第62回日本公衆衛生学会総会        
 10月22日〜24日/国立京都国際会館(京都市)



結核の自由集会IN京都 〜結核集団発生の対策に関して〜

                        結核研究所対策支援部
                      放射線学科長  中野 静男
 

 第62回日本公衆衛生総会が10月22より京都で開催され、例年この学会にあわせ結核研究所が主催する自由集会が、学会初日の夜、地下鉄鞍馬口駅から30mとごく近い、住宅街の一角にある関西文理学院で行われた。参加者は結核研究所の長期研修修了者や結核研究所の学会ブースを訪れ自由集会を知った人など117名で、熱気あふれる集会となった。
 今回は、結核感染の新しい診断方法クウォンティフェロン(QuantiFERON-TB,以下QFT)を理解し、それを利用した結核集団感染の事例を報告してもらい、保健所での定期外健診の対応や集団感染対策の質の向上につなげることを目的としたものである。

●講演● 

 はじめに森結核研究所長の講演「結核感染事例における結核感染の新しい診断方法」において、QFTの原理、ツベルクリン反応とQFT陽性率との関連などについて詳しい説明があった。日本ではほとんどの人がBCGを接種しているため、集団感染が起こった時、ツ反のみでの結核感染の判定には難しい判断を強いられているが、その点QFTは結核菌のみに特異的に反応するため結核感染の判定に有力であるとの話であった。

●事例報告●

 この後、事例発表が3題あった。
 結核予防会千葉県支部鈴木公典先生から「中学強陽性者・高齢者におけるQFTの経験」として、中学生と高齢者を対象としたQFT-TB第一世代と第二世代の比較報告があった。中学1年の結核健診にて精検となり同意を得た25例にQFT-TB第二世代を実施、また平成10年度にQFT-TB第一世代を実施した同条件の中学1年生62例との比較では、第一世代はBCG接種との鑑別は困難であったが、第二世代ではBCG接種の影響を受けずに感染の有無を診断でき、また接触者における化学予防の適応の決定に有用であった。一方、高齢者の施設で同意の得られた68例に第二世代を実施評価した結果、70歳以上の高齢者では年齢が上がるにつれ感染率が低下した。これについては、高齢者は免疫が弱くなる。細胞レベルでの反応などが考えられるとのことであった。
 三重県鈴鹿保健所の長坂祐二先生からは「ベトナム従業員集団での患者発生へのQFTの応用」として、ベトナム出身の女性従業員を採用している事業所での集団発生の報告があった。初発患者はベトナム出身の28歳女性で、ツ反とあわせて行ったQFTの接触者健診結果から、予防内服者を決定する背景として、ベトナム国の結核罹患率の状況、患者との接触度合いなどを勘案し予防内服者を絞った興味ある事例であった。そして、長坂先生からは、ツ反のみで感染を判断する限界、新しい対策には新しい技術の手法を付け加えてほしいとの要望も出された。
 中央区保健所の成田友代先生からは「夜間・休日の社会活動の場で感染拡大した結核集団感染事例」として、週2回の集会に100人が参加、同一室内での歌や講義を内容とする密接な接触状況から、発見患者10人、予防内服者27人となった集団感染事例の報告があった。これは前2題のQFTを利用したものとは違い、従来の結核対策の手法を用いきめ細やかな対応をしたもので、集団感染対策においても医療機関との緊密な連携や、計画通り丁寧に健診を進めていくことが極めて大切であるとの話であった。
 最後に、結核予防会山下事業部長より「日本の結核対策の歴史は変わろうとしている。本当に必要なものであれば我が国はお金に糸目をつけないはず。ツベルクリンの技術に関する現場の苦労を考えたなら、QFTは高価だとは言え、結局安上がりではないだろうか」とまとめの発言があり、自由集会は終了した。
 今回のメインテーマとなったQFTの新しい技術が、日本の結核対策に大きく威力を発揮するのではないかと確信する集会となった。そして、関係者同士、来年の島根県での再会を誓い合った。


Updated04/04/07