「カンボジアにおける結核・エイズ対策」
結核予防会国際部 医師 劔 陽子


ヘルスセンターでのDOTS。服薬する結核患者。

カンボジア結核対策プロジェクト概要
カンボジア結核対策プロジェクトは、1999年より国立結核ハンセン病対策センター(National Center for Tuberculosis and Leprosy Control; CENAT)をカウンターパートとして、広くカンボジアの結核対策を支援しています。その結果、2004年までには喀痰塗沫検査による診断と、DOTSによる治療を全国ほぼすべてのヘルスセンターに普及させることに成功し、結核治療成功率や、患者発見率もWHOの掲げる目標値に到達するようになりました。このように、カンボジアの結核事情はかなりの改善が認められているものの、まだいくつかの解決すべき問題が残っています。結核/HIV重複感染対策も、その1つです。


教育資材を使って、結核/エイズについて患者に説明する結核スタッフ

カンボジアにおける結核・エイズ対策
結核は、HIV感染者の免疫が低下してきたときに発症する「日和見感染症」の1つです。結核に「感染」しているHIV感染者の約半数が結核を「発症」すると言われています。HIV感染者が結核を発症した場合、非定型な結核となりやすいので診断が難しく、また重篤になりやすく、無治療でいた場合死亡率が高くなります。このため、カンボジアのように結核とエイズが共に蔓延している国では、「結核とエイズ対策」に力を入れる必要があります。  結核はきちんと治療をすれば治癒可能な病気であり、抗HIV薬の登場で今ではエイズもコントロール可能な疾患となっています。カンボジアは、結核治療もエイズ治療も、無料で受けることができ、結核とエイズ対策の基本はいたってシンプルなはずなのです。また、結核患者にHIVテストを勧め、陽性であればエイズ治療・ケアサービスにつなげること、そしてHIV感染者には定期的に結核検査を受けるように勧め、結核と診断されたなら確実に治療をすること、この2点が結核/エイズ対策の基本です。しかし、人材的にも資金的にも、それぞれが独立して、別々に活動する国家結核対策と国家エイズ対策をリンクさせることは、決して簡単なことではありません。例えば、結核担当のヘルスセンタースタッフは「自分が担当するのは結核であるから、エイズについて話をするのは職務外」という認識を持っていることが多く、なかなか日常診察の場で患者さんに結核とエイズの関係について説明したり、エイズ検査に行くように勧めたりしてもらうことができないでいます。

以下が当プロジェクトの活動内容です。
O 結核スタッフによる、結核治療の場であるヘルスセンターでの結核患者対象のHIVテストの推進(選定した結核スタッフにカウンセリングトレーニングを受けてもらう)
O 結核・エイズ対策双方の関係者が協力できるようなシステムの構築
O 結核/エイズ対策に関する意識の向上、技術トレーニング、問題点の共有と解決策の模索を目的として、結核・エイズ対策双方の関係者による定期ミーティングの開催
O HIV感染者専用の結核スクリーニングクリニックの開設 O 結核/エイズに関する教育資材の開発 このなかでも特に、パイロット地域の1つである首都プノンペンの結核/エイズ事情の改善に努めてきました。

この結果、2007年には、プノンペン市内の80%以上の結核患者がHIVテストを受け、HIV陽性とわかった重複感染者のほとんどが、エイズ治療/ケアサービスにたどり着くことができるようになりました。

3. 個人的な考察
カンボジアは70年代のポル・ポト政権下で、教育を奪われ、医者を含む知識層が殺されたため、現在医療現場で中心となって働いている30-40歳代の層は、若い頃に満足に教育を受けられなかった世代です。こういった人々に、「結核に関する様々な活動だけでなく、エイズのことも勉強して下さい」というのは実は非常に酷なことなのです。しかし、カンボジアの人々が自分たちの国の状況を自分たちの力で解決するためには、彼らが主導権をもって活動していく必要があります。教育の大切さをつくづく実感し、満足な教育を受けらなかった現場のスタッフたちに如何にして新たな知識を理解してもらうか、活動を展開してもらうかを考える毎日です。 また、エイズ対策に結核/エイズ対策について関心を持ってもらうことの難しさも感じています。往々にして、エイズ対策に関わる人間はエイズにしか目を向けにくく、逆に結核対策に関わる人間は結核にしか目を向けにくいものです。しかし、それでは「病を診て人を診ず」、結核/エイズという、二つの疾患にまたがった対策活動の遂行は困難です。結核対策の良い所、エイズ対策の良い所それぞれに学びながら、広く社会全体を見渡した包括的な活動が、今、求められていると思います。

ミーティングで結核/エイズ教育資材の使い方を話し合って学ぶ結核/エイズ対策関係者たち


11/2007


Updated 03/03/10