結核患者発生率43年ぶり上昇!
1997年に結核によって新たに登録された者の数は42,715人で、人口10万対にして33.9、これは前年1996年の42,472人、33.7に比してともにわずかながら増加している。この増加は70歳以上の年齢階級で13,483人から14,704人と大幅に増加したことによっている。同時に、結核感染源として重要な「菌塗抹陽性肺結核」の新登録率(罹患率)も1996年の11.9から1997年の12.7へと明らかに増加し、これは40〜49歳を除くすべての年齢階級でみられた。
このような結核罹患率がわずかの幅とはいえ上昇するのは、1954年(昭和29年)以来43年ぶりのことである。上昇幅が小さいので、これは偶然変動によるものかもしれない。しかし、高齢者でみられた増加のかなりな部分が菌塗抹陽性結核患者の増加によること、菌塗抹陽性結核患者の増加はほとんどすべての年齢階級でおこっていることなどから、日本の結核発生は逆転上昇に転じた、あるいは少なくともこれまでよりも減り方がさらに減速した、と見るべきであろう。この傾向については、今後十分注意深く見守っていく必要がある。
この新しい傾向の原因としては、長寿世界一の陰で余病をもった老人人口が増加したことによって結核発病が促進される、その老人患者から周囲の中年、若年者が感染し発病する、医療における結核診断の遅れがこれをさらに助長するといったこと、このような過程がここにきて加速されたのではないかと考えられる。同時に健康管理の機会に恵まれない社会経済的弱者での結核発生が一段と進んだ可能性についても考えなければならない。
このような問題への対応については、先の公衆衛生審議会結核予防部会の緊急提言、それを受けた厚生省の平成11年の事業計画(案)に見られる中高年の結核発病予防対策(ハイリスク者への予防内服)をはじめとして、地域における結核対策の促進、さらに事業所・施設等での患者接触者検診実施の徹底、結核検診が不徹底な職場での検診の促進などから対策として有効と考えられるので、今後の結核対策はこのような事業の実効があがるように努力すべきである。同時にこのような傾向のより精密な疫学的分析と対応策のための研究が今後さらに必要である。
結核研究所所長 森 亨