第3回DOTS拡大作業部会会議報告 |
2002年10月5日〜6日/カナダ・モントリオール,ウィンダムホテル及び国際会議場 |
結核研究所国際協力部副部長 須知雅史 |
はじめに
2002年10月5日〜6日にカナダのモントリオールで開催された,第3回DOTS拡大作業部会会議に出席したので報告する。DOTS拡大作業部会は,ストップTBパートナーシップに設置された6つの作業部会の1つで,肺結核喀痰塗抹陽性初回治療患者の治癒率85%,2005年までにDOTS発見率70%という世界目標を達成するためにはいかにすべきかを協議,実践することを目的としている。今回は,前回のパリでの会議に続き3回目である。
初日は,22の結核高負担国(世界の推計患者数の80%を占める上位22カ国)に,近年高負担国を卒業したペルーを加えた国々の結核対策責任者,日本の結核予防会やオランダ王立結核予防会,米国CDCやIUATLD,そしてJICAプロジェクトなどパートナーの代表や,事務局としてWHO本部や地域事務局の関係者など,計100名余りが出席し,IUATLD世界大会の会場である国際会議場近くのホテルにて開催された。2日目は,会場を国際会議場に移し,学会出席者にも開放され150名以上の参加者で立ち見も出る盛況であった。
会議の概要
初日は,1)世界の結核対策とDOTS拡大に関し概観,2)特に結核高負担国について2005年の世界目標達成についての制約を明らかにし,その解決法と2003年の活動について協議,3)結核対策の財政状況を概観し,Global Fund to fight AIDS, TB and Malaria(GFATM,エイズ・結核・マラリア世界基金)への申請準備を含めた資金不足解消策を検討,4)改訂された世界DOTS拡大計画を検討することを目的として行われた。
まず全体会議で作業部会事務局(WHO)からの現状分析とGlobal Drug Facility(GDF,世界薬剤基金)やGFATMなど現在の世界的な動きに対する発表がなされ(一部後述),次いで2時間ほどのグループ討議と,1時間半ほどの発表が行われた。筆者は,DOTS拡大がかなり達成され,DOTS拡大後とDOTSの質が課題となっているカンボジア,フィリピン,南アフリカ,ベトナムのグループ討議の議長を務めた。これら4カ国の共通の課題として,良く訓練された人材の育成,質の高い検査室ネットワークの構築,モニタリング能力の向上,私的医療機関の取り込みなどが挙げられる。これらの課題は,我々が日頃から重要課題として技術協力に取り組んでいるものであり,今後さらにこの方向性の下で協力のあり方を考えていく必要があると感じた。
2日目は全体会議のみで,初日の目的の1),3)に加え,TB/HIV,Public-Private Mix(PPM,公的・私的医療機関の協力),DOTS Plus(薬剤耐性結核の対策)について報告された。初日の発表との重複や協議のまとめが多く,また,学会参加者に向けてDOTS拡大の現状や,GDFやGFATMといった新たな資源,TB/HIV,PPM,そしてDOTS Plusなどの新たな方向性について理解を得ようというものであった。全体に事務局側からの発表や報告が多く,DOTS拡大に向けてのそれぞれの国に焦点を当てた討議が少なく感じられた。会議後に行われた作業部会中心メンバーによる電話会議でも同様の指摘がなされ,次回では改善されることとなった。
DOTS拡大の現状
今回の様々な議論の基本は,1990年代以降,様々な努力が重ねられてきたDOTS拡大であるが,単なる地域(そこに居住する人口割合)の拡大だけでは世界目標であるDOTS発見率(DOTS地域からの患者発見率)70%に到達しないであろうという新たな局面を迎えたことである。
図1並びに図2は,WHOのDr Christopher Dyeが会議に際し提示したものであるが,図1はDOTS発見率並びに患者発見率(DOTS,非DOTS地域を含めた全体の患者発見率)の推移を示している。緩慢ではあるが増加しているように見られるDOTS発見率(下側,2013年に70%の世界目標に到達)であるが,全体の患者発見率(上側)を見ると40%前後で横ばいになっており,このまま順調にDOTS地域を拡大していっても42%前後で頭打ちになると彼は推測している。これは図2に示すように,2000年から2001年にかけてのDOTS地域における届出患者数の増加(横軸)と非DOTS地域における増加(縦軸)との関係を見ると,DOTS地域での患者発見の増加が多い国ほど,非DOTS地域の患者発見が減少しており,つまりDOTS地域での患者発見の増加は,非DOTS地域で発見されたであろう患者の取り込み(別の言葉で言えば,患者が発見された地域の看板の付け替え)にほかならないことを示している(この現象は,2000年のWHO報告から指摘されはじめたが,その時点ではDOTS地域からの患者発見の増加が加速されたことの方が強調され,その増加を維持すれば2005年に目標を達成可能と示唆された)。
図1 DOTS 発見率並びに患者発見率(DOTS ,非DOTS 地域を含めた全体の患者発見率)の推移 |
(Source:Presentation by Dr Christopher Dye,WHO at 3rd DEWG meeting) |
図2 2000 年から2001 年にかけてのDOTS 地域における届出患者数の増加(横軸)と非DOTS 地域における増加(縦軸)との関係 |
(Source:Presentation by Dr Christopher Dye,WHO at 3rd DEWG meeting) |
つまり,1)現状での患者発見の増加では,70%の目標達成は2013年以降になる,2)しかし,これまでの地域的な拡大のみでは,100%のDOTS普及を達成したとしても患者発見の目標には達しない,3)よって,高い治癒率を確保しつつ新たな患者発見の努力が必要という結論になる。
今後の方向性
2000年に登録された肺結核喀痰塗抹陽性初回治療患者の治療成功率84%を見ても,DOTS戦略は効果的な結核対策であることは間違いない。しかし,今回の会議,あるいはAn expanded DOTS framework for effective tuberculosis control(Int J Tuberc Lung Dis 2002.6(5):378-88.)(2002年6月に発表された「効果的結核対策のための拡大DOTSの枠組み」)でも示されているように,高い治癒率を維持することが大前提であるが,DOTS地域の拡大とさらなる患者発見の強化が求められている。2001年の結核高負担国におけるDOTSカバー率(DOTS戦略がカバーしている地域に居住する人口割合)は60%であるので,この地域の拡大がまず求められ,GFATMによる資金の投入やGDFによる抗結核薬の供給,人的資源の開発,国レベルでのパートナーシップの強化,検査室ネットワーク構築のためのサブグループの設置など,DOTS拡大のための努力が強調された。さらに,現在,政府の保健所網を中心に展開されているDOTSに加え,公立病院や軍病院など他の公的医療機関,私立病院や開業医などの私的医療機関,そしてNGO関連の医療機関などへの拡大,さらに,より地域に浸透したサービスの展開が強調されることとなった。今後は,地域住民が遍くDOTS戦略の恩恵を受けることができるよう,地域に存在するすべての医療機関に対しDOTS戦略を拡大していくという,新たな努力が必要である。
Updated03/05/12