DOTS世界戦略に日本はどう取り組むべきか

−WHO主催DOTSワークショップに参加して−

結核研究所副所長 石川信克



 2000年11 月20 日から22 日までエジプトのカイロにおいてDOTS 拡大のための国際会議が開かれた。アムステルダム会議後のフォローとしてWHO が主催し,22の結核高負担国の結核対策課長ないし責任者を中心に,様々な技術的,財政的パートナー(援助国や技術的組織)が一堂に会しDOTS拡大の世界戦略に関する協議を行った。カイロに最近移動した東地中海地域事務局(EMRO)の新築したばかりの会議場で行われた最初の国際会議であった。

会議の目標

 DOTS 拡大のための国際5カ年計画の策定を目標に,以下の目的でなされた。
1 .アムステルダム会議(2000 年 3月)以降の活動の進展を当該国,WHO及び他のストップTB パートナー間での評価
2 .WHO世界目標達成のための各国の中間行動計画の評価及び必要な行動計画の作成
3 .必要な技術的・財政的資源の把握
4 .各国家計画を支援する特定のパートナーのリストづくり
5 .DOTS 拡大のための各国・パートナー間の協力の世界計画の策定(国別,地域別)
6 .世界抗結核薬便宜基金(Global TB Drug Facility )計画の協議

成果

 各国の結核対策責任者によるDOTSの現状,将来計画,必要課題が発表され,パートナーを交えた討議が展開された。以下の確認がなされた。
1 .ストップTB(WHO)のもとでDOTS拡大に関する作業部会の成立
2 .同様に結核とHIV に関する作業部会の成立
3 .すべての22 結核高負担国の結核対策強化中期計画作成(2001 年9 月までに)
4 .国別協力支援体制の確立
5 .世界的DOTS拡大のための各国政府とパートナー調整の枠組みづくり
6 .2001 年12 月までにWHO の6 地域での政策計画の作成
7 .世界抗結核薬便宜基金(Global Drug Facility )活動の開始と必要国への支援,検討課題の整理

世界戦略の中での日本の役割

 このような会議に定期的に出席することは刺激や情報を得るために非常に有益である。特に世界戦略の中で,日本が全体として何をすべきか,早急に検討しなければならない。今回の会議で結核に関係する様々なドナーや支援団体の人たちと同席し,日本は何をしているか述べる機会があった。それぞれの国から自国のパートナーとしてJICAないし結核予防会が挙げられたのは,フィリピン,カンボジア,バングラデシュのみであった。今後日本の果たす役割への期待も大きいが,効果的な支援のために外務省,JICA ,厚生労働省を交え,年2 回程度の検討会議が必要であろう。世界の結核問題への取り組み,特に高負担国への取り組みを検討すべきであろう。例えば,高負担国のそれぞれに何をすべきか,あるいは研修生の受け入れ枠は1人でいいのか等()。

<結核研究所の役割> 今回の会議は日本政府(厚生省国際課),国際協力事業団(JICA)からもそれぞれを代表する方が出席され大変心強かった。従来この手の会議は日本政府からの参加者がいないため,我々が政府も含めた日本からの援助の代表という意識で出席していたが,今回は純然たる技術的支援パートナーとして結核研究所(RIT)あるいは結核予防会(JATA)の立場で出席し,新しい自覚を覚えた。即ち結核世界戦略における結核研究所の大きな役割は「研究と研修」であることを痛感した。結核研究所はロンドン大学(London School)やハーバード大学に匹敵する成果と人材を持たねばならない。

<国際研修の意義> 本会議では,国際研修に関する討議がなかったが,この分野は日本がもっとリーダーシップを取れるのではないかと思った。これまでの実績として,多くの国の中枢にいる人材に決定的なインパクトを与えてきたと言える。これを主張し続ける必要があろう。ちなみに今回の出席者には22 カ国からの代表を含め,日本の国際研修の研修生や関係者が多くいたし,関心を寄せる人も多かった。

<国際研修における政策研究方法の強化> 人材育成面ではDOTS という明快な技術的整理ができた今,それをいかに普及・拡大するか,改善するかという研究方法論,特に政策研究(OR )の重要性が高い。即ち,DOTS 導入の初期,拡大期,維持期,それ以降とそれぞれの時期で,どのような政策を採るべきか,それぞれの国で検討する研究能力を持っていなければならない。

<研修後の研究活動の支援> 研修後,よい研究計画には研究費をお世話して,実際に小規模研究を実施してもらい,それを支援する体制が必要であろう。これには,WHOの熱帯病研究プログラム(TDR)や他の研究財団との協力が必要である。



日本人の頼もしい活躍

 この会議はそもそも古知新博士の率いるストップTBの貢献が大きいが,現場事務局を切り盛りしていたWHO東地中海事務局の清田明宏医師(前結核研究所職員)の活躍に負うところが大きかった。西太平洋事務局からは葛西健医師も参加されていた。帰途ロンドンでは,大学院で学ぶ山田紀男医師,ネパールで薬剤管理の仕事をされた藤原好子さん等とも会うことができた。若い人材が着実に育っている様子を実感した旅であった。


清田明宏医師ご一家と

表 22 の結核高負担国の現状 (WHO その他の資料による)



Updated 01/04/27