和歌山県結核対策検討委員会
〜診査機能強化と3カ月承認〜
岡澤利彦 | |
○岡澤利彦(和歌山県福祉保健部健康対策課) ○長谷孝夫(和歌山県福祉保健部健康対策課) ○内田史(和歌山県海南保健所) ○黒田恵美(和歌山市保健所) ○笠松美恵(和歌山市保健所西保健センター) |
はじめに
この事業は,平成12年度より3年間を目途に,和歌山県(7保健所1支所)と中核市である和歌山市(1保健所)が共同で,結核予防会結核研究所,複十字病院及び県医師会並びに国立療養所和歌山病院の協力・支援を得て実施している事業です。
【目 的】
この事業の目的は,1)県内医療機関の結核診断の精度向上を図ること。2)県下各結核診査協議会(県4カ所,市1カ所)の診査機能の強化を図ること。の2点です。
【背 景】
平成11年における和歌山県の結核罹患率は43.6と,全国ワースト3位の状況でした。特に,年齢階級別罹患率をみると60歳代で81.9,70歳以上で167.1と,全国平均に比して非常に高い状態です。一方,年齢階級別喀痰塗抹陽性罹患率のそれをみると,全国平均と比して差異がありませんでした(図を参照)。
図 年齢階級別罹患率及び塗抹陽性罹患率全国比較
このことは,医療機関の結核症に対する診断精度に検討の余地があることを疑わせました。そして,これら症例が結核診査協議会において,ほとんど問題なく承認されていることに対する問題点もあると思われました。
結核診査協議会の診査精度について
【平成12年度検討手法】
そこで,平成12年度は,結核対策特別促進事業として,次のような手法で症例検討を行いました。
1.結核研究所所属医師2名,国立療養所和歌山病院院長,和歌山県医師会理事,各結核診査協議会代表5名ほか,12名からなる和歌山県結核対策検討委員会を設置する。
2.各保健所において,平成12年度事業については,平成12年4〜6月の3カ月間に新規登録された肺結核患者全症例について,登録後2〜4カ月の時点での患者の背景・菌検査結果等について調査票を作成する。
3.これら全症例について,結核予防会所属医師2名の協力を得て,特に検討を要する症例を選択する。
4.これら症例について,主治医の参加も求めて検討委員会を開催し,診断根拠等について症例検討を行う。
5.検討結果を分析・評価し,医療機関・結核診査協議会に還元する。
【平成12年度検討結果】
平成12年度結核対策検討委員会における症例検討の結果は次のとおりとなりました。
1.対象:和歌山県下9保健所管内 73症例
2.「症例検討を要する」となった症例 22症例 (30.1%)
3.うち,「肺結核と確定診断できない」とされた症例:陳旧性の結核,肺がん,肺真菌症,非定型抗酸菌症等他疾患も疑われる症例16症例 (21.9%)
なお,確定できないとされた主な理由は,次のとおりでした。
○画像情報不足のまま診査している症例 7症例(44%)
○菌検査情報不足のまま診査している症例 4症例(25%)
○画像及び菌検査情報不足のまま診査している症例 1症例(6%)
○その他診査不十分な症例 4症例(25%)
【診査ガイドラインなどの試験的導入】
上記のような症例検討の結果を受け,当結核対策検討委員会において,和歌山県下の結核診査協議会に係る問題点と改善策(参考資料1)をとりまとめました。
併せて,平成13年度より,和歌山県下8保健所1支所,5結核診査協議会において,下記の診査ガイド等を試験的に導入することを決定しました。
・参考資料2:保健所における事前の形式審査基準
・参考資料3:和歌山県結核診査協議会における肺結核初回申請(初回治療)のガイドライン
3カ月承認について
【平成13年度結核診査協議会肺結核初回申請診査状況】
平成13年度における,県下の5結核診査協議会の肺結核初回申請の診査状況は下表のとおりです。
【まとめ】
診査ガイドライン等の導入により,菌情報重視による感染性の有・無や他疾患との鑑別診査の強化及び,結核が疑われるが診断根拠に乏しい症例に対する3カ月承認を行い病状経過を観察するというシステムにより,結核診査協議会の診査機能が強化され,当初肺結核と承認された症例のうち,12症例について,肺結核と非定型抗酸菌症,肺真菌症や肺がん等他疾患との鑑別がされています。また4症例について,非感染性の結核であったことで,命令入所の3カ月での打ち切りが確認されています。
このことは,結核を発病していない方に対して結核と診断し,抗結核薬を長期に服用させることを結核診査協議会,保健所,県・市が承認すること。非感染性の患者に対して,従業禁止・入所命令を命じること。この2点を防ぐという意味で機能したものと考えています。
平成14年度は,初回申請に対する診査ガイドライン充実とあわせて,肺結核治療の継続・終了の診査ガイドライン作りを計画しています。
また,今回,初回申請に対する診査ガイドライン等を試行する課程で生じた課題として,1)医療機関等に対して診査協議会や保健所が難しくなったとの印象を与えることから,患者発生届出等を行わず,結核治療するといった結核治療の潜在化を起こさせないための対策。2)主治医や医療機関等に対して,結核診断・診査を分かりやすくするための,診査ガイドラインや事前の形式審査基準の公表・広報。3)安易な結核治療の中断を認めないために,3カ月承認となった症例に対する指導・追跡等の対策が,併せて必要と考えています。
Updated02/10/18