結核研究所国際協力部企画調査科長 山田 紀男 |
2004年3月31日〜4月2日/ジュネーブ
2004年のTSRUは,3月31日から4月2日まで,ジュネーブのWHO本部で行われました。日本人参加者は,ちば県民保健予防財団(結核予防会千葉県支部)の小野崎氏,結核研究所の大森氏,筆者,そしてオランダの結核予防会結核研究所(KNCV)にDNAフィンガープリントデータベース解析の研究で滞在していた結核研究所内村氏の4名でした。
過去2回は,ベトナム(2002年4月),タンザニア(2003年4月)と続けて結核高まん延国で開催され,高まん延国での結核対策を中心とした演題が多かったのですが,今回はヨーロッパで開催されたことからヨーロッパからの参加者も多かったため,疫学研究の演題も多く,前回2回に比較すると過去のTSRUに近い部分があったのではないかと思われました。
セッションは4つのテーマセッションと1つの自由セッション(それ以外のテーマ)で構成されていました。テーマセッションは,1)DOTSの効果(患者発見率と治癒率),2)目標達成度の測定(結核有病率と死亡率),3)結核-HIV,4)多剤耐性菌の4つで,合計で29の演題がありました。
最初の「DOTSの効果(患者発見と治癒率)」のセッションで,大森氏は,日本の患者受診の遅れ・診断の遅れの経時推移性,さらに年齢及び職業別の分析を発表しました。この問題は,低まん延国におけるハイリスクグループと関係すると思われ,フロアから質問が多く出ました。このセクションでは小野崎氏が議長を務めましたが,ほかにWHO本部のダイ(C.Dye)氏からのWHO目標の達成状況と予測に関する演題などがありました。
2番目の結核有病率調査(調査の時点で診断治療の有無に関わらず結核に罹っている者の人口10万対の割合を明らかにする調査)関係に焦点を当てた「目標達成度の測定(有病率と死亡率)」のセッションで,小野崎氏と私は,カンボジアで2002年4月から12月まで実施されたカンボジア結核実態調査の結果を発表しました。小野崎氏は,この実態調査の方法論,実施状況,結果を発表しました。この調査の特徴として,胸部レントゲン写真を直接法で行い実施後すぐにその場で現像し判定するため,異常影を持つ参加者からの喀痰採取の取りこぼしが防げることが挙げられました。DOTS施設からの距離と塗抹陽性結核有病率の関係を見ると,DOTS施設に近いほど塗抹陽性結核有病率が低く,DOTSの効果と考えられることを発表しました。
最近まで結核有病率調査を定期的に実施しているのは韓国(1995年まで)で,その実施方法などの経験を,当研究所の国際研修コースの卒業生(1992年)の韓国結核予防会結核研究所(KIT)のリュー(W.J.Lew)氏が発表しました。別の演題では,結核有病率調査でレントゲンを撮ることが困難な場合に対応するために,全例喀痰検査をする方法論の検討が発表されました。
ツベルクリン調査に関しては,以前より指摘されている問題点として,ツベルクリン分布に明確な凹みがない場合にどのように陽性者の割合(既感染者の割合)を決めるかという問題があり,今回のカンボジア調査では明確な凹みがありませんでした。IUATLDの結核部ホームページ(http://www.tbrieder.org)にあるように,数学的なモデルを用いて既感染者の割合を推定するコンピュータソフトウェアを開発中です。しかし,その現時点でのソフトウェアは,カンボジアの結果には残念ながら適用性が低いと考えられ,今回は結核に感染している子供が塗抹陽性患者と同じツベルクリン分布を持つという仮定で結核既感染率を算出した暫定結果を,私が発表しました。
今回はひとつの意味で特別な会でした。故スティブロ(K.Styblo)氏のあとKNCV所長ブルックマン(J.F.Broekmans)氏が長くTSRUのコーディネーターの役割を担われてきましたが,今回を最後にコーディネーターをお辞めになることになりました。来年のTSRUは,同時期にパリで開催される予定です。