精神病院入院者における結核定期健康診断の実施について
富山県厚生部健康課 高田 ちはる
富山県の結核の現状と実施の背景
富山県では、平成10年度より3年計画にて精神病院における結核定期健康診断を実施したので、報告する。
富山県の結核の現状は、全国の動向と同様に、平成9年より新登録患者数が増加傾向に転じ、中でも高齢者の結核が多いことが特徴である。また、近年においては、多剤耐性結核患者の発生、施設や病院内での患者発生など、結核患者の発生状況も多様化し、全国的にも共通の問題となってきていることから、結核対策を検討した。
中でも、精神病院は入院者が長期間にわたって入院していることが多い一方、定期的に胸部X線撮影を実施している病院が必ずしも多くないのが現状である。入院していなければ市町村長の実施する定期健康診断を受診することも可能であるが、入院者は、結核予防法第9条の「疾病その他やむを得ない事故のため、定期の健康診断を受けることができなかった者」との扱いとなってしまう。長期入院者については、この、やむを得ない事情が継続している状態にあるものと考えられる。幸い、県内の精神病院においては、定期外健康診断のガイドラインの定義に合致する集団発生は見られないものの、過去の結核患者発生状況を見てみると、散発ではあるが、表1の発生があった。
これらの事例の中には、重症で発見されるケースや、1例の結核死亡例があり、比較的若い年齢層からの患者発生も見られた。この様な背景の下、精神病院入院者の結核定期健康診断を、患者の早期発見、集団感染の防止、院内感染防止の徹底を図ることを目的に実施した。
実施方法
実施期間は10〜12年度の3年計画で実施し、対象は県内の31病院に入院している者で、胸部検診車におけるX線撮影が可能な者とした。ただし、同様の健康診断を実施した者については、対象から除外した。
なお、県内35市町村のうち富山市については中核市であるため、結核対策特別促進事業においては独自の事業を実施しているが、富山県内の精神病院の所在地の約半分が富山市内にあるため、事業の協力を富山市に依頼し、中核市と共に全県の病院について10〜12年度まで実施した。
一次検診については胸部検診車においてX線間接撮影を実施し、二次検診については、保健所または医療機関で直接撮影等を実施した。
結果
一次検診、二次検診の結果は、それぞれ表2、表3のとおりであった。( )内の中核市分については、医療機関よりデータを取り寄せている最中のものもあり、現在把握している数字のみ提示してある。
一次検診の結果、その時点で結核と診断された人はいなかった。
心陰影拡大や無気肺様陰影など結核以外の所見を認めた者を「その他」として計上した。
二次検診は、一次検診にて要精検とされた者を対象に、保健所または医療機関において実施された。医療機関を受診した2名から結核の届出があったが、最終的には非定型抗酸菌症と診断され、結果として結核と診断された者はいなかった。
10〜12年度の総計の結果は表4のとおりであった。一次検診の結果、要精検率は4.3%、要観察率は4.4%、有所見率は4.8%であった。また、同期間の富山県内の市町村長実施結核定期健康診断での要精検率は、2.1%であり、精神病院においては一般住民の約2倍の率で精密検査の必要な者がいたことが分かった。
今後の対応
3年間の事業終了後、富山県精神病院協会の理事会にて、胸部X線検査での有所見者が多い実態を報告した。病院での結核定期健康診断の実施義務はないものの、有所見者が多いという実態から、今後も継続して経過を見る必要があると思われるため、今後については病院での自主管理、または集団検診機関での検診により、経過を見ていただくようお願いした。そして、この依頼を了承していただいたところである。今後は、集団生活をしている院内での結核検診の必要性を医療機関をはじめ家族等に再認識していただくことが、必要であろう。また、検診対象者を「検診車によるX線撮影が可能な者」としたため、寝たきり者への対応ができなかったが、今後はこの様な者への対応も必要になってくると思われる。
富山県では、今後、精神病院以外にも老人保健施設入所者や、グループホーム、授産施設、生活訓練施設入所者等を対象とした健康診断を順に実施していきたいと考えており、13年度においては、高齢者の新登録患者が多いことから高齢者対策に注目し、既に老人保健施設の入所者の結核定期健康診断を実施しているところである。
今回の事業の結果、精神病院において定期的に入院者の経過観察が必要である実態が分かったことは、病院、行政共に、今後の対応において有益な情報となったと思われる。今後の対策に役立てたい。
最後に、ご協力いただきた皆様に深謝いたします。