都市と健康:結核対策サミット報告
2002年2月20日/大阪国際会議場

結核研究所国際協力部副部長 須知 雅史

 2002年2月20日、大阪市において「都市と健康:結核対策サミット」が厚生労働省、WHO健康開発総合研究センター(WKC)主催、WHO西太平洋地域事務局、大阪府、大阪市、堺市、東大阪市、結核予防会の後援で開催された。この会議は、結核対策に積極的な取り組みを進めている国内外の都市の首長・保健指導者を招聘し、専門家の適切な情報を得ながら、対話強化による相互の啓発を通じて効果的な対策推進の手がかりをつかみ、よりハイレベルな政治的リーダーシップによって効果的に結核対策を推進することを主たる目的とした。
 米国のアトランタ、サンフランシスコ、タイのバンコク、フィリピンのセブ、スリランカのコロンボ、ニュージーランドのダニーデン、ベトナムのハノイ、ホーチミン、インドネシアのジャカルタ、ネパールのカトマンズ、ジャナカプール、中国の天津、ブラジルのサンパウロ、シンガポール、カナダのミシソガの海外12カ国15都市、大阪府並びに大阪・川崎・京都・神戸・堺・仙台・名古屋・東大阪・広島市の国内1府9市の市長など政策決定者及び専門家が参加した。これに先立って開催された第3回WHO西太平洋地域結核対策諮問会議の参加者も多く出席した。
 会議全体は3部で構成され、午前中は第1部「都市の健康問題として結核を考える」としてWKC川口雄次所長と結核研究所森亨所長の基調講演、各都市の概要紹介、大阪市感染症対策室坂上賀洋室長の事例報告が行われた。午後には第2部「効果的な都市の結核対策を考える」と題して、WHO本部結核戦略・運用部門マリオ・ラビリオーネ調整官の講演、米国サンフランシスコ市公衆衛生局結核対策課ロイス・マサエ・カワムラ課長とタイのバンコク首都圏プラファン・キティスン副知事らの事例報告が行われた。最後に第3部では、「都市の新しい結核対策に向けての大阪宣言」が、今会議での意見交換を通して、参加者の共通認識として取りまとめられた。この共通認識を基に今後のわが国、各地域での結核対策の推進が期待される。


都市の新しい結核対策に向けての大阪宣言(仮訳)
※英文を原本とし、不整合がある場合は英文を優先のこと


 都市と健康:結核対策サミットは、平成14 年2月20日に、日本国厚生労働省と世界保健機関健康開発総合研究センターの共催により大阪市において開催され、25都市から37名の市長、代理者および専門家が参加し真摯な意見交換がなされた。その結果、以下の共通の認識に至ったので、ここに大阪宣言を発し、関係方面と協力の上、結核対策の前進を図っていくことを誓い合うものである。

(現状認識)
1 結核は、世界が直面する大きな健康問題であると共に、経済社会発展を阻害する因子であり世界各地で様々な取り組みがされている。その結果、結核対策に大きな進捗が見られた国や地域がある一方、罹患率の減少率の鈍化、多剤耐性菌の出現、HIV感染との合併例の増加、都市部に於ける結核の再興など、対策の見直しの必要性が認識されるようになっている。

(提言:都市政策の中における感染症対策)
2 世界人口は都市化・高齢化また流動化を続けており、我々、都市政策の決定にあたるものは新しい挑戦に直面していると認識すべきである。従来効果を上げてきた感染症対策も、都市における政策課題・貧困対策・政策展開の観点から見直され、強化されなければならない。

(提言:感染症対策における結核の重要性)
3 結核は、その膨大な患者数のみならず空気感染をする疾病としての特性の他、多くのセクターの参加を得て社会全体で取り組む必要性や、更に多くの公衆衛生事業の基盤をなすという対策上の重要性を持つ。したがって、対策の推進に当たっては、それらの特性に応じた特別な配慮とそれを持続的に可能とする政治的支援が与えられるべきである。

(提言:都市における結核対策展開上の具体策)
4 都市における結核対策の充実に向けては以下の対策が真剣に考慮されねばならない。
 (1)DOTSの広範な適応による治療成功率の向上
 (2)公衆衛生上の問題となる患者の早期発見
 (3)患者を中心とした良質な結核医療の提供
 (4)人権にも配慮した適切なまん延防止措置
 (5)対策実施に向けた公的なリーダーシップの強化と実施へ民間・NGO・住民組織の参加

(提言:都市間の連携)
5 これらの対策は、新たな公共政策の領域を開くものであり、都市は協力して情報の共有をはかるべきである。





updated 02/06/28