ストップ結核作戦ニュースNo.2

結核研究所副所長 石川信克

 9月19〜20日、スペインのマドリードにてWHO主催による「ストップTBイニシアティブ」会議が開かれました。これは、当地で開かれた第30回IUATLD(国際結核肺疾患予防連合)世界会議に引き続き持たれたものです。ストップTBイニシアティブとは日本語にしにくいのですが、「世界結核制圧作戦」とでも言うのでしょうか、さし当たり「ストップ結核作戦」と言っておきます(どなたか良い言い方があったら教えて下さい)。

WHOの新しい体制と結核対策

 昨年ブルントラント女史がWHO事務局長に就任して新体制がスタートしてから、従来のGTBと呼ばれる結核対策部が解消され、ヘイマン局長を頭にした感染症対策部門(CDS)の下の様々な課の中に機能が分割されました。しかし外部から見て「結核対策という窓口が消えてしまった」印象がありました。地域事務局との連絡、またドナーや関係団体との連携がやりにくいという声も上がってきました。それらの経過を経て、今年の9月にようやく、WHOの結核関係の窓口として、ストップ結核作戦がCDSの特別プログラムとして編成され、古知新博士がその責任者になりました。WHO新体制下でもGTBが築いた流れを継承する強いリーダーが求められていたわけで、古知先生の活躍が再び期待されています。

ストップ結核作戦

 DOTSは今後各地域でますます拡大、強化、維持される必要があります、そのためにストップ結核作戦が打ち出されたと言えますが、その目的と機能を一言で言うなら、世界の結核制圧事業の企画を行い、調整役・機関として様々な力を結集することと言えます。キーワードはパートナーシップの強化で、活動は、世界規模、地域規模、国単位とそれぞれの実践の強化が必要です。


従来の結核事業(DOTS作戦)の成果

1991

1997
DOTS実施国

10

110

DOTS下の結核患者

1%

16%

患者1人平均薬価

$40〜60

$10〜20

WHO以外の結核対策
援助費(百万)

$16

$100

結核研究費(百万)

$10〜20

>$100

WHO結核部(GTB)からストップ結核へ

○技術支援から政治支援へ

○保健部門からより広範囲の部門へ

○研究の強化:基礎と応用両部門

○多くのパートナーとの共同

○資金調達の拡大


さし当たりの計画

 世界規模の計画としては、今年11月に作業計画の基礎を作成、12月に抗結核薬基金の計画書作成、2000年1月にWHO理事会で、ストップ結核作戦を取り上げます。さらにロックフェラー財団主催の新薬開発会議、ワシントンで戦略諮問会議、3月にはオランダの主催によりアムステルダムで結核と開発に関する結核高負担国大臣会議を開催します。オランダ結核予防会の主導で「結核撲滅国際憲章」作成の動きも進んでいます。

 WHO西太平洋地域では2000年2月に日本政府の協力で、結核対策課長会議が開催されます。

 内容別では、広報・連絡の強化のために、メディアの動員や共通メッセージの作成、組織間の連携が必要です。政治的戦略の強化として、政治的な有名人の参加が企画され、前記の大臣会議には、マンデラ前南アフリカ大統領、ヒラリー・クリントン米大統領夫人などが招待されています。

ストップ結核作戦の目的

○効果的で持続可能な結核対策の開発

○DOTS戦略の様々な要素、地域、実践上の補強と研究強化

○効果的保健サービスと持続可能な開発への寄与

ストップ結核作戦の内容
@ WHO内部及び外部の公的私的機関との共同・協力(partnership)の強化と研究・開発・国別対策の協力的継続的実践
A WHO及び協力機関に必要な共同活動計画の作成、その経過や成果の評価
B 国際的なアドボカシーと連携・連絡の強化
C 世界共同事業計画のための資金調達




パートナーは何ができるか?

 パートナーとしては、国連機関のユニセフやUNAIDS、世界銀行、米国のCDC(疾病対策センター)など規模の大きな団体もありますが、IUATLD、オランダ予防会をはじめとして様々な民間機関も関与しています。内容は資金提供、技術提供などですが、同じ場に座るという心構えが大切と思われます。今後パートナーの拡大に伴い、役割を明確にして行く必要がありましょう。

 日本の結核予防会や結核研究所も、積極的に参加して行くための準備が始まりました。今まで様々な分野で行ってきた活動を、ストップ結核作戦の名の下で位置づけ、世界の結核制圧運動に参加する必要があります。また、その中で今まで日本がやってきたことが正当に認められたり、調整や軌道修正が必要な分野も出てくるで しょう。あえて私見を述べるなら、今後日本政府に働きかけて、現在世界的には6番目である結核分野の国際援助資金を増やす必要もあるでしょう。またシール募金などをさらに拡大して、予防会として世界的な運動の一端を担って行く必要があると思われます。


Updated 00/01/15