第8回 Wolfheze Workshop on TB Control in Europe に参加して
2002年6月7日〜12日/オランダ
結核研究所疫学研究部 統計解析科長 大森 正子

☆背景☆
 
標記会議は2002年6月7日から12日まで、オランダの緑豊かな小さな村 Wolfheze で開かれた。この会議は一般に Wolfheze 会議と呼ばれ、1990年から同じ場所で開かれるようになったが、その背景に”WHOの方策は基本的にはすべてに適応できるものであるが、高まん延国を対象としたものであって、ヨーロッパのような低まん延国には必ずしもフィットしない場合もある”との西ヨーロッパ各国の考えがあった。そのため特に西ヨーロッパの結核対策に焦点を定めた方策を議論する場としてWolfheze会議が開かれたが、西ヨーロッパの結核対策は東ヨーロッパの結核対策抜きには考えられず、この会議の参加国は次第に東ヨーロッパにも拡大されるようになった。

☆3つの会議☆
 
約1週間にも及ぶ Wolfheze会議は、実は3つの会議から成る。@National Tuberculosis Programme Managers' Meeting(国家結核対策担当官会議)、AWolfheze Workshop-Plenary Meeting(Wolfhezeワークショップ総会)、BAnnual Meeting of Euro TB National Correspondents(Euro TB 関係者年次会議)。前者2つはオランダ王立結核予防会(KNCV)、後者はフランスに本部を置くEuro TBの主催である。自分は2つ目の会議から参加する予定であったが、1つ目の会議が午前中まで続いたので、運良く1つ目の会議の様子も知ることができた。

☆国家結核対策担当官会議☆
 
参加国48、参加者109名、うちオブザーバー2名(日本、米国)。この会はその名の通り結核対策のマネージャーが自国の結核対策について現状と問題を報告し、グループ討議を通して合意を確立していくことが目的で、今回のテーマは刑務所の結核、多剤耐性結核、薬剤耐性サーベイランス、感染と薬剤耐性対策、検査室のQC(精度管理)、結核対策の管理と予算、モニタリングシステム等と多岐にわたっていた。4カ国から報告があったが、基本的にはDOTSをどのように拡大してきたかという内容であった。その後WHO Euro代表がDOTS拡大プランを報告、今後lO年、2012年までに未治療多剤耐性結核を1%以下にする、DOTSカバー率を37%(2003年)、90%(2006年)に拡大する、またヨーロッパ51カ国のうち東ヨーロッパの16の高まん延国では罹患率の上昇が危機的状況にあり,その16カ国の罹患率(2000年に人口lO万対90)を1990年(人口10万対40)のレベル(半減)に下げる,という目標を確認した。

☆Wolfhezeワークショップ総会☆
 
今年のテーマはTB/HIV Control in Europeで、まず「アフリカから学ぶこと」と題してタンザニアからの報告を受け、「ヨーロッパではつい最近までHIV/AIDSは対岸の火事(アフリカの問題)と思われていたが、特に東ヨーロッパでは98年から急増している」と危機感を共有した。その後、1.サーベイランスと診断、2.HIV/TBの患者管理、3.予防、4.結核とエイズ対策における協力関係、をテーマにグループ討議に入った。班長は目的に即したアクションプランにおいてコンセンサスを作るように求められていたが、どの班もコンセンサスを作るまでには至らなかったようであった。
 次に1,Development of an effective European active case-finding policy"をテーマに、IUATLDとKNCVの参加者が、特に低まん延国が結核制圧に向けて今必要な対策として、「患者発見、発病予防の意義」を講義形式で報告し、その後、エストニアから刑務所での患者発見、ロシアから住民を対象とした患者発見など活動報告がなされたが、西ヨーロッパでの積極的な患者発見方策の具体的な取り組みについての報告がなかったのは残念であった。また、このテーマでは潜在的結核感染者への発病予防は重要な課題であるが、質疑応答で、BCGカバー率が高い東ヨーロッパでは感染者の確認が困難であることが、問題として提起された。

☆Euro TB 関係者会講☆
 
参加国37、参加者56名。この会議は1日半の予定で開かれたが、私は1日目だけ参加して帰国した。国を越えてのサーベイランスシステムの確立は、まさにヨーロッパ連合のなせる技という感がある。サーベイランス情報の疫学的な分析はこれからというところであるが、情報収集、解析、フィードバックの努力には頭が下がる思いである(Euro TBホームページ http:〃www.eurotb.org参照)。今後は治療成績と薬剤感受性検査成績のモニタニングに力を入れようとしているが、治療成績では培養陽性患者の治療成績を重視していることが特徴で、塗抹陽性患者については国際比較のためという位置づけにしている。また治療成績の区分では、問題が提起されれぱその内容を数年で変更することもいとわず、常に良い評価方法を議論している姿勢はわが国でも学びたいところである。

☆おわりに☆
 ヨーロッパの結核問題は今や東ヨーロッパの問題でもあり、その中でもロシア語圏はいろいろな面で問題を抱え、その対策にWHOも西ヨーロッパ各国も多くの支援体制を敷いている。今回の会議でもロシア語圏への気の使いようは英一露同時通訳の提供、議事日程・調査用紙のロシア語版など随所に感じられた。3日間、森に囲まれたホテルに軟禁状態ではあったが、それ以上に刺激的でとても貴重な体験をしたという喜びのほうが勝っていた。最後に主催者であるKNCVのDr.Veenとそのスタッフに感謝いたします。
参考文献:Broekmans JF, et al: European framework for tuberculosis control and elimination in countries with a low incidence. Eur Respir J 2002; 19: 765-775.


会場となったBilderberg Hotel de Buunderkamp

4グループに分かれて行われた「Fairground workshop」。写真はドイツのDr.sagebiel が参加者全員の前で「国家結核対策とエイズタイsかうの協力体制について」討議グループの報告をしている光景。


updated 02/12/02