スタッフの熱意と責任感に支えられた
川崎市川崎区の事業を見学して


 9月12日、本会青木会長、増山第一健康相談所診療部長と共に川崎市川崎区を訪問した。クリスマスシーズンの華やかなイルミネーションで知られる川崎駅周辺の整然とした並木道のイメージの裏側で、川崎区の結核新登録患者数(161人、罹患率83.0)は全市(467人、罹患率37.4)の3分の1以上を占めるという厳しい現状にある(全国罹患率31.0、いずれも平成12年発生動向集計結果より)。川崎区は工場地帯や深夜にまで及ぶ商業地域として古くから人口密度が高く、大都市での結核の偏在化という問題がここにも表れている。ハイリスク層への対策の重点化を図ることを目的とし、昨年8月より開始された「川崎市結核対策DOT事業」の詳細については、既に複十字誌No.278にて川崎市健康福祉局の多田疾病対策課長より紹介済みであるので内容は重複するが、今回多田課長ほか川崎区を管轄するスタッフの皆様にお会いし、その熱意ある取り組み、そして保健-医療-福祉の緊密な連携方策を伺い、ニューヨークや国内のさまざまな地域での報告で耳にしていたDOTS推進のために欠かせない「スタッフのやる気」というものを肌で感じることができた。


患者を発見することから始まる −野宿生活者の結核検診−

 はじめに、川崎区役所保健所を実施主体とし、年に2回実施されている野宿生活者を対象とした結核検診の現場を見学した。市の福祉施策として平日は欠かさず行われるという野宿生活者への食料(弁当)支給の会場の隣りに間接撮影X線車を配置、早朝6時半から9時までの2時間半、野宿生活者に検診を呼びかける。この日に食料を支給された604人のうち487人の受診があったという。野宿生活者にとって日々の食料の確保は必須であろうし、そのついでに検診を受けられるというこのスタイルの確立は画期的である。No.278の報告にもあったように、平成11・12年度と、食料支給者数を受診者数が上回っていることからも効率のよさがうかがえる。
 こうして発見された入院患者については、市立井田病院等で院内DOTを実施し、井田病院看護職と保健所保健婦との定期連絡会も開催されるなど、連携の強化が図られている。(なお、簡易宿泊所居住者の結核検診も別途実施している。)

        1台のバスが食料(弁当)支給の場となっている        連日支給される弁当        バスの壁面に掲示された検診案内


治療終了までの患者管理 −保健所がダイレクトに行うDOT−

 続いて、川崎区役所保健所の事務所の一角に設けられたDOT室を案内していただいた。もともと一般の面接用として使用していた部屋に殺菌灯を設置したというこの部屋では、先に述べた結核検診等を経て川崎区役所保健所に登録された結核患者の中で、すでに菌が陰性化した通院患者である野宿生活者、簡易宿泊所に居住している生活保護受給者、一人暮らしの者等の結核患者のうち治療困難と認められる者を対象として、患者の同意の下、次の2通りの方法で服薬支援が行われ、療養状況について保健婦(または臨時雇用看護職)が面接を行っている。
 @DOT型:開庁日(8時半から15時半までの間)に毎日来所してもらい、看護職が目の前で服薬を確認する。この際必要に応じて保健所で治療薬を保管する。
 Aコミュニケーション重視型:「連日の来所は無理」という人には、1週間に1回、薬の空殻を持参してもらい服薬状況を確認する。

                    様

     平成   年   月   日
           DOT実施しました

          川崎区役所保健所

 なお、保健所が区役所福祉事務所と同一建物内にあるため、生活保護費を短期間に使い切ってしまう人などには生活保護費の支払いを@と組み合わせ、通常月1回である支払いを日払い方式としている。患者はDOTを4階の保健所DOT室で済ませたあと、実施済連絡票(右参照)を6階の福祉事務所へ持参し、そこで生活保護費を受け取る仕組みである。このほか、未来所者が発生した際は保健婦さんと共に福祉担当の方が患者を捜し出し、簡易宿泊所まで薬を届けに同行してくれるという。これら福祉担当部局による力強いバックアップにも支えられ、確実な患者管理に結びついている。
 昨年8月に事業を開始した当初は、不定期な来所や口頭で服薬状況を確認するといった対象者も少数いたとのことだが、現在はスタッフの熱意により、上記2通りの定期的な来所による服薬支援が実施されており、保健婦さんとの信頼関係もできている。昨年8月から今年8月までの1年間で、服薬支援を開始した39人中既に23人が治療を終了し、中断者が2人、副作用により中止中の者が1人で、その時点で13人が継続中とのことであった。
 前回の記事で多田先生も述べられていたように、関係者の皆さんのやる気により支えられている本事業に当面の出口は見えず、日々の膨大な業務を抱えながらこの状態を維持し続けられる保障などありようもない。今後の事業継続のために、あらゆる角度からの政府の関与の必要性を感じた。

 早朝からの検診実施の合間というお忙しい中、関係各所を丁寧にご案内いただき、貴重なお話を聞かせて下さいました多田先生並びに藤生川崎区役所保健所長をはじめとする関係者の皆様に感謝いたします。

(文責 本部普及課)


Updated 01/12/12