医療従事者の結核予防とツベルクリン反応検査

結核予防会干葉県支部健康相談所長 鈴木 公典


T.はじめに
 第76回日本結核病学会総会で催されたシンポジウム「医療従事者の結核」(座長重藤えり子,鈴木公典)で、5人のシンポジストが共通して触れた話題はツ反応であり、会場からもツ反応に関する質問があった。今後の結核院内感染対策にとってツ反応が問題であり、その解決について考察した。

U.ツ反応における問題点は
 それは、ツ反応による結核の感染の有無や化学予防の要否の判定に困難を来していることである。わが国ではBCG接種が広く実施されているため、ツ反応によりBCG接種による陽性と真の感染による陽性の鑑別が難しいこと、ツ反応を繰り返すことによるブースター現象の影響などによる。

V.解決策は
 恐らく今後現実的に考え得るのは、ツ反応の測定と判定に硬結径も取り入れることと、BCG再接種の廃止であろう。

1.ツ反応の測定、二段階試験に硬結径も考慮する
 ツ反応は、国際的には硬結径を測定し判定している。硬結の測定には熟練が必要で計測に時間を要するが、硬結径は発赤径に比べてばらつきが少ない1)ことから結核感染の診断がより正確なものになり、硬結径で判定をすれば、弱陽性・中等度・強陽性といった陽性区分の複雑さも解消される。二段階試験でも2回の反応を比較する場合、発赤径だけでなく硬結径も参考とする方が判断が容易としている2)。今後は発赤径及び硬結径を併記し、解釈の際には硬結径も考慮することが考えられる。

2.小・中学生におけるBCG再接種を廃止する
 
BCGの初回接種の有効性は世界的に認められている3)。しかし、再接種については有効性に関する前向き試験は行われたことがなく、エビデンスが得られていない。少なくとも再接種の有効性が証明されていないこと、感染の判断に影響を及ぼしている4)ことなどからも再接種は廃止すべきと考えられる5)。日本の結核罹患状況等から、まずは小学校、次に中学校における再接種の廃止が考えられる。
 ただ医療従事者などの新採用時などで、二段階試験の陰性者にはBCG再接種の選択肢もある。

3.小学就学以降の結核感染診断が容易となる
 
図1 乳幼児期のBCG初回接種のみのツ反応径
図2 BCG初回接種後のツ反応の経過(模式図)
BCG接種を乳幼児期のみ受け、以後乳幼児時、小学1年時、中学1年時にツ反応のみ受けた者を対象に、それぞれ発赤径と硬結径の2つで測定した場合のツ反応の大きさの経過を見た(図1)6,7)。小学1年ではツ反応の発赤径、硬結径ともに減弱し、中学1年では硬結径はさらに減弱していた。両学年とも発赤径に比べて硬結径の変動幅が小さかった。
 BCG初回接種後のツ反応の経過を模式図(図2)7)に表すと、初回接種後に増大した硬結径は、接種後1年目以降より徐々に減弱し、ツ反応やBCG再接種を繰り返すと元の大きさまで再び増大し,その後BCG接種とツ反応検査をも行わないと過敏性の回復(ブースター現象)が起こらず、硬結径はさらに小さくなり続けると考えられる。
 従って、乳幼児期のBCGの初回接種はこのまま存続させても、小学1年、中学1年における再接種を中止すれば、ツ反応をばらつきの少ない硬結径で判定することにより、小学就学以降成人になっても、ツ反応で感染の有無を判断できると考えられる。

4.硬結径による化学予防の判断基準を設定する
 米国では、硬結径で判定しカットオフ値を、結核に感染した者の漏れが少なく、感染していない者を最大限除外できるような値として、結核菌に感染するリスクと結核発病のリスクに応じて5、10、15mmの3段階に設定している8)。結核事情が米国と異なるのでわが国独自の判定基準を設定することが必要であり、当分の間は発赤径との併用も考えられる。

W.まとめ
 今後ツ反応の測定では硬結径と発赤径とを併記し、解釈の参考とする。BCG接種が乳児期の初回接種のみ実施され、小学就学以降感染が疑われる時に初めてツ反応を行うならば、感染の判断も容易になると考える。
 最後に、今後ツ反応に代わり血液による結核感染診断が可能な時代も近いかもしれない。


文献
1)森亨:ッベルクリン反応検査.JATAB00KS,No.7,結核予防会,1995
2)重藤えり子,横崎恭介,村上功:看護学生と病院職員における二段階ツベルクリン反応検査.結核.2000;75:27-31.
3)Colditz GA, Brewer TF,Berkey CS,et al:Efficacy of BCG Vaccine in the Prevention of Tuberculosis JAMA.1994:271:698-702
4)青木正和:新時代の結核戦略一結核根絶に向けて.結核.2001;76:31-39
5)日本結核病学会予防委員会:新時代の結核研究と対策について一1999年報告.結核.1999;74:623-625
6)徳地清六:新BCG接種の理論と実際.JATAB00KS,No.10,結核予防会,1998
7)西尾恵子,鈴木公典,志村昭光:ツベルクリン反応に関する相談からみた問題点と今後の課題.結核.2001;76:316
8)American Thoracic Society: Treatment of tuberculosis and tuberculosis infection in adults and children. Am J Respir Crit Care
Med.1994:149:1359-1374



updated 01/12/14