国際会議 in 大阪
中まん延国の問題が焦点に
第3回WHO西太平洋地域結核対策諮問会議報告

2002年2月17日〜19日/大阪国際会議場 前結核研究所国際協力部長 下内 昭



●背景●
 2002年2月17〜19日、大阪市で第3回WHO西太平洋地域結核対策諮問会議が開催され、厚生労働省、結核予防会も共催した。そもそも、本会議は99年に世界でストップTB プロジェクトが開始されてから、WHO西太平洋地域でもDOTSを推進するために設立されたものである。この会議は、西太平洋地域各国の結核担当官、結核及び公衆衛生の専門家、国際援助機関、そしてWHOが参加し地域の結核問題を分析して、今後の計画や方向性を議論する場である。

●目的●
 今回の会議の最大の目的は(1)地域の結核中まん延国7カ国(マレーシア、ブルネイ、香港、マカオ、シンガポール、日本、韓国)の問題、特になぜ結核罹患率減少の鈍化が起きているかの分析と対策の検討であり、その他、(2)結核高まん延国7カ国であるカンボジア、中国、ラオス、モンゴル、パプアニューギニア、フィリピン、ベトナムの5年計画の実施進捗状況を確認することと、(3)国際援助機関との協力方法を議論し、さらにストップTBを推進するための連携方法を提言することであった。

●参加機関・参加者●
 WHO西太平洋地域の会議であるが、専門家も国際結核肺疾患予防連合(IUATLD)の代表、オランダ結核予防会長、米国疾病対策予防センター(CDC)と世界的に活躍している人材を含み、また、WHOスタッフもジュネーブ本部から参加しており、客観的な議論ができるように努力がなされていた。国際援助機関としては、オーストラリア、カナダ、ベルギー、スペイン、ドイツ、そして日本(国際協力事業団、JICA)から政府機関及び民間機関が参加し、総勢70余名であった。結核予防会からは結核研究所森所長が専門家会議議長、その他9名が助言者及び事務局スタッフとして出席した。

●議事●
 1日目は、世界の結核問題、地域の結核対策の進捗状況の発表、中まん延国における結核問題の疫学的分析、そして、高まん延国の状況に関するポスター発表及びその討議が持たれた。2日目は高まん延国と中まん延国の2グループに分かれ、前者ではDOTS推進方法の討議、後者では結核対策についてトピックごとの議論がなされた。また、援助機関同士の打ち合わせも行われた。そして3日目は討議のまとめと、結論及び提言の発表を行った。

●専門家会議の結論及び提言●
1 結核対策の状況と進捗状況に関して
 地域内の強い連携によって達成されているストップTBプロジェクトのこれまでの進捗状況を評価するが、今後の活動計画を実施するにはさらに財政的支援が必要である。したがって、WHO西太平洋地域事務局が2002〜03年の事業計画を効果的に実施するために最大の努力をするよう助言した。

2 中まん延国の状況に関して
結論:(1)韓国以外では、どの中まん延国も罹患率減少が鈍化している。(2)罹患率減少鈍化の要因については人口高齢化以外では、各国で感染危険要因が異なっている。(3)どの国も治療結果が制度的に得られていない。また、結核情報の質も国ごとに大きな差があるが、現在得られている情報をさらに分析する必要がある。
各国に対する提言:(1)罹患率減少鈍化の要因をさらに研究・分析すべきである。(2)登録患者治療結果のコホート検討を強化し、その傾向を観察して対策を改善できるようにすべきである。(3)培養も含めて、菌検査データが信頼できるのであれば、それらを利用して患者登録の確認や改善に用いるべきである。(4)国の結核対策を評価する際には、移民や在留外国人のデータも含めるべきである。(5)サーベイランスや各事業を見直して、罹患率減少鈍化が改善するように、効果的な戦術や事業を検討し実施すべきである。(6)BCG再接種事業を見直し、適切な対策をとるべきである。

3 高まん延国の状況に関して
(1)5年計画の作成と同時にDOTS拡大は着実に進んでいるが、さらに一層の政府及び国際援助機関の支援が必要である。(2)個別の問題としては、パプアニューギニアで患者登録数が4倍になったこと、カンボジア、中国、ラオスでの患者発見率が低いことが懸念される。(3)対策推進の障害となるのは、抗結核剤のための予算の不足、行政組織各レベルでの事業実施、プログラム管理のための人材不足である。

4 結核/HIVに関して
 地域として、結核対策とHIV対策の連携方法の確立を目指す指針を早急に出す予定である。

●感想●
 従来はWHO西太平洋地域では、結核問題は高まん延国対策に専念している感があり、日本としても援助する側であったが、今回日本も含む中まん延国の問題が取り上げられ、日本の状況及び対策も議論の俎上に上がったわけで、事務局として参加した結核研究所の職員としてもいささか緊張した。特にシンガポールや香港の罹患率は日本よりも高い状況であるが、既に減少の鈍化が見られており、日本の状況と比較することにより、日本の解決方法も多角的に考察できそうで非常に有意義な会議であった。



updated 02/06/28