和歌山県のDOTS事業


和歌山県田辺保健所
健康推進課主査
川崎 貴美子

経緯

 2001年に大都市のDOTS事業が報告され、DOTSとは結核患者を減らすために欠かせない手段であること、またその方法として確実な服薬支援が重要であることが示された。
 そこでこれまでの患者支援にDOTSを導入するため、県の結核拠点病院である国立療養所和歌山病院(以下、W病院)へ働きかけ、入院中の処遇困難事例に対して服薬支援方法を検討した。その結果、看護師はこの患者に対して院内DOTSを行った。
 これを機会に、W病院では2002年3月から院内DOTSの完全導入やDOTSカンファレンスを実施している。しかし、医療機関との連携や治療成功を目指した患者支援を進めるには、保健師個々の活動では限界があった。
 このため、2002年6月に県内の結核担当者(中核市保健所を含む)が一同に会するDOTS対策検討会を立ち上げたので報告する。

DOTS事業の概要

 和歌山県のDOTS事業は、1.院内DOTSの推進、2.DOTSカンファレンス、3.地域DOTS、4.DOTS対策検討会から成っている。
 表1には、治療成功率を高めるために、取り組みたかった内容と実施したDOTS事業及び成果について記載した。
 なお、数値から見た成果の詳細については、コホート調査を2003年も継続して行うことで検討していく予定である。本事業開始前の和歌山県の結核罹患率は2000年41.6、有病率は40.6であったが、直近の2002年データでは、それぞれ30.0、25.9と改善した。

1.院内DOTS
 結核病床を有するすべての病院(3施設)に対して、県が院内DOTS推進に関与した結果、W病院では2002年3月から、A病院は2002年8月から、B病院は2003年2月から院内DOTSを実施している。
 院内DOTS対象者は入院患者全員で、看護師が個別にDOTSの説明を行い服薬手帳を渡し、毎朝9時に病室で服薬の見守り確認を行っている。
2.DOTSカンファレンス
 (1)実施回数:月1回
 (2)実施時期:治療開始から終了までの全期間中で、随時事例を出す
 (3)出 席 者:病院(医師・看護師)、県保健所(保健師・診療放射線技師)、中核市保健所(医師・保健師)、県健康対策課(事務員)
 (4)内   容:治療経過、菌検査結果、社会的背景、定期外健診の実施状況、精神面の状況、家族の状況、退院後の服薬と生活状況、服薬終了報告等
 DOTSカンファレンスでは、入院時から病院と情報を共有することで、患者の状況等が把握でき、信頼関係が早く築けるようになった。また、退院後も引き続き服薬支援が必要な患者に対しては、入院中に随時DOTSカンファレンスを行うため、事前に服薬支援者のコーディネートができ、患者一人一人のニーズに合った支援ができるようになった。
3.地域DOTS
(1)事例紹介−服薬支援者のコーディネート−
 @患者の背景 69歳 男性
           肺結核 ガフキー3号
           介護認定 要介護1
           2人暮らしで妻は視覚障害があり、寝たきりである
           毎日訪問介護を受けている
 A服薬支援者 ホームヘルパー    毎日訪問
           ケアマネージャー   随時訪問
           役場保健師      随時訪問
 B事例検討会 退院前に、病院スタッフと服薬支援者及び保健師で1回実施
           退院後、服薬支援者と保健師で2回実施
 入院当初より、DOTSカンファレンスで服薬中断の可能性が高いことが指摘されていたため、保健師は患者の同意を得て服薬支援者のコーディネートを行い、退院前に服薬支援者と患者面接を行うようにした。この時、「結核が治るように私たちも頑張りたい」ことを伝え、服薬確認の方法を患者の希望を聞きながら決定することにした。また服薬支援者が不安なく訪問できるように検討会を開き、医師・看護師から薬と身体状況について説明してもらった。退院後の服薬確認はホームヘルパーが毎日行い、保健師は服薬支援者から報告を受け問題があればすぐに患者を訪問した。
 また、主治医も服薬手帳による服薬確認を行ってくれたことで、一貫性のある患者支援が行えたと考える。
 この事例は、排菌が服薬後1ヵ月目から陰性になり、2003年2月に服薬終了している。表2
(2)服薬中断リスクアセスメント票(案)、表2の活用
 服薬支援方法は、従来地域を担当する保健師の判断にまかされていた。しかし、2003年2月「日本版21世紀型DOTS戦略推進体系図」が提示されたことや、「W病院の訪問看護による地域DOTS推進」を計画していたことから、客観的に捉えられる支援指標が必要となった。
 そこで、服薬中断リスクアセスメントについて、W病院と検討を行った結果、表2を作成し、2003年4月のDOTSカンファレンスから試行的に使用している。これは、看護師が事前に記入して、DOTSカンファレンスで検討を行い、特に問題点を数量化しづらいものや一つの問題点の持つ意味が大きい場合などは、特記事項欄にそのことを記入してから総合的に判断し、A・B・Cに分けるようにしている。
4.DOTS対策検討会
(1)実施回数:月1回(W病院DOTSカンファレンスと同一日)
(2)場   所:W病院会議室
(3)出 席 者:県健康対策課(事務員)・県保健所(保健師・診療放射線技師)、中核市保健所(医師・保健師)
(4)現在までの検討内容
 @ビジブルカードへの服薬状況と菌情報の確実な記入について
 A菌検査の病院別把握方法の一覧表作成
 B菌検査の方法別、適切な把握時期について
 C服薬ノートの活用紹介
 Dコホート調査の実施(2000・2001年新登録喀痰塗抹陽性者を対象)
 E連携マニュアル(W病院と保健所)作成の検討
 F合同勉強会 クリニカルパス・高齢者の結核等(W病院医師・看護師が講師)
 Gコホート検討会の全保健所実施に向けての検討
 HPZA使用状況調査の検討
 DOTS対策検討会は、今までの取り組みを通して得た課題を、互いに自分たちの問題として捉え共有することによって、「何が必要か」「何ができるか」という視点に立ち取り組んでいる。

まとめ

 和歌山県のDOTS対策の基本は医療機関との連携にあり、患者が入院した時点から保健所と県担当課が関与して、医療機関・県・保健所が協同で治療終了を目指していることである。このため、DOTSカンファレンスでは治療期間中のすべてにおいて医師・看護師、保健師・診療放射線技師等が問題を共有している。
 次に、DOTS対策検討会では中核市保健所を含む結核担当者が、治療成功率を高めることや問題解決について共通認識を持ち、県内一丸となって取り組んでいる。
 これらの事業を行ったことにより、看護師・保健師等の意識改革ができ、これが患者に伝わったため服薬意欲が高くなったと思われる。そして保健師の訪問や電話に対して、「大丈夫だよ、薬飲んでるよ」、「この薬が大事なんだよなあ。分かってるよ」と、服薬の大切さを患者自身から話してくれるようになった。
 結核患者の治療成功の鍵は、オーダーメイドの患者支援であり、医療機関との連携から始まったこれらのDOTS事業は、個々の患者支援を効果的に推進していくものと考える。


Updated03/10/31