肺がんC T 検診
ー新しい時代の胸部検診の構築ー




岡山県健康づくり財団
結核予防会岡山県支部
理事・附属診療所所長
 
守谷 欣明


1.はじめに 
 2002年11月に福岡市で開催された第43回日本肺癌学会で,肺がんCT検診のセッションの座長を務める機会があった。一次検診にらせんCTが導入されて10年になり,「東京から肺がんをなくす会」の高危険群の会員制検診,長野の市町村住民検診やJA組合員検診,日立健康管理センターの職域検診で経年受診の成績が出そろい,また次世代のマルチスライスCTの経験も報告され,討議された。
 これらの成績に胸部CT検診研究会に報告されたCT検診の成績を加えて,わが国の肺がんCT検診の現状を検証し,CT検診の特徴と課題を整理していくと,今後CT検診を全国的に実施する場合に実現可能な方式が見えてくる。この画期的な医療技術の恩恵を国民の多くが等しく享受できるものでありたい。

2.CT開発の歴史
 1973年にCT(Computed Tomography)が開発されて以来,より薄層の精細な画像を,より低線量の短い撮影時間で得ることを目指して改良が進められてきた。1990年にわが国でらせんCTが開発されて,1993年から肺がん一次検診に導入され,1994年にはCT検診車が製作された。また,高分解能CTで精緻な薄層CT画像の描出が可能になった。
 1998年には次世代CTとしてマルチスライスCTが実現し,X線管球が1回転する間に複数の検出器で断層画像が得られ,低線量でさらに精細な薄層画像となり,また横断面のほかに冠状断面,矢状断面,あるいは正確な3次元画像表示が可能になった。検出器も4列から2002年には16列が登場し,さらに多列化の開発が続いている。多列化により飛躍的に増加する画像の読影やデータの保存が課題になっている。

3.高危険群の会員制検診
 「東京から肺がんをなくす会」の高危険群を対象にした会員制肺がん検診が,1975年に年2回の胸部X線写真と喀痰細胞診で始まり,1993年にこれにらせんCTが導入されて,CT検診の先駆けとなった1)
 CT導入後の成績は,受診者数延べ14,526名,要精検率10.2%,肺がん54例,発見率0.372%,病期TA期早期がん82%,肺野型89%,平均腫瘍径15.8mm,5年生存率83%である。CT導入前の成績は,受診者数延べ26,338名,要精検率5.1%,肺がん43例,発見率0.163%,TA期42%,肺野型81%,平均腫瘍径30.4mm,5年生存率48%であったので,肺がん発見率が上昇し,早期がんが増加し,5年生存率も改善した(表1)。
 なお,CTに所見がなく,喀痰細胞診で発見された肺門型扁平上皮がんが5例,9%あった。

4.住民検診
 長野では住民検診とJA組合員検診があり,後者の対象も住民検診に近い。
1)長野プロジェクト2)として,1996年から3年間に限って29市町村の住民の希望者を対象に,CT検診車による一次検診が行われた。受診者は初回受診7,847名,経年受診延べ10,045名,計17,892名で,年齢は40歳〜74歳,平均年齢61歳,男女比55対45,要精検率は初回受診が13.2%,経年受診では6.2%となり,肺がんは初回受診が37例,そのうち1例は喀痰細胞診発見で,発見率は0.472%,経年受診が30例で,発見率は0.299%である。
 手術で組織型の確認された肺がん63例で見ると,平均年齢65歳,女性が45%,非喫煙者が54%で,初回受診の大部分は高分化腺がんで,女性や非喫煙者が多かったが,経年受診では中分化腺がん,低分化腺がんや扁平上皮がん,小細胞がんの比率が高くなり,男性,喫煙者が多かった。病期TA期早期がんが82%,径15mm以下が72%,径20mm以下が93%で,同時の胸部X線写真で70%が見えなかった。肺がん発見率は1年目0.557%,2年目0.747%,3年目0.187%で,2年目に高かったのは1年目の読影が経験不足であったためとされている。
2)長野県健康づくり事業団(結核予防会長野県支部)では2000年から18市町村でCT検診を開始し3),1年目は受診者数2,996名,男女比59対41で,肺がんは9例,発見率は0.300%,男性が8例で喫煙歴あり,女性が1例で喫煙歴はなく,全例が腺がんで,7例が腫瘍径20mm以下,8例が切除された。
 2年目は21市町村で受診者数3,851名,男女比62対38で,肺がんは9例,発見率は0.234%,男性が6例,女性が3例,6例が腫瘍径20mm以下,7例が切除された4)
3)JA長野では1985年から肺がん検診が行われているが,2001年にCT検診車を導入し,初年度の成績が報告されている5)。受診者数は6,633名,男性が3,889名で平均年齢54歳,女性が2,744名で同57歳,要精検率は17.7%,肺がんは36例,発見率は0.543%であるが,男性が12例,発見率は0.309%,女性が24例,発見率は0.875%で,肺がん発見率は女性が高い。またCT導入前の肺がん発見率は0.026%と低かったので,CT検診による初年度の肺がん発見率は高率である。肺がんの病期はTA期早期がんが69%,腫瘍径20mm以下が72%であった。
表1.肺がんの早期がんと進行がん
早期がん 病期0期 上皮内がん
TA期 腫瘍径3mm以下でリンパ節転移なし、隣接臓器浸潤なし、遠隔転移なし
進行がん 病期VA期 同側縦隔リンパ節転移あり、隣接臓器浸潤あり
VB期 対側縦隔リンパ節・鎖骨上窩リンパ節転移あり、隣接重要臓器浸潤あり、悪性胸水
W期 遠隔転移あり

5.職域検診
 日立健康管理センターでは1998年から4年7カ月間に延べ29,655名,実人数10,882名のCT検診を行い,喫煙指数600以上には喀痰細胞診を併用した6)。対象の男女比は81対19,年齢は50歳〜69歳,平均年齢57歳で,要精検率は4.0%,高分解能CTの画像診断や陰影増大で肺がん疑い紹介率は0.4%,肺がんは69例,発見率は0.233%である。
 CT検診の初回受診と経年受診の特徴を対比してみると,表2のごとく,要精検率は初回受診6.5%と経年受診2.0%,肺がん疑い紹介率は初回受診0.81%と経年受診0.16%,肺がんは初回受診51例と経年受診18例で,発見率を受診回数ごとに見ると1回目0.469%,2回目0.082%,3回目0.082%,4回目0.152%となり,従来の肺がん検診に近く安定する。肺がんの病期TA期早期がんの割合は初回受診82%と経年受診89%であったが,初回受診と経年受診では組織型と分化度に差があり,初回受診は高分化腺がんが75%を占めるが,経年受診では44%に減少して中分化腺がん,扁平上皮がんの発育の早い肺がんが増加し,男性,喫煙者が多い。経年受診では比較読影が早期発見につながった。
 職域の肺がん検診は年齢が若いために発見率が低く,まとまった報告は見られないが,日立グループのCT検診は対象が50歳〜69歳で,精度の高い肺がん検診が継続して行われ,経年受診の成績を含む貴重な情報を提供してくれる。
表2 日立健康管理センターの職域胸部CT検診(年齢50歳〜69歳)
初回受診 経年受診
受診者数(男:女) 10,882(8,836:2,046) 延べ18,773(15,011:3,762)
要精検率 6.5% 2.0%
肺がん疑い紹介 88(0.81%) 33(0.16%)
確定肺がん(男:女) 51(36:15) 18(13:5)
肺がん発見率 0.469% 0.096%
組織型 高分化腺がん 38(74.5%) 8(44.4%)
中分化腺がん 9 8
低分化腺がん 1
中分化扁平上皮がん 2
大細胞がん 2
カルチノイド 1
病期 TA期 42(82.4%) 16(88.9%)
TB期 4 2
UA期 3
UB期 1
VA期 1
平均腫瘍径 16.8mm 15.4mm
喫煙率 45.1% 61.1%


6.マルチスライスCT
 1998年にマルチスライスCTが開発され,現在は検出器4列の機種が多く使われているが,高価であり,これを用いたCT検診は未だ受診者も少なく,経年受診の成績が出るまでに至っていない。
 CT検診でマルチスライスCTは2つの使い方が試みられていて,(1) より低線量あるいは短い撮影時間で薄層画像を得て微小肺がんの検出を目指す方法と,(2) シングルスライスCTと同等の線量で薄層CTの可能な撮影をしておき,スクリーニングCTで検出した陰影について,必要に応じて精検CTに準じた薄層画像で要精検を絞り込む方法である。これにより受診者の負担は精神的にも著しく軽減される。
1)小諸厚生総合病院では人間ドックでマルチスライスCTによる胸部検診を行った7)。撮影時間が酸素吸入下で平均26秒であるが,超低線量,2.5mmの薄層画像のCT検診である(表3)。受診者数は1,174名,男女比71対29,平均年齢56歳,喫煙者58%で,要精検率は25.6%,肺がんは10例,発見率は0.852%となり,全例切除され,高分化腺がんであった。また,切除された異型腺腫様過形成が3例あった。
 なお,経年受診の377名では比較読影で要精検率が11.9%に低下した。
2)栃木県がんセンターではマルチスライスCTを用いて,撮影時間5.5秒で,5mm再構成画像のCT検診を行った8)(表3)。受診者数は延べ1,527名,男女比61対39,要精検率は19.8%で,肺がんは6例,発見率は0.393%となり,5例は腺がんですべて病期TA期早期がん,1例は扁平上皮がんVA期であった。なお,要精検率は1年目27.7%,2年目10.6%であるが,経年受診者に限ると3.8%で,従来の肺がん検診と同等に低下する。
3)栃木県保健衛生事業団(結核予防会栃木県支部)では人間ドックでマルチスライスCTの胸部検診が行われ9),受診者503名から肺がん4例が発見され,腺がん3例,扁平上皮がん1例で,腺がんの2例が病期TA期であった。
 このマルチスライスCTを使った胸部検診では,1回の撮影で得られた画像データから2mm画像と10mm画像を作成し,結節影の検出能を検討している9)(表3)。スリガラス様陰影は5mm以上,充実性陰影は3mm以上とし,2mm画像上の結節影395のうち10mm画像で95.7%が描出されていたが,10mm画像で認められなかった17のうち径5mm以上は11で,5.0mm〜6.9mm,平均5.4mm,CT値は平均−683と低く淡い陰影であった。これが肺がんであるとすれば高分化腺がんに相当し,発育が遅く1年後もなお根治可能な段階にとどまると考えられた。

7.CT検診の読影とコンピューター診断支援
1)CTの読影はフィルム読影と高精細CRTモニター読影で行われるが,CT検診では一般にモニター読影で,50%オーバーラップ再構成画像で行われている。観察方法としてページめくり法とシネモードがあり,1mm補間シネディスプレイ画像を任意に移動させて読影する方法6)は微小陰影を検出し,また石灰化や連続性を確認して血管の正切像を排除するなどに有効で,読影時間が短く,読影医の負担も少ない。
2)比較読影は既に一般化し,経時的変化により要精検の絞り込みに有効であるが,CT画像の膨大な情報の保存と比較読影に耐え得る画像圧縮を検討する必要がある。
3)CT検診の遠隔読影システムは長野プロジェクト2)で衛星通信によるCT画像の伝送実験が行われているが,大阪府立成人病センターと千葉大学の間で高速通信が可能なギガビット光ネットワークを用いた読影システムの運用試験が始まっている。CT検診の読影医不足,地域差を解消する手段となる。
4)らせんCT画像のコンピューター診断支援システムの開発が,徳島大学工学部光応用工学科,国立がんセンターのグループと豊橋技術科学大学知識情報工学系,日立健康管理センターのグループで行われている。肺がんを検出する存在診断と良悪性を鑑別する質的診断があり,存在診断システムの実用化は間近な段階にある。今後のCT検診の普及にコンピューター診断支援は欠かせない。

8.CT検診の限界
 金子班「低線量CTによる肺がん検診の有効性に関する研究」10)が2001年に発足し,3年以上継続して1000例以上のCT検診を行っている8施設の成績は,受診者数延べ59,123名,肺がん212例,発見率0.359%で,病期TA期早期がんが168例,79%を占めるが,死亡が23例,11%あり,そのうち18例,8%は肺がん死であった。CT検診発見肺がんの中にも早期の原病死があり,5年生存率で見ればさらに死亡率は高くなる。

表3 CT検診の撮影条件
シングルスライスCT マルチスライスCT

管電圧・管電流 120kV・50mA 120kV・25mA 120kV・30mA 120kV・10mA 120kV・30mA
撮影スライス厚 10mm×1列 10mm×1列 5mm×4列 2.5mm×4列 2mm×4列
ヘリカルピッチ 2.0 2.0 5.5 3.0 5.5
回転速度 1秒 1秒 0.5秒 0.8秒 0.5秒
撮影時間 15秒 15秒 5.5秒 26秒
酸素吸入下
16秒
再構成スライス厚・間隔 10mm ・10mm 10mm ・10mm 5mm ・5mm 2.5mm ・2.5mm 10mm・10mm
2mm・ 2mm
CT画像枚数 30枚 30枚 60枚 110枚 150枚
被曝線量 CT線量指標 0.13cGy 1.10cGy 1.02mGy
実効線量 1.2mSv 0.43mSv
 「東京から肺がんをなくす会」の高危険群を対象にした年2回のCT検診では,経年受診にもかかわらず病期TA期を越えていた肺がんが7例,13%あり,TB期1例,UB期1例,VA期2例,VB期1例,W期2例で,小細胞がんの2例が病期W期で6カ月ごとの検診でも進行がんであった11)(表1)
 また,「東京から肺がんをなくす会」のCT検診の発見肺がん54例のうち16例,30%が扁平上皮がんで,その病期はTA期早期がん12例,TB期1例,UA期1例,VA期2例で,予後は12例は健在であるが,原病死2例,他病死2例があった12)。この扁平上皮がんを発生部位で見ると肺門型が6例で,CT無所見喀痰細胞診発見の5例はTA期早期がんで,初回受診のCTと喀痰細胞診の双方で発見された1例はVA期であった。一方,肺野型は10例で,TA期7例,TB期,UA期,VA期各1例で,VA期の1例は2年間の経過観察中に腫瘍径が急速に20mmに増大して肺門,縦隔リンパ転移を認め,原病死した。
 なお,肺野型扁平上皮がんの2例は初回受診の発見であるが,8例は複数回のCT検査があり,6カ月前のCTに陰影の認められない増大速度の極めて早い扁平上皮がんが2例あった。また,肺野型扁平上皮がんの3例はCTに陰影が出現する前から喀痰細胞診でがん細胞が検出され,気管支鏡検査で局存診断ができないまま経過観察となっていた。
 男性喫煙者の扁平上皮がんの早期発見には,精度の高い喀痰細胞診が必要であるが,喀痰細胞診が有効に行われているところは少ない。

9. CT検診の費用
  CT検診車の制作費はシングルスライスCTが7,000万円,マルチスライスCTでは9,000万円を要し,保守費用も高額である。シングルスライスCTによる肺がん検診で,1日50人,年間100日の検診を行うとして,CT検診に要する総費用は1人10,000円と試算され,レンタルCT検診車は1回5,000円と設定されている。従来の胸部X線車の製作費が3,000万円で,間接X線検診が結核予防法で800円,老人保健法下での肺がん検診料500円が上乗せされて1,300円前後であるのに比しかなりの高額となる。
 先駆的に行われている住民検診のCT検診の自己負担額を見ると,愛媛が6,000円,長野が市町村により1,000円〜3,500円,栃木・茨城がレンタルCT検診車で2,000円,またJA長野の組合員が5,500円などである。従来の肺がん検診は国と市町村が費用の大半を持って推進してきたが,CT検診は市町村が新たな負担をするとしても,受診者の負担に頼らざるを得ない。栃木ではCT検診で受診者負担が2,000円になったにもかかわらず受診者が増加した。愛媛では1台のCTに3台の画像構成コンピューターを配置して,1日の撮影人数を50人から120人に増やし,効率化による単価の抑制を試みている。
 CT検診の普及には検診費用が高額になることが最大のネックになっていて,検診仕様のより安価で耐久性のあるCT検診車をまとめて造ることで製作費の軽減を図ること,またCT検診を経年受診ではなく何年かに1回の受診にして,受診者の負担を分散させることが考えられる。

10. CT検診の特徴
 現在までに報告されたCT検診の成績を検証すると,CT検診の特徴と課題が具体的になり,今後CT検診が実際に全国的に行われるとすればどのような検診の方式になるのかが明らかになってくる。CT検診の特徴は次のように要約される。
1)CT検診を導入すると,初回受診では肺がん発見率が高く,腺がんが多く,病期TA期早期がんの割合が高く,女性,非喫煙者が多い。発見率が肺がん存在期待値を3倍〜6倍も上回ることから,CT検診では発育の遅い高分化腺がんが,従来の胸部X線検診で発見される数年分先行して検出されると考えられる。
2)CT検診では高分化腺がんの早期像である微小スリガラス様陰影を,従来の胸部X線写真では見えない段階で検出し,この野口A型,B型の腺がんは胸腔鏡手術,さらには縮小手術で早期に社会復帰ができ,予後が良い。
3)経年受診では,肺がん発見率は従来の肺がん検診に近づき,中分化腺がん,低分化腺がん,扁平上皮がんの割合が増加し,病期もTA期を越す場合があり,男性,喫煙者が多くなる。これらの組織型の肺がんは充実性結節影を呈し,発育が早く,従来の胸部X線写真でも検出される。
4)年2回のCT検診でもすべての肺がんを救命することはできない。
5)
肺門型扁平上皮がんの早期発見にはCTも無効であり,男性喫煙者には喀痰細胞診の併用が必要である。

11. 全国的に実施可能なCT検診の方式
 わが国の肺がんは予後の良い高分化腺がんが多いが,進行の早い中分化腺がん,低分化腺がんや扁平上皮がんがあり,さらに少数ながら悪性度の高い大細胞がんやリンパ行性,血行性転移の早い小細胞がんがある。また,喫煙者に見られる肺門型扁平上皮がんは,X線,CT無所見で喀痰細胞診で発見される。
 高分化腺がんに限れば数年に1回のCT検診でも救命できるが,年2回のCT検診でも扁平上皮がんの一部や小細胞がんが進行がんで発見され,すべての肺がんを救命することはできない。従って,今後CT検診が全回的に行われるとすれば,CT検診の特徴から,また効率と費用対効果からもすべて経年受診で行うことにはならないで,対象と検診間隔を考慮したCT検 診の方式となる可能性が高い。全国的に実施可能なCT検診の方式として,次の2つが考えられる。
(1)喫煙者は経年受診,非喫煙者は3年に1回のCT検診を行い,その間は従来の胸部X線検診を行う。
(2)すべての対象者に3年〜5年に1回のCT検診を行い,その間は胸部X線検診を行う。
 いずれの場合も男性喫煙者には喀痰細胞診を経年併用する。従来の胸部X線検診は間接X線撮影でよいが,精度の高い肺がん検診でなければならない。
 CT検診の間隔は検診の精度と対象の性,年齢構成,喫煙歴の有無によって変わることも考えられるが,市町村の肺がん検診では現在全国で40歳以上の700万人が受診していることから,5年ごとの節目にCT検診を導入し,その間は従来の胸部X線検診を行う。50歳以上の男性の喫煙者は喀痰細胞診を併用する。CT検診の間隔が5年に1回でよいのか,3年に1回がよいのかは早急にエビデンスをもって確認する必要があるが,5年に1回のCT検診であれば読影のマンパワー,費用負担の面からも普及が加速されるであろう。

12. CT検診の課題
 CT検診の全国的な普及には,精度管理を確保して運用することが重要であり,各段階で標準化と指針が必要となる。それは費用対効果から見ても妥当なものでなければならない。併せてCT検診の導入が非経年的であること,検診費用が高額であることにコンセンサスを得る必要がある。CT検診の課題として次の事項がある。
1)シングルスライスCTとマルチスライスCTについて撮影条件と画像再構成の標準化
2)マルチスライスCTでは1回の撮影で検診目的と精査目的の画像を得る方法
3)高精細モニターでシネモード観察や比較読影を活用する読影法
4)CT画像の膨大な情報の保存と比較読影に耐え得る画像圧縮比
5)コンピューター診断支援システムの開発
6)読影医の養成,確保と遠距離読影システムの構築
7)精検方法の標準化と精検率,確定診断率の目標値
8)要精検,経過観察,放置とする画像のクライテリア
9)経過観察にする陰影の大きさ,性状と観察間隔,観察期間
10)手術術式の標準化と縮小手術の指針
11)精度管理の指針と目標値の設定
12)非経年CT検診の間隔と妥当性の確認
13)CT検診の費用,受診者負担の軽減
14)
死亡率減少効果から見たCT検診の有効性の証明
 CT検診が全国的に行われるには,これらの課題について早急にエビデンスに基づいた回答を示すことが必要となる。
 日本肺癌学会は,1987年に始まった老人保健法の肺がん検診に対応するため肺癌集団検診委員会を設置して,肺癌検診の手引きを作成し,また肺癌集検セミナーを毎年総会時に開催してわが国の肺がん検診を支援してきた。
 また,1994年に発足した胸部CT研究会は,この度,技術部会,肺がん診断部会,肺気腫部会,結核部会,循環器部会,精度管理部会を設置して活動することになった。CT検診の関係者はこの両者に所属するが,CT検診の課題としてエビデンスの不足している部分を系統的,重点的に検討し,CT検診の指針を示して社会のコンセンサスを得ることが必要であり,両者が 連携し,役割を分担して,1日も早くCT検診が全国的に導入されることが望まれる。
 CTの開発はコンピュータ支援のテクノロジーの進歩と相まって,肺がんの早期発見,早期診断の過程で近年他に類のない優れた医療技術であるが,その恩恵を受けることができる者は現在極めて限られている。CT検診の課題を解決して,全国的な普及が期待される。肺がんの克服は社会的要請であり,肺がん検診に従事する者の願いである。


13.おわりに
 結核予防会はわが国の結核対策の中心的役割を担ってきたが,1987年の老人保健法の肺がん検診導入に際して,胸部検診を肺結核,肺がん検診と位置づけ,この分野で国民の健康に責任を持つことを活動の理念として示した。現在,全国で肺がん検診は700万人が受診し,その半数を結核予防会が実施している。
 今後肺がん検診が5年ごとにCT検診を導入し,その間は現行の胸部間接X線検診とする方式で全国的に実施することになると,結核予防会はどのように関わっていくのか,そのスタンスは変わらないはずである。CT検診車を製作するかレンタルにするかは別として,CT検診は読影をはじめ精検,確定診断,経過観察などで高い精度が要求される。胸部検診は,肺がんの早期発見が可能な精度の高い方法のなかで結核検診を行うことが受診者の幸せにつながり,また,そうでなければ胸部検診は存続しない。
 結核予防会の支部の中で長野,栃木,千葉,愛媛などで既にCT検診が始まっているが,結核予防会は全組織をあげて,胸部検診を巡る社会情勢の変化に柔軟にかつ力強く適応できる姿勢と体力を持ちたい。
 この度,全国各地で開始されたCT検診の成績を見ると,それぞれの地域でCT検診が,医師,診療放射線技師などの検診に従事する多くの人々と,コンピューター支援システムの開発に取り組んでいる工学系の人々の熱意と努力で支えられ,そこにはチームの牽引力となっているリーダーの姿がある。本文でご氏名を紹介できなかったが,引用文献でお許しを願いたい。皆様の情熱と長年のご苦労に感動し,頭の下がる思いであった。

文献
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updated 03/06/09