東大阪市におけるDOTS(直接服薬支援)活動

東大阪市保健所
東保健センター 保健師 梁   松姫
西保健センター 保健師 沼田 朝子

はじめに

 東大阪市は大阪市と奈良県にはさまれ、八尾市、大東市と接する人口52万人の保健所政令市で、1保健所3保健センター体制で事業を行っています。
 当市では隣接する大阪市のような制度としてのDOTS(直接服薬支援)活動は行っておりませんが、きめ細かい対応により服薬を見届けることで確実に治療を終了し、「結核制圧」に向けた活動が強化できるものと考えて、今回必要な事例に対してDOTSによりすべての服薬を確認しました。これらの成果を踏まえて、今後地域でのDOTS活動を展開しようと考えています。保健師活動を中心に事例とその成果について報告します。

DOTS成功2事例の紹介

事例1:リハビリ通院していた医療機関との連携による外来DOTSで治療を終了したケース

 対象者は60歳の無職(生活保護受給中)の単身男性で、かかりつけ医(A病院・整形外科)に約1年前よりリハビリ目的で週4日通院していたところ有症状(咳、痰)となり、肺結核{感染危険度指数9(ガフキー9号×1ヵ月}の診断を受けました。
 A病院で結核と診断された当初本人は入院を拒否しましたが、院長の説得を受けて結核専門病院に入院して院内DOTSを実施されました。治療3ヵ月目に自己管理に移行したところで飲酒、無断外出などがあり、退院後の服薬管理に不安があると主治医より相談がありました。本人は退院後もA病院でリハビリを継続する予定であったため、結核専門病院での定例DOTSカンファレンスで、退院後のリハビリ通院時に内科で服薬を確認する方法(外来DOTS)を検討しました。A病院とのカンファレンスで外来DOTSの承諾を得、本人の意思を確認して、治療4ヵ月目から外来DOTSを開始することになりました。また、外来DOTS開始時点にはA病院へ地区担当保健師が同伴受診し、服薬の必要性について再度説明し意思の確認をしました。
 実際には月曜から土曜の毎日、内科外来で看護師が直接服薬を確認し(薬は病院薬剤師が管理)、DOTS手帳に押印しました。日曜・祝日については自己管理として前日に薬を手渡しし、休み明けに本人に服薬を確認しました。何らかの理由で外来を受診しないなど継続が難しい場合は担当保健師に連絡が入るようにしましたが、連絡を取る必要もなく66日間の外来DOTSは完了し、退院時カンファレンスで決まったとおり6ヵ月の標準治療を終了しました。

事例2:養護学校と医療機関、保健所(保健センター)が連携をとり、学校でのDOTSで予防内服を終了したケース

 対象者は養護学校中等部3年生(15歳)の女性で、兄が肺結核{感染危険度指数15(ガフキー5号×3ヵ月)}の診断を受け、家族健診でのツベルクリン反応検査の結果(中学1年時21mm→今回83mm)で、初感染結核と診断されました。
 家族の状況を把握する中で、病気や服薬管理についての意識が低いことや不潔な生活環境にあることを知り、対象者の予防内服の継続には学校、医療機関、保健所(保健センター)などの連携による支援が不可欠と考えました。学校との会議を重ね、職員対象の結核についての講演会を実施した結果、DOTSについての学校全体の理解と協力を得ることができました。母親からは学校と保健所が服薬管理を行うことについての了解を得ました。DOTSで確実に服薬管理が可能と考え、開始に際して保健所医師から結核専門病院小児科医とも相談をして、負担軽減のため間欠投与を検討しました。

事例2で実施した予防内服(服薬確認が可能であれば間欠治療は負担が少ない)
従来法 6ヵ月 300mg×7日×26週=54.6g
      合計  182回
間欠法 6ヵ月 600mg×2日×26週=31.2g
      合計  52回
      9ヶ月 600mg×2日×39週=46.8g
      合計  78回
注)間欠投与は日本では今のところ結核の医療基準には含まれていないが、米国などでは1つのやり方として行われている。

 母親の意向を踏まえて、家族のかかりつけ医となってもらえる近医を決め、これまでの経過、投薬予定内容などについての情報提供を行って主治医としての役割を果たすことの了解を得ました。月1回親子の受診に保健師が同伴して、服薬状況などを報告すると共に母親の疑問の解消に努め、薬を学校に届けることで学校との連絡をとりました。学校では、「生徒が発病したら大変」という思いから校長、教頭、養護教諭、3年生担当の全教諭すべてが協力的でした。
 本人は週2回(月曜と木曜)の登校時に保健室で健康状態のチェックの上、INH600mg(6錠)を服薬しました。服用後は本人が楽しみにできるよう服薬確認表に好きなシールを貼るようにして、意欲を持って服薬できるようにしました(右表)。服薬量が多いため拒否する可能性も考えられましたが、2人の養護教諭だけでなく担任の協力が得られ、登校直後のあわただしい時間でしたが3人のチェックがあって忘れることなくDOTSを実施でき、自分から進んで保健室に来ることもありました。学校の特殊性もあり、てんかん等で服薬している児童が1〜2割いるということも、本人の服薬をスムーズにしました。
 夏休み、冬休み期間中は朝10時頃訪問するとまだ寝ていることや服薬に時間がかかることがあり、本人が作っていた鶴を一緒に折ったり、宿題をしたりしながら服薬させるなどの工夫を行いました。自宅は不潔で室内で食べ物などが散乱し、本人からは時々悪臭もすることがあり、訪問時は室内の整頓、ゴキブリの駆除等を行うこともありました。
 母親には服薬について説明し、分かりやすくするようQandAを作成し手渡しましたが、理解してもらえたかは不明です。子供の病気、生活等については保健師が相談を受けました。本人からの訴えはほとんど何もありませんが、服薬期間中、湿疹や微熱といった症状もありました。9ヵ月間の予防内服を副作用もなく終了し、養護学校高等部へ進学しました。

DOTS成功の鍵と今後の取り組み

 事例1、2共に放置すれば治療終了が困難であったと考えられる事例ですが、DOTSが成功できた鍵として、@DOTSを理解しそれを実践する関係者の存在があった、A本人や関係機関の動機付けができた、B保健師などによる具体的できめ細かい活動ができた、この3点があげられます。
 東大阪市では今回の成果も踏まえていくつか取り組みを始めました。@DOTS実施環境に対して、結核指定医療機関講習会で専門医師からのDOTS解説と行政の取り組み説明を行いました。A市内3医師会に対して地域でのDOTSについての協力意向調査を行い、協力する意思を示した76医療機関での地域DOTSに向けて準備中です。B結核専門医療機関医師と公衆衛生医師の参加を得て、技術的支援を行う結核診査会を強化しました。C診査会後のカンファレンスを充実させました。D保健師のきめ細かな活動を推進させるために、保健師を専任化させる等を工夫しました。
 確実に服薬を確認することは、現行体制の中では困難を伴うと一般的に言われますが、サービスとしてのDOTSを必要な人に提供できるよう環境や制度を整備し、熱意をもって根気よく、きめ細かな対応を行って確実に治療を終了すれば「結核制圧」に近づくのではないかと思われます。


Updated 03/05/19