ニッポンの「たばこ政策」への提言 日米共同刊行記念フォーラム2003報告 |
結核予防会事業部普及課主任 市川 雄司
(たばこと健康問題NGO協議会事務局)
報告書“ニッポンの「たばこ政策」への提言”編集者チームの3名。 左からジョナサン・サメット氏,国立保健医療科学院望月氏, 東京女子医科大学山口氏。 |
平成15年11月17日(国際肺がん学会が定めた肺がん撲滅デー),国際研究交流会館内の国際会議場(東京都中央区国立がんセンター内)にて,標記フォーラムが約260名の参加の下開催された。
本フォーラムにおいては,“ニッポンの「たばこ政策」への提言”という報告書を作成するにあたっての経緯・内容の報告,アメリカ側の本報告書執筆者であるジョナサン・サメット氏による基調講演「科学から政策へ」の後,たばこ規制枠組条約(FCTC)の批准へ向けての課題等についてパネル討論を行った。
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日米の研究者が多数参加している報告書“ニッポンの「たばこ政策」への提言”の作成の経緯についてであるが,日本におけるたばこ規制枠組条約(FCTC)の合意,2003年5月より健康増進法の施行など,たばこ問題について議論される下地が遅ればせながら出来上がりつつある。
しかし,たばこへの健康影響については,以前より様々な研究で人体に悪影響を及ぼすことは明白であったが,そういった点が明らかになっても,日本における成人の喫煙率はあまり減っておらず,若い女性にいたっては,逆に増加している世代もある。
このことより,単にたばこが有害であることを訴えるのではたばこ対策は進まない,むしろ各国での対策に左右されている部分が大きいと考え,対策が進んでいる欧米各国のたばこ対策と日本のたばこ対策を比較し,提言という形で報告書(エクゼクティブサマリー)にまとめたのが今回の報告書である。
その内容については,69項目もの提言が盛り込まれ,多岐にわたっており,非常に意欲的なものとなっている。その中でも@価格政策(たばこの税額を1箱あたり最低100円以上上げる),Aたばこ対策のナショナルセンターの設置,B財務省が所管するたばこ事業法の見直し,の3点を大きな課題として掲げている。
なお,本報告書の完全版についてはホームページ(http://www.tobaccofree.jp)で申込みを受け付け,CD‐ROMにて配布する予定となっている。
たばこ規制枠組条約(FCTC)の批准へ向けての課題等についてパネル討論では,医学各界より5名のパネリストを招き,具体的な提言が発表され,活発な議論がなされた。
本条約は,昨年5月の第56回WHO総会において採択されたものであり,40カ国以上の批准で発効となるが,現在本条約に署名を行っているのは89カ国,その内,批准をしているのは7カ国である。日本は未だ署名も批准もしていない。
この中で長寿科学振興財団小林秀資理事長より,「条約の批准には国会議員への働きかけ(いわゆるアドボカシー)が重要であり,そのための説明資料・想定問答集を作るべきである。当然相手(たばこ業界)も用意しているので,それを論破するためには労を惜しんではいけない」との具体的な提言や,日本医師会坪井栄孝会長の「国のたばこ政策について国民への情報公開をいかに行うか(行わせるか),それができれば国民は必ず正しい判断をするはずで,そうなれば自ずと正しい道が開ける」といった希望を持てる意見も出て,医学各界も禁煙運動について積極的に進める意欲が見られる討論となった。
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たばこの規制については,財務省と厚生労働省との意見の相違もあり,一筋縄にはいかない部分もあるが,このたばこ規制枠組条約の合意を突破口にして,日本でも「たばこのない社会」の1日も早い実現が望まれる。