21世紀 京都府版DOTS事業の展開







                           京都府保健福祉部健康対策課 
                                  感染症係企画主任
                                     木下 直子

▼はじめに▼

 世界的にみても結核罹患率はまだまだ中蔓延国の日本で、「治療に勝る予防はなし」と平成12年から「日本版21世紀型DOTS戦略」(大都市型DOTS事業)が展開され、平成15年2月には厚生労働省から「日本版21世紀型DOTS戦略」の通知で、より地域に沿った具体的な患者支援が推進されてきているところです。
 京都府においては平成9年から、地域の結核拠点病院と保健所が、結核患者の継続的な医療支援をねらいに看護連携会議を立ち上げてきましたが、平成14年3月から病院内DOTSを、4月からは在宅DOTSの取り組みを進めてきた「京都府(南部)版DOTS」を紹介します。 

▼京都府南部地域の状況と看護連携の経過▼

 京都府の結核罹患率は順調に低下していましたが平成9年、10年に前年より上昇し、以降再び低下してきていますが、低下率は年々小さくなっています(図1)
また、新規登録患者に占める喀痰塗抹陽性患者の割合も年々上昇しており、特に70歳以上の高齢者においては、平成14年には54%という現状にあります。
 今回紹介の南部地域(宇治・田辺・木津保健所管内)は、京都府内(政令市除く)の新規登録患者数の半数近くを占める地域で(図2)、京阪神と隣接し、生活圏が共通であり比較的若い層に新規患者が多いこと、疫学上のハイリスクと呼ばれる層からの集団感染の報告が多いことから積極的な連携が始まってます。
 平成9年度当時南部3保健所が病院に面接に出向く際、保健所によってアポイントの取り方等が異なっていたり、病院の看護師からも「なぜ保健所の保健師がこの情報をほしいのか分からない」といった疑問が挙がっている状況でした。そこで、看護連携会議を設置し、関係者が一同に介し、共同で退院サマリーの検討、各種連携様式や管理検診リーフレット、連携マニュアルの作成を行いました。また、医事課や外来部門とは飯場等無保険者対策、医師・検査部門とは治療期間や治療2ヵ月後の細菌学的情報等、看護の領域だけでなく幅広く病院と連携が取れるようになりました。さらに、患者支援の1手法であるDOTSカンファレンスを実施している先進地を病院医師等のスタッフと合同で視察し、この地域で可能な患者の治療終了に向けた支援を考えてきました。

図1       図2

 
▼DOTS事業の実施方法とDOTSカンファレンスの実際▼

 このように病院と保健所の連携に進める中で発展してきた京都府におけるDOTS事業について、DOTSカンファレンスを中心に紹介致します。

1.DOTS事業の実施方法
(1) 対象
 ・喀痰塗抹陽性患者で入院中に病院内DOTSを受けた患者
 ・34条で生活・合併症等で中断のリスクの高い患者
(2)DOTSカンファレンス
  対象者ごとの治療方針の確認退院後の実施方法等個人計画の確認
(3)対象者の承諾
  DOTSカンファレンス終了後、在宅DOTS対象者に面接の同意を得る。
(4)退院後の服薬支援                         
  退院後の2週間は週2回、3週目から治療開始後の6ヶ月(標準治療期間)まで週1回、患者宅に保健師が訪問し、服薬を支援する。

2.DOTSカンファレンスの実際
(1)目的
  結核病床を有する医療機関(国立療養所南京都病院)と保健所が連携し、確実な服薬を入院中に引き続  き退院後も在宅において服薬終了まで支援し、治療中断・脱落を防止することによって、結核患者を確実に治癒させ、再発及び多剤性菌結核の発症を予防し、罹患率を低下させる。
(2)構成
  ・病       院      主治医、病棟・外来看護師長、担当看護師
  ・保   健   所      所長 、業務・地域担当保健師
  ・府健康対策課       結核担当保健師 
(3)内容
  ・入院中の情報や治療内容等の治療期間を把握
  ・家族状況(支援者の有無)の把握
  ・接触者健診の状況の把握
  ・退院後の生活及び地域DOTSに向けて
(4)開催場所
   病院カンファレンス室
(5)開催回数
   月2回  第1・3金曜日の午後
   第1金曜日については終了後看護連携会議

3.DOTSカンファレンスを実施して必要を感じたこと
  ・入院中に在宅DOTSの承諾を得ること。
  ・退院先、住居、介護福祉等関係機関との調整のいる人は、少なくとも退院予定1ヶ月前にカンファレンスを行う。
  ・実際に在宅DOTSを行っている人についてもカンファレンスで話し合い、生活状況・外来通院状況や服薬状況を共有する場とする。

▼DOTSカンファレンスから発展した看護の連携の取り組み▼

 DOTSカンファレンスを実施していく中で、より強力な看護連携の必要性を感じたことから、京都府ではさらに次のような取り組みを開始しています。

内容
1.拠点医療機関の看護師の結核研究所への派遣
  結核対策特別促事業で平成13年度から拠点医療機関の看護師を結核研究所に派遣。現在院内のリーダーとして、また保健所とのカンファレンス担当として活躍中。

2.拠点医療機関の看護師の地域保健所研修の実施
  病院側と保健所側で相互に目的を持ち、平成14年度から下記の内容により地域保健所研修を実施しています。平成14年度は南部3保健所で4名ずつ計12名の病院看護師を受け入れ、平成15年度においても 引続き研修受け入れ予定です。
(1)目的
  ・結核患者管理を理解し、病院看護師はどこの部分を担っているかを理解する。
  ・患者の治療成功のために院内で行うことと、地域が必要な情報の整理をする。
(2)内容
  ・結核診査協議会(結核モデル診査協議会)
  ・コホート検討会
  ・定期外健康診査、接触者健診
  ・家庭訪問(在宅DOTS)の実際

*保健所研修を終えての病院看護師からのレポートを紹介します。
  ・患者管理は全般と保健所の役割を理解することで、病院はどの役割を担っているかが明確になり、院 内DOTSの役割がより理解できた。
  ・保健所の結核管理は、その人個人だけでなく接触者等地域全体の管理であることが理解できた。
  ・3日検痰の意味、2ヶ月後の菌陰性確認等の重要性を再確認し、今後痰の検査の質や結果に目を向けることと保健師へ適切な情報を提供しようと思った。
  ・地域DOTSの訪問で、対象者の生活がより具体的に理解できた。

3.DOTS修了者に対する評価
 月に2回実施のDOTSカンファレンスのうち、1回目終了後、看護研究等を目的に看護連携を行っている。平成15年度はDOTS修了者に対する評価を目的に、現在アンケート調査を実施している。

今後に向けて
 院内と保健所との情報の共有化と目的の一致は、患者の治療完遂において最も大切な役割を果たし、「目的は対象の治療完了を支援すること」が相互に確認できました。今年度も研修を実施し、さらに連携の広がり深まりを持たせたいと思います。
 今後も同じ目的を持って、治療終了後のコホート分析や個別患者支援の評価等の顔の見える連携の中で構築することが、地域の結核対策の評価となり、今後の対策を示唆してくれるものと考えています。

▼おわりに▼

 平成15年2月に「日本版21世紀DOTS戦略」通知が出された時、今まで「なぜ大都市でもないのにDOTSが必要なのか?」と言われてきたことに確信を持って「必要」と言える後押しをしていただいた様な思いでした。示されているのは、紛れもなく京都府下で取り組み・取り組もうとしている、日々の保健所の結核患者支援方法である、看護連携をベースとした患者管理の手法だったからです。
 今後も信頼関係の中1人1人の患者支援を大切に、地域に合った方法でより関係機関等との連携を深め、患者の治療終了まで見守っていけるよう努力をしていきたいと思います。


Updated04/04/07