複十字病院 院内DOTS
患者対象アンケート

複十字病院4A病棟看護師長
齊藤 ゆき子
(研究班)梅崎美雪・津島律子・
小檜山祐子・金沢富子・渡辺契子

 はじめに

 当院では平成12年に、多剤耐性結核、排菌患者の隔離病棟として改修工事を行った。これにより、空気浄化システムを持った厳重な隔離病棟(4B病棟42床)と平圧独立換気のゆるい隔離病棟(4A病棟49床)で、排菌陽性結核患者は4B病棟に入院、化学療法開始後薬剤感性のある患者は2〜3週間で4A病棟に転棟する機能別の病棟体制となった。これを機に平成12年11月よりDOTSを導入。入院患者全員の院内DOTSを開始した。4B病棟は看護師が薬を管理する管理配薬で、4A病棟は服薬困難や自己管理が不十分な人を除き、患者が薬を管理し個々の薬箱に薬と処方箋控えを入れておき、患者自身が薬を準備し、退院までDOTSを実施する方法である。
 DOTS開始後1年が経過した平成13年の11月、DOTS開始前と開始後の評価をする為、アンケート調査を行った。院内DOTSがどのように受け止められ、退院後在宅での服薬状況にどのような影響を与えたかについての結果を、平成14年4月に開催された日本結核病学会総会で報告したが、今回アンケート結果の一部を報告する。

 アンケート調査の対象と方法

 調査の対象は、結核初回治療患者で、DOTS開始前の平成10年11月〜11年10月の1年間に4A・4B病棟に入院した患者163人と、DOTS開始後の平成12年11月〜13年10月の1年間に4A病棟に入院した患者101人の計264人へ、郵送文書によるアンケート調査用紙を発送した。返信数はDOTS前61通(37%)、DOTS後55通(54%)であった。

 調査項目と結果

@入院中と外来通院中の服薬率(表1)
A結核に関する知識(表2)
B治療中断率(表3)

 考察

 表1では、入院中の服薬率に差がなく「DOTS後100%になっていないのは変だ」と思われがちであるが、「服用しなかった理由」を比較すると明らかに違っている。「全部は飲まなかった」と回答したDOTS前の4.9%、DOTS後の5.4%を100%で表し比較してみると、DOTS前の理由では、「副作用」が60%で「入院中の飲み忘れ」が20表1%見られる。DOTS後は全員が「副作用」と回答しており、これは医師の指示による一時休薬であり問題ないと考える。
 通院中の服薬率では、DOTS後は全員が「薬を全部服薬できた」と回答し飲み忘れは見られないが、DOTS前で全部服用できたのは86%で、「全部は飲まなかった」と回答した14%を100%で表して見ると「飲み忘れ」が45%と多く占めている。
 DOTS前は「この患者なら大丈夫」という不確実な前提で患者に薬を管理させていた。症状が落ち着けば薬を忘れやすいのが人間であり「飲んだつもりだったが、残薬があった」「なんとなく忘れた」と回答しているということは、入院中の服薬管理を患者に一任した従来の服薬方法は誤りであると言えよう。退院後の継続服薬も不十分となり、中断や薬剤耐性を生む結果になっていたと考えられる。
 DOTS後の患者に飲み忘れがないことが、院内DOTSにより服薬が習慣化し、看護師や薬剤師の関わりで、結核薬への理解が深まり良い結果が得られたと考える。表2、表3
 表2は、結核の知識を質問し点数化してみるとDOTS後が高い。これは、DOTSで看護師と対面することによりコミュニケーションが形成され、看護師のDOTS教育が根づいている結果ではないかと思う。
 表3治療中断率は、アンケート回答者には両群とも中断者は見られなかったが、返信のない非回答者148人(DOTS前102人、DOTS後46人)のカルテ調査をすると、DOTS前の患者に5人、DOTS後の患者に3人の中断者がいることが分かった。それぞれに中断者がいたことから、ケースに合わせた服薬継続の支援が絶対に必要であると考えられる。

 まとめと課題

・院内DOTS後群は、薬の飲み忘れは見られず服薬の自己管理が習慣付けられ、患者の結核の知識が高まっている。
・院内DOTSは治療成功に重要であり、退院後の服薬支援は継続して行う必要がある。
・DOTSカンファレンスを開催し病院と保健所の連携を強めることが今後の課題である。

 おわりに

 当院ではDOTSカンファレンスを6月より近隣保健所の参加を得てスタートさせた。思いはひとつ、治療中断せず無事服薬完了となるよう地域の保健所と連携し、入院中から退院後までの患者支援を行うことにある。それには、互いに協力し理解し合うことが大切ではないだろうか。人としての基本を忘れず前進して行きたいと思う。
 最後に、ご協力頂いた皆様に深謝致します。

マスク自動販売機

 4階ホールに設置してあり、面会者用はN95マスク(200円)を、患者用はサージカルマスク(70円)を販売している
4A病棟のDOTS方法
(自己管理薬)


 一斉放送でシートから薬を出し、準備された薬を処方箋控えで確認している場面。薬を確認後飲み込むまで見届ける
4B病棟でのDOTS方法
(管理薬)


 与薬車で配薬
4B病棟でのDOTS方法
(管理薬)


 患者さんが薬を飲み込むまで見届ける

Updated02/11/27