文部科学省「学校における結核対策に関する協力者会議」最終報告(要旨)



第一健康相談所診療部長
増山 英則



 文部科学省では、厚生科学審議会結核部会の提言を受け、2002年6月より標記会議を設け、学校における結核対策について検討を重ねてきた。筆者も議論に参加してきたが、この度8月下旬に最終報告がまとまったので、その要旨を報告する。

学校における結核対策を取り巻く状況の変化

 厚生労働省の厚生科学審議会において、わが国の結核対策全体の見直しが行われ、結核罹患者が多い時には非常に大きな効果を発揮した集団的で一律的な施策から、少ない罹患者に対して最大限の効果を上げるための個別的で集中的な施策へと質的な転換を図るよう求められている。
 また、見直しの中で、一律に定期健診で実施されてきたツベルクリン反応検査(以下ツ反検査)は、過剰な精密検査につながっており、現在の結核の罹患状況等から考えれば、児童生徒にとってマイナス面が目立つ健康診断手法になっていると指摘されている。また、BCG再接種は、その有効性についての証明が不十分であることが国際的認識となっており、期待しうる効果も限定されていると考えられている状況である。さらに、ツ反検査を繰り返し行うことにより、接触者健診などにおいて感染を確認する際のツ反検査の評価を極めて困難にしているとの指摘もある。したがって、厚生科学審議会からも、小学1年及び中学1年時のツ反検査及びBCG接種については、中止に向けての明確な方針を示すよう意見が出されているところである。
 学校においては、これまで、定期健診による結核の早期発見を軸として、結核予防法に沿って結核対策を行ってきている。特に、小中学校においては、定期健診のツ反検査を中心とした対策を行ってきており、上記のような結核対策に関する状況の変化を受け、新たな対策の検討が必要となった。

学校における今後の結核対策の基本的な考え方

 学校においては、結核及び結核対策に関する状況の変化を受けて、これまでの予防接種及び定期健診を中心とした結核対策から、@児童生徒への感染防止、A感染者及び発病者の早期発見・早期治療、B患者発生時の対応、の3方向からの対策を充実・強化することによる多面的な対策への転換が必要と考える。
 この転換にあたって、今後は、さらに学校保健と地域保健の連携を強化していく必要がある。

学校における今後の具体的な結核対策

1.地域と連携した結核対策の検討
 結核の発生状況には大きな地域格差がある。また、児童生徒の感染防止のための情報の収集提図1供や患者発生時の速やかな対応を考えるには、学校単位だけでなく、地域として対応を考えていく必要がある。
 そのため、各々の教育委員会において、保健所、結核の専門家、学校医の協力を得て、地域における結核の発生状況を把握し、学校教育活動における配慮事項を検討することや、地域の児童生徒及び教職員の結核健診実施状況を把握し、結核感染が疑われる者に対する精密検査や経過観察等の指示に関する専門的な検討を行うこと等、地域における学校の結核対策の管理方針を検討することが必要である。なお、その際必要に応じ、教育委員会等に、保健所長、結核の専門家、学校医等からなる委員会を設置し、教育委員会は、この委員会の方針を踏まえて、各学校を適切に指導していくことが必要である(図1)
 委員会の設置や運営にあたっては、市町村の規模等により様々な形が考えられ、例えば、政令指定都市等の大都市の場合では、教育委員会が主体となって、関係機関と連携を図りながら委員会を運営し、規模の小さい市町村の場合では、結核診査協議会を有する保健所の管轄区域を勘案し、複数の市町村が合同で委員会を開催するなどの形が考えられる。
 また、各都道府県教育委員会は、市町村教育委員会において結核対策に関する取り組みが円滑に進むよう、指導していく必要がある。
 文部科学省においては、市町村教育委員会における結核対策に関する取り組みが円滑に進むよう、技術的、事務的なマニュアル等を早急にまとめて示していく必要がある。
 地域の状況に応じた独自の結核対策が実施されるにあたっては、教育委員会及び学校は、積極的に協力していくことが重要である。

2.児童生徒等への感染防止
@就学時のBCG接種状況の把握
 ツ反検査は、今後も、接触者健診などにおいて感染を確認する際の有力な手法として用いられるが、この場合に、BCG接種の有無は、検査結果の判断において重要な情報となる。また、BCG未接種者は結核に感染した場合に発病しやすいため、児童生徒の結核対策において、各々の児童生徒のBCG接種状況を正確に把握しておくことは重要なことであり、学校においては、就学時健康診断票中のBCG接種状況を確認するとともに、入学後すぐに保健調査等を実施してBCG接種状況を正確に把握するべきである。
A教職員の結核の早期発見・早期治療
 教職員本人の健康の保持増進のためにも、毎年、結核の定期健診を実施することは重要なことである。しかし、学校保健では、教職員の健康を守る視点に加えて、児童生徒の健康を守るために健診を実施する必要があると考える。
 特に、学校における集団感染の原因として、教職員の結核罹患が挙げられることが少なくないことを考えあわせると、児童生徒の教職員からの感染を防ぐため、学校の設置者が学校保健法等に基づく教職員の結核健診を徹底するとともに、産業医及び学校医は、健診結果に基づいて事後措置内容を適切に決定する必要があると考える。さらに、学校の設置者は、当該決定に基づき適切な事後措置を実施する必要がある。
 また、労働安全衛生法に基づく教職員の健康相談を活用するなどして、定期健診以外にも結核に関する教職員の健康管理を充実する必要がある。

3.小中学校における早期発見・早期治療対策
(ツベルクリン反応検査の廃止に伴って)
図2
 結核は、児童生徒の重要な健康課題であることに鑑み、今後も、児童生徒に対して結核健診を実施する必要がある。しかし、定期健診において、一律にツ反検査を実施することは効率的ではないとの指摘があるため、これを廃止し、今後は症状の有無等により評価をした上で、対象者を絞り込んで重点的な検査を実施することとする。
 具体的には、最初に結核を疑わせる症状等に関する問診(保健調査を利用することも考えられる)を全員に対して行い、あわせて内科健診の充実を図ることにより、児童生徒のうち、結核の可能性のある者を見つけ出すこととする。さらに、学校における結核対策を検討する委員会等の場において、保健所や結核の専門家、学校医等の意見を聞いて、結核の可能性のある者のうち、検査が必要と考えられる者には検査を実施する(図2)
 現在は、小学校1年、中学校1年において、ツ反検査を一律に実施することを中心に「結核の有無」の検査をしてきたが、今後は全学年に対し問診を実施し、必要な児童生徒には学年にかかわらず、適切な対応をとることとする。
 また、定期健診以外にも、現在様々な健康課題及び状況に応じて児童生徒に対し実施されている健康相談を活用することにより、早期発見の機会を増やす努力が大切である。
 さらに、結核に関する正しい知識を普及啓発することにより、結核様の症状がある場合には、保護者・児童生徒が自ら早期に医療機関を受診することができるようにすることが重要である。

4.患者発生時の対応
 患者発生時には、病状に応じて、学校保健法第12条における出席停止の措置を講じるとともに、発病した児童生徒または教職員と接触があったと判断された児童生徒等に対しては、保健所の行う接触者健診に積極的に協力し、学校としても、感染者の早期発見のため、速やかに臨時健康診断の規定を利用して幅広く検査を行うことも考慮する必要がある。

その他

 高等学校、高等専門学校、大学、大学院における結核健診については、入学時、転入時、節目時のみ胸部X線検査を行うよう、厚生科学審議会結核部会の報告が出されているが、現時点では、具体的な健診の時期、間隔等について方針が示されていないため、同部会における具体的な検討結果を待って、学校における対応を検討するべきである。
 他に、健診結果の保存、新しい結核対策の評価についても、今後検討されよう。


Updated03/03/11