結核を取り巻く環境変化と診療報酬改善の必要性

結核予防会審理役   橋本 壽

はじめに
 
一昨年、「結核緊急事態宣言」が出されて結核は再び国民の関心事となった。しかし、現在結核が問題になっている状況やその意味が、国民に必ずしも充分に理解されたわけではない。
 昭和26年、結核予防法が結核病学の成果を盛り込んで全面改正され、これを軸とする結核対策が強力に進められた。その結果、結核が年率10〜15%で着実に減少してきた。しかし、昭和58年以降減少が鈍化し、現在、先進諸国と比較すると結核克服の状況ははかばかしくない。平成9年からは逆に罹患率が増加に転じた。
 高齢者の結核発病、地域的な偏在、多剤耐性結核患者の出現など結核の発症状況は大きく変貌し、昭和20年代から30年代にかけて効果的であった結核対策は現在の状況に適さなくなってきている。
 結核医療は経済性の面においても、現行の結核医療に関する診療報酬が、結核まん延状況の下での1年を超える長期療養を前提に設定されたままになっていて、現在の結核医療の実際とはかけ離れたものになっている。その結果、昭和40年代半ばから結核医療は不採算であることが常態化し、民間は結核医療から撤退していった。そうした状況にあっても国、地方公共団体及び公益法人である結核予防会等は結核医療を受け持つことを半ば使命として受け止め、結核療養所の赤字を一般会計や他の診療収益から補填してきた。しかし、国立病院・療養所は、平成16年度から独立行政法人化されて採算性が求められることとなり、結核予防会等も結核医療の継続、充実を図っていく上で、結核医療の採算性の回復を強く願っている。
 さらに、いま結核医療は時代の変化に即応するための改革への取り組みが課せられている。この改革課題は、結核医療の診療報酬を改善しなければ実効が上がらないものばかりである。
 したがって、結核医療を改革するためには結核医療に関する診療報酬の改善が行われねばならず、それによって結核医療の経済性も同時に改善されることが期待されている。
 見方を変えれば、結核医療の経済性の改善は、環境変化に即応した改革への取り組みにかかっている。

結核医療の歴史的背景
(1)結核医療の果たしてきた役割
 
結核がまん延していた時代には、結核は若年層を襲い、若者の将来への希望をふさぎ、医療費負担、労働力の喪失等から家庭に大きな経済的負担を強いた。さらには結核医療費が医療費全体の30%近くを占め、国家財政に影響した。
 したがって、戦前、結核問題は国力を左右する国家的課題であった。戦後のわが国の医療は、国内における結核患者に加えて外地から引き揚げてくる結核患者への対応から始まったといっても過言ではない。結核まん延状況の中で、これまでの伝染の波を断ち切るために結核予防に最大のエネルギーが注がれた。同時に結核に罹患した人の経済的な負担を軽減する方法も考えられた。そして、これまでの結核病学の成果を総括するような形で昭和26年、結核予防法が全面改正された。昭和30年代の半ばには「結核医療の基準」を通じて化学療法が確立され、結核患者が激減し、結核病学の勝利とまで言われた。そこに至る過程において、本会は結核予防活動の面と同時に結核病学の面でも極めて大きな足跡を残している。
 また、結核医療は医療、福祉、保健の多くの分野で原点になっている。そのことは、砂原・上山の対談形式の「ある病気の運命」に、結核研究の遺産として結核病学と結核医療の両面から要領よくまとめられているが、集団健診、保健所、保健婦、ソーシャルワーカー、リハビリテーションなどは結核医療・結核予防を進めていく過程で生まれたものであり、臨床薬理学や胸部外科の発展は結核医療に原点がある。
 さらに、戦後の経済復興期に企業は結核検診に積極的に取り組み、そこで発見された結核患者は、いち早く化学療法の恩恵に浴して職場に復帰していった。このことによる経済効果も大きなものである。
 当時、薬理経済学は形成されていないが、結核が外科治療から化学療法へ移行し、化学療法が確立される過程は、医療費の節減と有意な人材の経済活動への寄与という両面から、他に例がないほど大きな経済効果をもたらしている。

(2)結核医療の文化史的特異性
 一方、結核は他の疾患と異なり、社会経済的背景や文化史的な視点からも考えないと本質を見誤るおそれがある。そこに結核は他の疾病とは異なる特異な側面をもっている。
 福田眞人「結核の文化史」は、結核の文化史的側面から次のように述べている。
 「人口の増大、都市化の進行と貧富の拡大、産業の発達とそれに伴う労働条件の変化といった諸条件が重なって、結核まん延に格好の土壌が用意されたと言えるだろう。農耕中心の社会だったものが、都市に人口が集中し、そこで新たな産業形態に直面した時、人間は十分それに対応できなかったのである。人口稠密のために人間の距離が極端に減少したことで、清浄な空気・光・水が不足し、かつてそこにほとんど存在しなかったか、稀にしか見られなかった結核が急速にまん延したのであろう。結核が近代的病気、あるいは近代化の病気と呼ばれる所以である」(同書7頁)
 わが国は近代化の過程で、結核に対して社会経済的にも大変なエネルギーを注いできた。
 化学療法が確立されていなかった時代には、栄養、大気、安静によってひたすら自然治癒力に頼るしかなかった。また、結核は不治の病として忌み嫌われ、結核療養所は人里離れたところにしか造れなかった。そこでひたすら回復を待って療養所生活を送った。当時の療養所生活は、倫理的色彩を帯びた相当厳しい規律を求めたものであった。
 その後、外科的療法が盛んに行われるようになり、さらには化学療法の時代へと変わってゆくが、結核医療の中心はやはり療養所であった。したがって、いまなお結核の治療は療養所での長期療養のイメージから完全に脱しきれていない。
 なお、文化史的視点の一断面として注目すべき点は、戦後の混乱期の中で結核のもたらす生活の困難性と、長期療養のため生活の場と化した結核療養所の中と外が結びつき、結核療養所の中に政治が持ち込まれたことである。
 結核療養所の労働組合と患者同盟とが生活権闘争を通じて結びつき、結核療養所の運営にも影響するという状況が生まれた。こうしたことは他の疾病では見られない結核医療の特異的な側面であり、そうした状況はわが国が昭和30年代高度成長を迎え、結核患者が激減している頃にも続いていた。そのために結核病棟の転換や閉鎖が思うように進展せず、病院の経営状況を悪化させた。

結核患者の減少と結核病床の推移
図1 結核病床数・患者数の推移 ワクスマンによって発見されたストレプトマイシン(SM、1944年)に始まり、パス(パラアミノサルチル酸塩、PAS、1943年)、ヒドラジッド(イソニコチン酸ヒドラジドッド、INH、1952年)、カナマイシン(KM、1957年)、リファンピシン(RFP、1966年)等が次々に「結核医療の基準」に加えられ、単独の療法から複数の薬剤を使用する併用療法が公費負担で適用されていくにつれて、結核患者は急速に減少した。
 昭和30年以降の結核患者の減少と結核病床の推移を見ると、図1のとおりである。
 結核病床は患者の減少よりやや遅れる形で減少しているが、結核専門の病院(いわゆる「結核療養所」)は昭和40年代に激減している。
 そして、結核病床数は現在も減少を続けているが、平成11年度で平均在院日数は、なお102.5日に及んでいる。平成11年末の結核病床は24,773床であるが、病床利用率は45%と理解しがたい数値になっている。
 産婦人科は小子化と共に減少し、小児医療が経営的に非常に難しくなっているが、これは経営的には根底において需給調整の問題と受け止められている。しかし、結核の場合には国公立の療養所は、経営的に不採算であろうと、最終的には国や地方公共団体が補填してくれるという認識が働いていた。この認識が先ごろの国立病院・療養所の独立行政法人化によってその根拠をなくした。
 時代は急速に変化している。結核医療の現場も過去の結核まん延状況とは様変わりしている。それにもかかわらず、結核医療に対する診療報酬その他の措置は、全く旧態依然とした姿のままになっている。
 入院患者の平均年齢が高齢化し、合併症のある患者が多くなってきているとはいえ、100日を超える入院期間は現在の社会から考えると非常識に長い。高齢者を長く拘束することも問題であるが、現在の結核医療の基準から見ても入院期間をもっと短縮できるはずである。仮に、入院期間を伸ばすことによって病床利用率を下げないようにしているとしたら、その不経済は重複したものになり、早急に改める必要がある。
 病床利用率が45%というのは結核のような長期入院を前提とする疾病にとってはきわめて不合理なものである。公式統計における病床利用率は許可病床で計算されている。しかし、実際は病棟の集約化によって許可されたとおりには稼動していない。一昨年、東京、大阪で排菌患者が待機させられるという事態も生じている。東京都が一時的に調査した結果では、許可病床数(1,549床)と稼動病床数(1,045床)に相当乖離があり(67.5%稼動)、稼動病棟に対する利用率は85%であった。
 第4次医療法改正に伴い、結核病床についても都道府県ごとに基準病床数を設定して現在許可病床数と対比することとなっているが、おそらく現在許可病床数は基準病床数を上回り、結核病床は過剰であるという結果になるであろう。
 結核病床の稼動数が減少していることについては結核医療の経済性が大きく影響している。反面、結核入院医療の入院期間等を適正化することによって結核医療の経済性を改善する余地がある。

結核入院医療の経済性
図2 入院、診療行為別請求の変化
表1 患者1人1日当たり診療報酬請求額の比較
(1)結核医療が不採算の理由
 
結核医療の不採算の状況にはいくつかの要因が考えられるが主たる要因は結核患者が急激に減少し、提供体制の縮小対応が間に合わなかったことにある。
 それに加えて、患者の減少傾向が明らかになってからも結核病床の廃止や転換を阻止する力が働き、個別病院単位で見れば、病床利用率が低下しても結核患者は病棟として維持しながら対応していかざるを得なかったことがある。もう一つは結核医療における化学療法の確立と定着がある。
 ピーク時の昭和35年、減少期の昭和40年、最近時(停滞期)の平成10年について、結核の入院患者1人1日当たりの診療報酬支払額を一般医療と対比してみると、図2のとおりである。
 この合計額を比較すると、表1のとおり一般医療の方は昭和35年と40年では3.3倍、昭和40年と平成10年では16.2倍に引き上がっているのに対して、結核医療の方は昭和35年と40年では3.2倍、昭和40年と平成10年では9.8倍しか引き上がっていない。
 また、一般と結核では手術等の請求額が隔絶したものとなり、結核と一般の比率は昭和35年で84.6%、昭和40年で84.6%であったものが、平成10年には51.4%にまで落ち込んでいる。

(2)結核医療の変化
昭和26年に結核予防法が全面改正され、翌27年には化学療法に主眼を置いた第一次の「結核医療の基準」が定められている。しかし、その当時、結核予防法の指定医療機関の資格を得るためには人口気胸器を備えていることが条件であったように、外科療法が盛んであった。また、化学療法の導入により、外科療法の安全性が増したため、昭和20年代の終わりごろから40年代の初めにかけて胸郭成形術や肺切除術が盛んに行われた。しかし、「結核医療の基準」の昭和34年8月改正で3剤併用の枠を拡大し、ヒドラジッドとパスの併用を無条件に毎日使用できるようになるなど、化学療法が確立されてきたことによって、昭和40年代に入ると外科療法は激減した。これが先の診療報酬請求実態の変化になって現れており、この変化への診療報酬上の対応がなされなかったために、結核医療は診療内容と診療報酬とのバランスを崩して不採算なものになってしまったと見ることもできる。
 不採算にならないようにするには、結核患者の減少に伴う結核医療のあり方を含む改革的な措置を必要としたが、当時は病棟の転換で対応した。伝染病であるがゆえに病棟単位で処理する必要があり、病棟を集約して空き病棟を他の病棟に転換するという方法がとられた。しかし、国公立の療養所では病床利用率が低下しても病棟の閉鎖や転換が円滑に進まなかった。
 結核減少期における結核病棟の縮小は、結核病棟における人材の新陳代謝を阻害し、職員構成の停滞と職員の高齢化をもたらし、給与費と収益とのアンバランスを拡大した。
 さらにその後の停滞期においては、患者層が若年層から高齢者に変化し、合併症例、多剤耐性結核による入院期間の長期化と病棟管理の困難性が増してきて、結核医療は一段と経済性を悪化させていった。

(3)変化への対応
 結核医療は化学療法を中心とする標準的医療が行われ、患者の変化にも医療上は十分対応できていると見られてきたがゆえに、結核医療の経済性について真剣に考えられてこなかった面がある。結核医療の経済性の問題は、患者の激減したことによって療養所が成り立たなくなったという程度の理解で過ぎてきた。
 しかし、昭和30年代前半までの結核まん延状況の時代と現在とでは、結核医療の内容も取り巻く環境も大きく変化している。結核医療の経済性が悪化したのは、化学療法が確立され、結核病学の勝利と言えるまでの成果によることである。
 平成9年以降、罹患率が増加しているとはいえ、まん延状況の時代とは絶対数が異なる。したがって、当然、まん延状況の時とは異なった対応が必要とされている。
 結核患者が薄く広く存在するようになれば、病棟単位の対応では提供のあり方として不経済になり、利便性の面でも適当ではなくなってくる。既に昭和60年の結核病学会において本会の島尾顧問が「結核病床の今後のあり方」という特別講演の中で、必要な装備を施した上で総合病院内の一部を結核病室として使用することを提唱されている。
 また、平成3年5月の公衆衛生審議会結核予防部会の意見具申として、一般病院の中の結核病棟から一般病院の中の結核病室へという形で対応するよう提唱している。
 さらに、現在の化学療法で標準的な治療の場合には100日を超えるような長期入院の必要がないことも明らかになっており、「薬剤耐性の患者を除けば今では2ヵ月を超える期間の入院を要する患者は少ないと考えてよいだろう」と言われている。
 しかし、一方では多剤耐性結核患者や糖尿病合併症の患者など、治療困難な患者も増加しつつある。
 以上のような点を中心に、結核医療は結核医療の提供体制のあり方を含めて、医療そのものの面においてもその対策の見直しが迫られている。
平成13年1月15日から20日の6日間、海外から結核の専門家を招いて日本の結核対策の合同レビューが行われた。その様子は、結核研究所の須知雅史が簡潔に紹介している。合同レビューの報告書に結核対策の方向が的確にまとめられている。合同レビューが報告書の中で指摘しているように、結核医療を取り巻く環境は昭和26年の結核予防法が想定していた状況からすっかり変わってしまっているにもかかわらず、日本の結核対策はいまも結核予防法と伝統的な慣習に大きく依存している。そして、入院期間が長いこと、初期化学療法の不徹底、非効率的な若者への定期検診などが改善の課題とされている。

結核医療の経済性判断について
図3
表2 平成11年6月の入院実績
 
これまで結核医療が不採算である原因は、漠然と結核患者の減少による収益の落ち込みと費用削減の困難性にあると考えられてきた。しかし、現在のわが国の医療は結核医療に限らず、診療報酬が公定されている。それに加えて結核医療DRG(diagnosis related groups: 診断群別の包括支払い方式)を先取りするような形で「結核医療の基準」による医療を提供する形が定着しているので、施設運営が、基準に従った適正な医療を提供することで経営が成り立つことを期待されているにもかかわらず、施設の利用状況が正常であり、かつ、適正な医療を提供していても結核の施設経営が恒常的に、かつ一般的に不採算な状況になっている。医療費の適正化を考える場合、マクロの医療費が国全体の経済の上で健全な状況にあるかという視点も重要であるが、一方では、医業経営の面においては適正な価格で必要な医薬品等が仕入れられ、適正な人材が確保できるような人件費配分が可能でなければならない。
 そこで、結核医療における経済性の適性判断は、正常な利用状況を前提として、適正な価格で医薬品等の外部調達費用が賄われ、必要とされる職員数と標準的な給与水準によって算定される人件費が賄われるだけの医業収益が確保できるということにある。
 現状の結核医療における経済性を判断する場合にも、図3のように正常な利用状況を前提として算出された医業収益から外部調達費用を差し引いた付加価値によって適正人件費が賄えているかという見方が重要である。
 複十字病院の結核病棟(100床)について平成11年6月の入院実績を対象に経済性を調査したところ、表2のような結果が得られた。
 平成11年6月の結核入院診療にかかる医薬品等の外部調達費用は、診療報酬請求額における結核入院診療の占める割合で按分すると、17,140千円(患者1人1日当たり5,920円)と推計されたので、結核入院診療の粗付加価値額は34,539千円(51,679-17,140)と推計された。
 この粗付加価値額では、結核病棟に配置された職員の給与費(36,848千円)と結核病棟に割り振られた減価償却費(5,231千円)は賄い切れなかった。
 病床利用率が96.5%で平均在院日数が73.3日に止まっている複十字病院の結核病棟でさえ、労働分配率は125.7%になり、医業損益は△14.6%になった。
 仮に外部調達費用が適正で複十字病院の結核病棟に配置された職員数とその給与水準が妥当なものであり、かつ減価償却費も相応のものであるとすると、それが賄いきれるためには診療報酬は59,219千円でなければならず、患者1人1日当たりの診療収益に置き換えると、20,456円ということになる。
 これは結核医療に対する配分的費用で推計しているが、結核医療にかかわる費用を個別に拾い上げていくと、結核以外のものより余分な費用がかかっている。
 一つは、感染防止対策のための病室の陰圧化(空気調和設備の特別仕様)や結核患者専用エレベーターの電気料金・ガス料金・保守点検費等の付加的経費がかかる。この付加的経費は複十字病院の平成11年度で3,100千円かっていた。平成12年度に整備した多剤耐性病棟と検査室との関連で年間16,000千円増加する見込である。
 もう一つは、結核医療にかかる相談業務や入退院手続きによる付加的費用である。結核患者の医療相談業務は件数でも1件あたりの所要時間においても他の患者の数倍かかっており、複十字病院の場合、1ヵ月の人件費に置き換えて85千円程度になる。
 また、結核の場合、入退院に結核予防法関連の手続きが必要でそのための届出書類は医師が直接記入する必要がある。このための医師の拘束時間を基礎に1カ月の人件費に置き換えると、268千円程度になる。
 これらの付加的な費用を積み上げると、611千円(3,100 / 12+85+268、平成11年度べ一スで多剤耐性病棟に伴う増加は加えていない。)になり、これを先の必要診療報酬額に加えると、年間の必要診療報酬額は59,830千円となり、患者1人1日当り約21,000円になる。
 複十字病院では他科の応援で成り立っていることを考えると、純粋の結核入院医療の適正職員数と現在の平均的給与水準から考えた場合、100床規模で1ヵ月66,500千円の診療収益(患者1人1日当たり約23,000千円)が望まれる。

診療報酬の改善要望の実現に向けて
 
来年は診療報酬改定が予定されている。いま本会は結核病学会と歩調を合わせながら、来年の診療報酬改定に向けて結核医療の改善要望を厚生労働省、日本医師会等に働きかけている。
 要望の骨子は、入院期間の適正化、外来治療の改善、菌検査の充実を柱とする次の6項目である。
(1)結核入院医療の診療報酬の包括化
@入院期間が90日以内の場合2,300点
A入院期間が91日以上の場合1,700点
B多剤耐性結核患者の場合(入院期間にかかわらず)2,500円
いずれも院内DOTSを実施すること。
(2)重症患者への加算
現行の重症者等療養環境加算(個室300点、2人室150点)を結核患者にも適用すること。
(3)外来での結核通院治療指導料
DOTS実施のため患者1人につき月1回240点(現行のウイルス疾患指導料1と同程度とすること。)
(4)病室単位の結核医療の促進
一般病棟の中の結核病室に入院する患者にも(1)の包括点数を適用し、結核以外の診療行為は、診療行為ごとに請求できることとすること。
(5)抗酸菌薬剤感受性検査点数の増加
(6)抗酸薬の適用拡大
 本誌が発行される頃には、具体的な要望内容が固まっていることと思われる。
 既に触れたように結核医療はいま改革を迫られている。この改革を進めるためには診療報酬の改善が不可欠である。しかし、医療保険財政は逼迫しているので、診療報酬の改善によって結核医療にかかる医療費が全体として増加するようでは実現が難しい。
 今回の結核医療にかかる診療報酬の改善要望は、結核医療改革の一環であり、その中心課題は入院期間の適正化である。入院期間の適正化は医療費の引き上げに作用する。
表3 結核病床数・利用率・在院日数 平成10年度ベースで結核の医療費総額は、1,091億円(国民総医療費234,827億円の0.46%)である。そのうち結核入院医療費は804億円であり、平成10年の患者状況は表3の通りである。
 平成10年度の結核入院医療費(804億円)を年間入院延患者数(4,346,420人)で除すと、患者1人1日当たり18,498円となる。
 このときの平均在院日数は109.3日であったので、入院期間の適正化によって平均在院日数が85日に短縮されたとすれば、年間入院延患者数は3,181,280人(実患者数が変わらないという前提)になり、患者1人1日当たり25,273円になっても結核入院医療費は平成10年度ベースより増加しないという計算になる。現実はこのように単純に割り切れないまでも結核医療の改革と結びつけた形で診療報酬の改善を是非実現したいものである。

参考文献
岩崎 龍郎「日本の結核」(1989.4 結核予防会)、小田 兼三・竹内 孝仁「医療福祉学の理論」(1997.5 中央法規出版)、島尾 忠男「わが国の結核対策」(1996.1 結核予防会)、砂原 茂一・上田 敏「ある病気の運命」(1984 東京大学出版会)、福田 眞人「結核の文化史」(1995.2 名古屋大学出版会)、青木 正和「日常診療・業務に役立つ結核病学」(日本胸部臨床第60巻第3号)、増山 英則・青木 正和「結核治療における米国行政担当者の対応と認識」(結核第75巻第6号)


Updated 01/10/09