福島県北保健所
症例検討会、モデル診査会公開研修会

福島県県北保健福祉事務所
(福島県県北保健所)
医療薬事グループ 感染症予防チーム
主任保健技師  本田 あゆみ

 本事業開催の経緯

 福島県県北保健福祉事務所管内は、福島県の北部に位置し、人口約52万人で、2市13町2村から成っている。この地域は、県庁所在地である福島市を中心に、経済、教育、文化、医療等の分野においても高次の都市機能が集積している地域である。表1
 結核指標について平成13年の登録状況(表1)を見ると、新登録患者数は過去5年間ほぼ横ばいだが、喀痰塗抹陽性患者数は増加傾向にあり、そのうち60歳以上が約9割を占めているのが特徴である。
 当所では、結核対策特別促進事業(特対事業)として、長年、医師を対象とした講演会形式の研修会を実施していたが、目覚ましい指標の改善が見られず、その企画内容を再検討する時期が来ていた。折しも全国の保健所で症例検討会やモデル診査会が開催され、成果が得られている報告を見て、当所でも実施を検討した結果、適正医療の普及と患者管理の徹底、結核診査協議会(以下診査会という)の役割を地域にアピールすることを目的として、平成12年度は症例検討会、平成13年度はモデル診査会を開催した。

 本事業開催に向けて

 症例検討会に向けて最初に実施したことは、目的と事例の選定基準の明確化だった。過去にも症例検討会を開催した実績があるが、医師に事例の選定をお願いすると、医療側の問題事例が多く、行政上の対策に結びつけにくい検討会となってしまうことが多かったように思われた。その反省を踏まえ、今回の目的は、あくまで「適正医療の普及」と「患者管理の徹底」の2点に絞り、これに関連した症例を当所が選択し、主治医に了解を得ることとした。
 本事業の開催に当たっては、関係機関、特に医師への周知を十分に行うことが重要であった。そのために、まず実施要領を綿密に作成した上で診査会委員に諮ったところ、ぜひ実施するようにと積極的な回答があった。診査会の後押しが本事業実施のための推進力となった。また、主治医に理解を求めるため主立った医療機関を訪問し、説明を行ったところ、どの主治医も協力的で、当所が選定した事例の提供についても快諾してくれた。
 次年度のモデル診査会については、前年度の症例検討会が非常に好評だったため、開催についてはスムーズだった。しかし、充実した診査に向けて菌検査等情報収集も丁寧に行わなければならないので、新規以外の申請書は早目に提出してもらうよう協力を要請したり、保健師同士の協力体制をとって、短期間で調査することができるよう工夫した。モデル診査会は、実際の申請書を使用するため、診査会間近に申請書の提出が集中し、短期間で準備しなければならないことが大変だった。

 症例検討会の実際

症例検討会の様子

 選定基準により当所が選定した8例について、結核予防会の先生方を助言者として検討した。事例紹介は主治医が行い、1事例10分で検討することとした。短時間で効率的に検討するために、あらかじめ事例にどこが問題なのかタイトルを付け、主治医にはその事例の検討ポイントを紹介の最後で強調してもらった。
 また、X線フィルムについては、会場前方にシャウカステンを設置し、自由に観察することができるようにするとともに、デジタルカメラで撮影したフィルムをパワーポイントに取り込んでスクリーンに映し、事例紹介時に効果的に使用することができるよう工夫した。2ヵ所でフィルムを映すことで、参加者はより見やすくなったようである。

 モデル診査会の実際

 通常、非公開で実施している診査会をモデル的に開催し、結核予防会の先生方を助言者として、公開研修会とした。実際の診査会の場面を会場で再現し、10件の診査を行った。
 診査会は原則非公開のため、申請者のプライバシーの保護については、十分配慮した。また、参加者には個人情報を削除した申請書と登録票のコピーを資料として配付し、診査会終了後回収した。フィルムは前回同様2ヵ所で映したが、名前・医療機関名等は削除した。
 主治医や診査会委員、助言者の間で服薬確認の徹底や治療期間、薬剤選択、菌陰性事例の診断根拠等について活発な意見交換がなされた。

 本事業開催の成果

 適正医療普及率の推移(表2)及び患者管理の改善状況(表3)を見ると、平成12年、13年と改善してきているのが分かる。また、地域の先生方から診査会に対し、診断・治療に関する質問が寄せられるようになったことも成果と言える。
 さらに、保健師が診査会に向けて情報収集を行う、量と質が高まったことも挙げたい。診査会までに初発患者調査を終了し、それに基づき、申請者のあらゆる情報が掲載された一覧(表4)を作成し、診査会開催前に所内で事前診査を行い、不足している情報のチェックを行ったり、互いに申請書の診査ポイントを確認し合うようになった。診査会を活性化させるためには、保健師の情報収集能力を高めることが第一であることを、私たち1人1人が認識したことが最も大きな成果だったとも考えられる。

     表2     表3     表4

 今後の展望

 この2年間、出席してくれた先生方が、自らの症例として診断や治療について考えられる、参加型の研修会にこだわって特対事業を実施してきたが、診査会委員や地域の先生方にも大変好評で、本事業の継続実施を望む声も多いので、症例検討会については、年1回、定例的に開催することとした。また、これからは、申請書を待つだけの診査会ではなく、結核患者の発生状況、対策上お願いしたいこと、最新情報等結核に関する様々な情報を診査会から発信していきたいと考えている。結核対策の拠点としての保健所や診査会の様々な機能を、地域に対して発揮しながら、今後さらなる指標の改善を目指していきたい。
 最後に、本事業の実施に当たって御助言をいただいた、豊田市保健所の皆様に深く感謝いたします。


Updated02/11/27