フィリピン結核対策向上プロジェクト
国立結核リファレンスラボラトリー (マニラ首都圏) |
フィリピン共和国は、アジア大陸の南東、西太平洋に位置し、7,108の島々からなる人口約7,565万人の島国です、1997年に実施された全国結核実態調査によれば、活動性肺結核の有病率は人口1000対42で、1983年に実施された調査時と概ね変わらない結果でした。WHO西太平洋事務局の統計(2000年)では、全結核患者報告数は人口10万対170、塗抹陽性新患者は同じく89と、東南アジア及び太平洋諸島の中で第2位となっております。全結核死亡は第5位に位置しており、フィリピンの大きな健康問題のひとつになっています。
フィリピン公衆衛生プロジェクト(1992年〜97年)
1992年9月より、国際協力事業団(JICA)はセブを拠点にして、結核対策への技術協力を目的としたフィリピン公衆衛生プロジェクトを開始し、それまでの結核対策の問題点の把握と改善策の検討、セブ胸部疾患センターリファレンスラボラトリー建設を含む検査室ネットワークの改善、WHO方式を基本として改訂された新結核対策指針のフィールド実験などを、フィリピン政府と協力して実施しました。また、そのために必要な保健所職員の研修、専門家の派遣、機材の供与、日本への研修員の受け入れなどを行ってきました。それらの活動は、段階的に拡大され、プロジェクト地域であるセブ島全域(人口300万人)をカバーし、新結核対策指針が全国で実施可能であることを明らかにしました。
フィリピン結核対策プロジェクト(1997年〜2002年)
上記の成功を踏まえて、1997年9月より拠点を首都マニラにある保健省に移し、フィリピン結核対策プロジェクトが開始されました。プロジェクト地域を第7地方区の全域、第4地方区のラグナ州、第3地方区のブラカン州、リザール州に拡大し、2001年にはさらに第3地方区のヌイバエシハ州、サマール島の東サマール州において実施しました。プロジェクト地域の人口は1300万人(2000年推計人口)を越え、人口比ではフィリピン全国の17%程度をカバーしております。これらのプロジェクト地域では対策開始から概ね2年程度で目標治癒率である85%を達成しております。
喀痰検査に関する技術に関しては、セブ胸部疾患センターリファレンスラボラトリーを中心に確立された喀痰精度管理システム、プロジェクト地域以外の喀痰検査担当者への現地国内研修、セブ市・マンダウエ市での耐性菌調査などにより大きな評価を得ています。さらに、2002年3月に日本の無償資金協力援助によって熱帯医学研究所に付設して建設された国立結核リファレンスラボラトリーに対する技術支援を開始しました。
また、フィリピンではWHO、世界銀行、カナダ、アメリカ、スペインなどが結核対策の援助を行っており、これらの援助国・団体と保健省が定期的に調整会議(名称はPACT)を開催し、力を合わせて対策を推進しています。
巡回指導の様子 |
フィリピン結核対策向上プロジェクト(2002年〜2007年予定)
以上の二つのプロジェクトにおける成果を踏まえて、2010年までにフィリピンの結核を半減させるという大目標の達成を確実にするために、2002年9月から結核対策向上プロジェクトが新規スタートしました。このために、@全国のDOTSの質を高めること、A全国の喀痰検査ネットワークを構築すること、B戦略研究を行うこと、を活動目標として掲げており、これらの活動を調整会議のメンバーと力を合わせて実施していくこととしています。
当研究所は、プロジェクト開始前の調査団派遣から多くの短期・長期専門家を派遣し、また国内支援機関として技術協力に参加しています。