【背景】 日本、韓国、中国において、結核問題はま だまだ解決しておらず、それぞれの課題を抱 えている。その一方で、世界的にみて、結核 を研究する施設数は減少しており、東アジア 地区に位置する3国の研究所が協力すること は重要である。今回、互いの研究課題、研究 成果について情報・意見を交換し、この地区 の結核研究の推進に大いに資することを目的 として、2000年4月8日北京において、日本・韓 国・中国結核研究所学術会議が開催された。 韓国、日本からそれぞれ5名、中国からは北 京の結核研究所職員だけでなく、他の省から の参加もあり、全員で50名程度の会議であっ た。 【会議】 会議は2000年4月8日に丸一日集中して開かれた。 来賓として中国政府衛生部の疾病対策局次長、 北京市衛生局副局長が開会式でお祝いの言葉 を述べられ、政府が結核対策に力を入れてい ることを強調した。そのあと、各研究所の所 長が挨拶を述べ、研究発表が続いた。各国の 発表の主な内容は次の通りであった。 北京結核胸部腫瘍研究所は、病床数500 の病院を有し、結核患者と肺がん患者の入院 治療を行っている。同研究所は、(国の衛生 部には結核担当者が1人しかいないため)国 の結核対策を実質上運営・実施している。国 家結核対策、世界銀行・WHO プロジェクト、 第四次有病率調査、臨床研究として短期化学 療法の比較、気管支結核の診断・治療、結核 患者の心肺機能、基礎として、レファレンス 検査室機能、Mycobacterium avium のpnc B 遺伝子の研究について発表された。その他、 肺がんに関する研究発表も多かった。 中国は1991年から約半数の省で世界銀 行・WHOのプロジェクトが始まり、 2001年まで実施される予定である。この プロジェクトでは、村の医師に治療完了時に 報奨金を払っており、治癒率90%以上と高い 治癒率を達成している。また、現在、全国有 病率調査を準備しており、前回90年よりもさ らに有病率が下がっていることが期待されて いる。 韓国結核研究所の報告は、高校での集団感 染の事例、多剤耐性菌結核の治療、BCG製 造技術の改善方法、結核サーベイランスシス テムのコンピューター化の案などが紹介され た。韓国では、罹患率は高いが確実に下がっ てきている。今後、日本と同様にコンピュー ターを利用した患者サーベイランスを今年か ら開始しようとしている。ただし、民間医療 機関からの登録の不備など、まだまだ困難が 予想される。従って、ただコンピューターの 入力・分析方法の開発や、単なるデータ収集 システムの確立だけでなく、どのように情報 を病院から収集できるか、また、間違いなく、 もれなく収集できるかを検討する必要がある。 日本の結核研究所の発表は、森所長が日本 の結核対策の傾向と課題の概論、外川事務部 長が結核予防会と結核研究所の沿革と組織、 機能の概要、阿部基礎研究部長が97年の国立 療養所の耐性菌サーベイランスで初回耐性率 が増加したという結果を発表した。和田疫学 研究部長がピラジナミドを使用した短期化学 療法の効果及び副作用の出現率、筆者が国際 協力の内容、JICAプロジェクト、国際研 修、タイにおけるHIV結核合併症の研究と 国内の研修活動を紹介した。 【今後の方針】 今回は初めての会議であり、お互いの主な 研究内容の紹介という意味合いが強かった。 これを機会に毎年、3研究所が持ち回りで、 会議を開催することが提案された。疫学、臨 床、基礎それぞれの分野で共同研究が実施さ れれば、互いに良い刺激となり、非常に有意 義だと思われる。 |