岡山市における産業別結核罹患率調査

岡山市保健所主任  木尾 敬子

経緯

 本市の平成12年の結核罹患率は23.6(人口10万対)と全国に比べ低いものの、9年に事業所において集団感染が起こり、以降もいくつかの事業所で小規模集団感染が続いている。
 特に集団感染となった事例は、30歳代で結核死亡した遊技場勤務の患者を発端としており、不特定多数を対象とする接触者検診の難しさや1年、2年後の職場接触者を追跡することの難しさを痛感させられた。
 30歳代の若い患者がなぜ亡くならなければならなかったのかを考える過程で「事業所」が焦点に上がり、就業者に対する効果的な対策の必要性を認識した。
 そこで産業別結核罹患率を推定し、重点的に結核対策が必要な対象及びその内容を明らかにすることを目的として、結核患者の産業別状況調査を実施した。
 調査対象は、6年1月1日から10年12月31日までに岡山市に登録された全結核患者840名とした。産業別人口は、8年岡山市「事業所・企業統計調査」従業員数を用い、結核患者登録票に記載された職業によって前記産業分類にあわせて区分した。産業大分類の登録者が20名以上であった@建設業、A製造業、B運輸・通信業、C小売・飲食店・卸売、Dサービス業に着目し、サービス業からE医療、F教育を別掲とし、計7産業区分について検討した。

産業区分別の特徴表1

 対象者のうち、有職者は47.5%(399人)だった。有職者の内訳は、サービス業11.3%、医療5.0%、教育2.3%、建設業15.0%などであった(表1)
 有職者全体の男性の割合は73.7%であったが、医療及び教育では低かった。平均年齢を見ると、医療は41歳と有職者全体より10歳以上若かった。これらは産業構成割合そのものを反映した特徴と考えられる。
 有職者全体の罹患率は23.5で、5年平均の市罹患率26.7、及び全国罹患率34.5より低かった(いずれも旧分類による)。産業別罹患率が最も高かったのは建設業(37.1)で、次に製造業(25.4)、運輸・通信業(23.4)と図1続いた。建設業と罹患率の1番低い小売・飲食店・卸売とを比較すると3倍以上の開きがあった(図1)
 罹患率の最も高い建設業では「受診までに時間がかかり重症化して発見され」「定期検診での発見率・定期検診受診率が低い」など、課題となる条件が重なっていた。また罹患率2位3位の製造業、運輸・通信業でも「受診までに時間がかかり重症化して発見」されていた。これら産業従事者における早期発見を推進する必要性が高いと考える(図2・3・4)

      図2        図3        図4

新たな試み

 今回の調査を受けて「職場での結核対策」というリーフレットを2万部作成した。配布先は労働基準協会の協力を得て会報にあわせて2,300部、市内商工会、商工会議所窓口等で全員向けに3,300部、その他、県医師会産業医師研修会、市内各診療所、病院、理美容研修会、労働基準監督所、産業保健推進センター等へ2,700部配布した。また、このリーフレットを基にいくつかの事業所向け研修会で講話も行い、結核への注意喚起を行った。あらゆる機会を捉えてPRを行い、税務署の年末調整説明会では、入口で約3,000部を手渡した。中には「結核は今大変なんですよね・気をつけないといけませんね」と声をかけられることもあった。
 最も罹患率の高かった「建設業」に対しては、建設国保組合保健婦の協力を得て役員会において調査結果の説明を行った。その中で「一般検診の中にツ反検査を入れてくれたら自分が結核に感染してるかどうかわかるのに」とか「結核にならんようにするにはどうしたらいいんか」等積極的な意見も聞かれた。その後、部のチラシ、リーフレットを役員を通して配布した。
 しかし、結核対策上問題の多い日雇い労働者やホームレス等のリーフレットの届かないハイリスク層に対して直接的に働きかける対策には至っていない。
 今後建設業等の重点産業から患者登録があった場合、定期外検診の徹底、責任者も巻き込んでの啓発等を強化していきたい。また、ホームレスやサウナ等利用者を対象とした対策も検討する必要性を感じ、今後の課題となっている。

表2 産業区分別特徴と今後に向けて

産業区分 特  徴 課題と今後に向けて
建設業
罹患率:37.1
年平均患者数12.0人
a)罹患率は有職者全体の1.6倍で今回の産業区分の中で最も高率
b)喀痰塗抹陽性者割合は36.6%で全体より8.8ポイント高く最も高率
c)受診の遅れは41.0%の者にあり最も高率
d)3年以上の長期未受診者の割合が21.7%で全体より4.4ポイント高い
e)過去の治療歴ありの者は10.0%で2番目に高い
a〜c)有症状時の早期受診を勧奨
    結核知識の普及啓発
d)定期検診受診勧奨を推進
e)過去に既往歴のある人は、特に定期検診を勧奨
製造業
罹患率:25.4
年平均患者数11.6人
a)罹患率は有職者全体の1.1倍
b)喀痰塗抹陽性者割合は36.2%で建設業に次いで高率
c)受診の遅れがあった者は32.4%で3番目に高い
a〜c)有症状時の早期受診を勧奨
    結核知識の普及啓発
運輸・通信業
罹患率:23.4
年平均患者数5.6人
a)罹患率は23.4と3番目に高い
b)喀痰塗抹陽性者割合は、35.7%と3番目に高い
c)受診の遅れがあった者は33.3%で建設業に次いで高い
d)過去の治療歴ありの者は10.7%と産業区分の中で最も高率
a〜c)有症状時の早期受診を勧奨
    結核知識の普及啓発

d)過去に既往歴のある人は、特に定期検診を勧奨
医療
罹患率:21.3
年平均患者数4.0人
a)検診受診状況で3年以上未受診の割合が25.0%でサービスに次いで高率
b)年齢構成は39歳以下が50.0%、平均年齢が41.1歳で若年者の発病が最も多い
c)定期外検診で発見された者が10%
a〜b)
  ・院内感染対策委員会の充実支援
  ・職員への教育 ・結核の早期発見
  ・作業環境管理 ・作業管理
  ・定期検診の確実な受診を勧奨
  ・採用時2段階ツ反
c)医療機関・保健所の連携による定期外検診の確実な実施

Updated 02/04/11