IUATLD世界会議報告
10月6日〜10日/モントリオール(カナダ)
カンボジア王国結核対策プロジェクト
チーフアドバイザー
結核予防会千葉県支部医監
小野崎 郁史
プノンペン結核センターでのエイズ患者の結核検診とDOTS成果報告のポスターの前で。左端が筆者。 |
カンボジア・プノンペンから、バンコク、パリを経由してカナダのモントリオールまでは24時間の旅。ちょうど12時間の時差、地球の裏側での世界会議にカンボジア代表団に同行し参加しました。プノンペンとモントリオールには、「フランス語・フランス文化」という意外な共通点があります。モントリオールは、パリに続くフランス語圏世界第2位の人口を持つ都市で、1972年のオリンピック開催で日本にもなじみのある街になりました。カンボジアはご存知のように旧仏領インドシナに属し、フランスのアジア植民地支配の最後の砦の1つでもありました。そんなこともあり、いつもは外国に出ると小さくなっているカンボジアチームが、なんとなく自信を持って街を歩いているように見えました。
さて、この会議、結核病学会総会と結核予防全国大会、事務局長連絡会議の世界版を1週間ですべて同時開催するものです。今回は、昨年来のテロによる旅行自粛の傾向もあり若干少なめでしたが、それでも110ヵ国から1,300人ほどの参加者がありました。多くの参加者は結核・その他肺疾患・たばこ問題などの専門家で、学術的な発表・意見の交換のためにやってきますが、DOTSの進展・結核制圧を中心とした各国の各種対策の現状を確認し、問題の事項について深く掘り下げる時間をとるというのが、通常の学会とはちょっと違った特色です。
今年の会議の大きな話題は、「エイズによる結核増加への対策」と「エイズ・結核・マラリア対策のための世界基金(Global
Fund - ATM)の結核対策への運用」でした。エイズにより爆発的な結核の増加が起きている途上国からは、”結核対策側のエイズへの懸念・関心が高いにも関わらず、資金も人材も豊富なエイズ対策側に結核制圧への関心が低すぎる”といった悲痛な叫びが聞かれました。”問題はいまや資金ではない。いかに働く人を見出し、育てるか、そしてどう行動するかだ”というのも共通の認識でした。
多剤耐性結核や最新の結核菌検査技術に関するセッションもスポットを浴びていました。”DOTSを強力に進めているカンボジアでは、多剤耐性菌問題が出ていない”という全国調査の結果を発表できたのは私たちの大きな成果でした。欧米やオーストラリアなど先進国からの参加も多く、結核が「国際問題」として捉えられてきたことを認識させられます。また、多剤耐性結核にせよ都市の結核問題にせよ、先進国・途上国を問わず各国が共通の課題を抱え、お互いにシェアし共に学べることが多いことを感じます。前述の”人材発掘・育成”の観点では、日本の今までの経験が十分に役に立つことを改めて感じさせられました。
会議の中で、第5回秩父宮妃記念結核予防世界賞の受賞者ピーター・マクマイケル・スモール氏(Dr. Peter McMichael Small、アメリカ合衆国・スタンフォード大学助教授、写真左)の表彰式が行われ、結核研究所森所長より表彰状が授与された。 |
美しい紅葉・おいしいワイン、世界中から集まった結核と戦う仲間との再会。明日からの仕事への決意をまた新たにする会議への参加でした。残念なのは、他の先進国に比べ日本からの参加者が少なかったことです。結核と戦う人たちが言葉のハンディを乗り越えて一堂に会する世界大会です。各県支部の皆さん、また各県での事業に参加なさってくださっている先生方のご参加を心よりお勧めしたく思います。なお会議は原則として毎年、パリとその他の都市とで隔年に開催されています。