「島根県結核対策行動指針」について
島根県健康福祉部薬事衛生課 主任 佐々木 慎二
策定までの経緯
平成11年7月、厚生省(当時)は「結核緊急事態宣言」を発表し、国民や関係団体に対し結核対策に取り組むよう要請した。
当時、本県では患者数は減少傾向にあったものの、60歳以上の新登録患者が全体の65%を占め、早期発見の要である定期健康診断の受診率も45%程度まで下がっており、全国の傾向を考えると患者数が増加に転じることが懸念されていた。
そのため、同年8月に策定した県の保健医療計画において、結核対策を重点的な施策に位置づけると共に、結核対策をより確実かつ具体的に推進するため、行動指針を策定することとした。
策定に当たっては、本庁(薬事衛生課)と県下7つの健康福祉センター(保健所)から様々な職種の職員を選び、国立療養所松江病院の医師を助言者として検討委員会を設置し、検討することとした。この検討委員会で骨子を作成し、各健康福祉センターの意見を踏まえて文章化を行い、平成12年8月に作成したのが「島根県結核対策行動指針」(以下「指針」という)である。
指針の構成
指針では、結核対策における主要な取り組みを「8つの柱」として定め、この8つの柱ごとに、@「現状と課題」についての分析・整理、A課題解決のための「目標」の設定、B目標を達成するための具体的「戦略」の明示、を行っている。
具体的な内容については、以下のとおりである。
「8つの柱」と「現状の課題」
「8つの柱」については、結核研究所森所長が提唱された「保健所における結核対策のパッケージ」を基に、県の現状を踏まえて設定し、それぞれに関する「現状と課題」を以下のとおり整理した。
@「定期外健康診断の徹底」
定期外検診の受診率が初発患者登録後、回を重ねるごとに低下する傾向が見られると共に、結核診断後の届出が遅れるケースが多い、受診者の検査結果や治療歴の把握が不十分といったことが課題である。
A「早期発見の推進」
診断の遅れ・受診の遅れとも保健所間で格差があり、特に受診の遅れについては近年増加傾向にある。
B「適正医療の普及」
善し悪しは一概には言えないが、登録時入院の割合が高い傾向にある。なお、化学療法の実施状況や入院に関する指標は、おおむね良好と言える。
C「患者管理の徹底」
初回面接での本人面接の実施割合や初回訪問までの所要日数等は、全国平均に比べて良好である。また、治療成績における「成功」の割合は平均並みとなっている。
D「院内感染・施設内感染対策」
集団感染の報告はないが、全国一の高齢化県で、高齢者の罹患率が高く、施設入所者の健康診断の実施率も低いことなどから、院内・施設内感染が危惧される要素はある。
E「定期健康診断・予防接種」
定期健康診断については、一般住民検診の受診率が年々低下しており、特に市部を抱える保健所管内が低率であること、また、予防接種についても、BCG接種率・ツ反陽性率ともに保健所間で格差があり、さらに、事業所等における検診の実施状況の把握も不十分であること等が挙げられる。
F「関係機関との連携」
接触者検診を行う医療機関が、対象者の情報(ツ反・BCG歴等)を把握していないため、判定が困難な場合があったり、保健所との間で検査結果等の連絡体制が整っていないこと等が挙げられる。また、学校との連携も十分とは言えない。
G「結核発生動向調査の精度向上」
病状不明者の割合や塗抹・培養検査結果の把握等、調査状況はおおむね良好と言えるが、情報把握が不十分な項目もあり、また、担当者の解釈や記載内容の違いにより、データの取扱いが保健所間で不統一な場合がある。
「目標」と「戦略」
指針では、「8つの柱」に関する課題ごとに、対策の目安となる「目標」を設定し、具体的な方策である「戦略」を立てている。
「目標」については、明確なものにするため可能な限り数値で設定したが、その数値は、結核管理図における県の近年の全国のデータ等を基に、達成可能と考えるレベルにした。
また、「戦略」については、結核対策の担当者が代わっても重点事項が理解しやすいよう、具体的な事項を箇条書きにまとめている。
具体的な内容については、表のとおりである。
表 「8つの柱」の「目標」と「戦略」(抄)
柱 | 目 標 | 戦 略 |
1 定期外健康診断の 徹底 |
1 受診率 直後=98%、1年後=95% (定期外検診での患者発生率=5%〜) 2 患者届出期間、初回対応期間の短縮 3 結核死亡と診断された者に係る 患者届出の徹底 4 初回対応の本人面接実施率の向上 5 必要な者に対するツ反の積極的な実施等 |
1 各種届出の実施についての指導 2 患者発生時の検診の徹底 3 初発患者調査の徹底 4 薬剤感受性検査結果の把握 5 ツ反検査の積極的な実施、予防内服の検討 6 検診の計画的な実施 |
2 早期発見の推進 | 1 診断の遅れ 全県=〜15%、保健所=〜20% 2 受診の遅れ 全県=〜20%、保健所=〜30% |
1 診断技術向上のための研修 2 正しい知識の普及啓発 3 発見の遅れに関する実態調査 |
3 適正医療の普及 | 1 化学療法 @新登録喀痰塗抹陽性初Z含む4剤=80% A新・登録時HRなし=〜1% B年末活肺・HRなし=〜5% 外3項目 2 入院 @平均肺結核入院期間=〜4ヵ月 外2項目 |
1 医療機関等への結核医療の適切な指導 2 治療技術向上のための研修 |
4 患者管理の徹底 | 1 治療成功+その他=90%〜 2 喀痰塗抹陽性肺結核 治療成功=82.5%〜 3 病状不明者等の割合の低減 4 初回対応期間の短縮 |
1 本人等への保健指導、情報収集の徹底 2 治療脱落・中断の早期発見、 多剤耐性結核の防止 3 病状不明者等の背景・問題の整理 4 治療終了後の検診受診等の徹底 |
5 院内感染・ 施設内感染対策 |
1 集団感染の発生=なし(現状維持) | 1 院内(施設内)対策の徹底指導 2 患者の早期発見・早期治療の徹底 3 感染拡大の防止 4 体制整備 |
6 定期健康診断・ 予防接種 |
1 4歳までのBCG接種率=90%〜 2 ツ反陽性率の向上 3 一般住民検診受診率=50% |
1 確実なBCG接種・ツ反実施への支援 2 受診勧奨・受診状況把握のため 関係機関の指導 3 定期検診の受診率向上の指導 4 定期検診及び予防接種の必要性を啓発 5 ツ反フローチャートの活用を医療機関に推奨 |
7 関係機関の 連携体制の充実 |
1 保健所と関係機関の連携体制の充実 | 1 地域保健福祉協議会(県内各圏域)の活用 2 医療機関との連携強化 (情報交換、事例検討等) 3 学校、市町村、施設等との連携強化 |
8 結核発生同行調査 の精度向上 |
1 病状不明者の割合の低減 2 塗抹検査結果把握率=100% 3 培養検査結果把握率=100% 4 薬剤感受性試験結果把握率=100% 5 データの標準化 |
1 菌検査・薬剤感受性検査の結果の追跡強化 2 データの標準化と確実な入力の実施 3 登録者のカードへの確実な記載 4 各種書類の記載について医療機関への指導 |
指針の活用について
本県では、この指針で設定した目標を平成12年度からの5年間で達成することとしている。また、この指針に基づき、各健康福祉センターにおいても地域特性を踏まえた「管内版行動指針」を策定しており、管内の結核指標の改善・向上を目指した具体的な行動目標を定めた上で、実効ある事業を計画・実施している。そして、毎年度の事業の実績や効果を自ら検証した上で、次年度以降の施策に反映させる方式を取り入れたところである。
なお、先日公表された平成12年結核発生動向調査年報集計結果によると、本県の結核の状況は、新登録者数や罹患率をはじめとして、全般的に前年よりも改善されている(全国的にも同様な傾向)。これを指針に基づく施策の効果と見るのは早計ではあろうが、指針策定1年目としては上々のスタートとなったのではないかと思っている。
今後とも、結核対策の効果が一層上がるよう、目標達成を目指して全県的な取り組みを進めていきたい。
Updated 01/12/12