業務への影響、前保健省結核対策課長を現地コンサルタントとして採用して現地業務を実施する試みなどが挙げられていました。


 ザンビアでは、1989年以降ザンビア大学附属教育病院における検査室整備のための技術協力が日本政府により実施されてきました。2000年からはこれまでに整備されてきた同病院における検査室が、エイズ対策と結核対策のために有効に利用されることを目的として、「エイズ及び結核対策プロジェクト」が開始されています。結核対策分野では、首都ルサカを含むルサカ州において質の高いDOTSの実施と、塗抹検査精度管理ネットワークが確立され、全国のモデルとなることを目標として本年からさらに活動を強化する予定です。課題としては、保健省と複数の国際支援機関による結核ワーキンググループを通して関係諸機関との連携を強化すること、エイズ対策部門との連携強化、さらに教育省の下にあるザンビア大学付属教育病院検査室と保健省による結核対策との連携強化等が挙げられていました。

 会議2日目には、各プロジェクトで共通の課題となっているいくつかの問題点について議論がなされました。相手側政府による結核対策への予算確保が、期待通りになされていないことが大きな問題点の1つとなっていました。相手政府の自立した結核対策運営のために、相手国内の人材育成と共に、政府が結核対策への必要な予算確保をするように働きかけることも大切であることが確認されました。相手政府の結核対策活動において特に改善すべき点としては、保健所への巡回指導の具体的な方法、喀痰塗抹検査精度管理ネットワークの構築とその運営、薬剤供給の運営管理等がありました。いずれの点でも鍵となるのは、適切な技術を習得し、かつやる気を持った人材の育成であり、この分野における日本の貢献が大いに期待できます。育成された人材が結核対策分野で継続して貢献するためには、何らかのインセンティブ(励み)が必要ですが、「必ずしも金銭によるものでなくても他の形態によるものがあるのではないか」との意見が出されていました。複数の国際支援機関が比較的高額の給与を現地の職員に支払っている現状がある中で、JICA結核プロジェクトのカウンターパートとして金銭によるインセンティブ無しに継続して活動するのは、困難な場合が多いことも意見として出されていました。
 2日間の意見交換会を通じての鍵となる言葉に、「相手国における人材育成」と「我が国における人材育成」の2つが挙げられると思います。結核対策分野における相手国における人材育成は、JICAプロジェクトや結核研究所を中心として1960年代から携わり、現在も継続して実施している日本における国際協力の柱の1つです。一方、我が国における結核対策分野における人材育成に関しては、今後私たちが取り組むべき大きな課題の1つです。その意味でも、現在様々な形でJICA結核対策プロジェクトに関わっておられる専門家の方々が中心となって、さらに若い人材が継続して育成されているシステム作りが必要と思われました。


 updated 04/08/27