IUATLD世界会議inスペイン

1998年9月14日〜18日/マドリード


八王子保健所保健サービス課
保健指導担当係長 峰村純子



 広大な土色の原野を眼下に見下ろし、ラマンチャの男の世界を思い浮かべながら降り立ったマドリードは、近代的な施設と歴史が混在した緑多き美しい都であった。スタジアムの近くのパラシオ・デ・コングレソスで9月14日から18日まで、IUATLD世界会議(正式には「第30回国際結核肺疾患予防連合 肺の健康世界会議」と称す)が開催された。世界中から1330人が集まり、日本からも14人が参加した。

 これまでこの世界会議は4年に1度開催されていたが、今年から毎年行われることになった(1998年バンコクで開催、次回は2000年のフィレンツェの予定)。また、ラテンアメリカからの参加を奨励すべく、スペイン語が公用語として使え、諸経費の点でもヨーロッパとしては経済的なスペインで行うことになったと聞く。そのため全体集会はすべて英語とスペイン語の同時通訳付きであった。

フラメンコ付き開会式

 開会式では特別講演のほかにツツ司教(南アフリカの民族指導者、ノーベル平和賞受賞者)のビデオ映像による演説が行われた。司教自身も結核を患った経験がある由、結核対策の重要性を説く演説は、聞く人に訴えるものがあった。同時にこのような「偉大なパーソナリティー」を担ぎ出すアドボカシーの技法にも感じ入るところがあった。続いてアトラクションに入り、「音楽と結核」という構成でプロ、アマ(スペインの医学関係者)の芸術家が一流の演奏を披露した。最後はフラメンコで締めくくったが、なんともスペインらしい醍醐味を味わうことができた。

シンポジウムなど

 この学会は結核以外にも肺疾患、特にたばこ問題、喘息、小児急性呼吸器感染症なども扱っているが、結核に関するシンポジウムとしては以下のようなものが開かれた。結核とHIV、刑務所及び不遇者における結核問題、結核の血清診断の将来、中等度収入国の結核対策、抗結核薬の臨床前開発(広島の齋藤名誉教授が発言)、野生動物の結核、結核対策に対する医療改革の影響、結核疫学における分子的方法の応用(結研森所長)、結核に関する研修(同石川副所長)。

 また、全体講演ではWHOの古知先生が「結核対策の新しい方向性」について、新しい指導体制下でのWHOの政策を解説し、カ強い抱負を述べた。

一般演題ポスター

 ポスターを中心とする一般演題は約1300もあり、日本からは、ポスターディスカッション2題の発表があった。

 一つは複十字病院薬剤師清田氏の「結核病棟における服薬指導の効果」である。病棟における患者への直接的服薬指導の大切さと、その実践が語られた。筆者は「多剤耐性結核の集団発生における保健婦の役割」と題し、集団感染発生事例への取り組みの中で、保健婦としての関わりの意義を考察したところを発表した。大勢の参加者とのディスカッションでは、保健婦のコーディネート機能と、多剤耐性結核を予防するための公衆衛生活動の重要性を評価してもらうことができた。各国の看護婦・保健婦が世界的な視野で結核対策について熱心に討論し合う様子は、パワフルで積極的であった。日本でも本年、結核病学会に「保健看護部会」が設置され、活動を開始したところである。この部会から今後どんどん本学会のような世界の舞台に参加する人が出てくることを期待したい。

ナースの卒後コース

 筆者が参加したナース卒後研修コース(希望者だけに行うテーマ別講習会)では、接触者調査とその重要性について具体的レクチャーがあった。その後テーマ別グループに分かれ、演習に入る。筆者はDNA指紋分析のテーマを選んだ。オランダは全国的に指紋分析を実施しており、全土で6人の同一菌株のケースが発生した。その接触状況について各グループに1枚ずつの患者情報が与えられ、ほかのグループとそれぞれの接触状況を検討し、感染ルートや感染源検索をするという演習である。各国のナースが入り乱れ、推理が進みわいわいとにぎやかな演習であった。筆者自身もこのような作業を経験したことがあるが、筆者が一つの保健所で実施したことを、オランダでは組織的に国を挙げて取り組んでいることを知った。

 直接面接による接触者調査と結核菌指紋分析は、結核対策の二つの大きな科学的武器であると、オランダのセベック保健婦(数年前結研に招待されて来日)が最終日にも発表し、その実践に会場から大きな反響を呼んでいた。日本においても沖縄では結核研究所の協力の下に、全県下の患者の結核菌を指紋分析しており、今後発展していくことが期待される。また、日常的に実践している活動が改めて結核対策において大切なことであると意識された。

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 ポスターディスプレイでは、世界中の人々が集まり、活発に議論をしている様子がそこここで見られ、結核が世界の大問題であること、結核に情熱をもって取り組んでいる人たちが多勢いること、世界中の仲間と連帯して活動していく必要があることが感じられた。

 結核の罹患率が先進国の中では極めて高く、38年ぶりの患者発生数の増加となり、緊急事態宣言の出た日本――。しかし私たちの持っている結核対策のシステムはすばらしく、世界に誇るべきものであるということも大会に参加して分かったことである。今後は私たち結核対策に関わる一人一人がいかに心を込め、その対策を実践していくかにかかっているのではないかと思われた。

 また、会場で森所長や石川副所長、須知先生の周りに、常に各国の若き結核担当者が集まっている様子を目にし、結核対策において日本が国際的に教育的な役割を果たしてきた歴史と夢が感じられた。


Updated 00/01/15