第2回中国・韓国・日本結核研究所学術交流会議

結核研究所学術交流会議

5月24日/ソウル

結核研究所基礎研究部細菌学科長 高橋 光良

学術交流会議集合写真

目的
 本会議は,結核患者の約3分の2が東南アジアに存在している現在,なかでも東アジアに位置する中国・韓国・日本の3国が,「結核撲滅」という共通のスローガンの下で,結核対策及びそれに従事する専門家のトレーニングを中心とした活動を通じて学術交流を深め,個々の研究活動に反映させ,かつ人的交流を深めるために実施しているものである。この3国は,結核のまん延状況に共通点が多く,結核低まん延国と比較しても結核対策や精度管理上必要な情報を多く共有していることから,その研究課題上での意見交換は大いに役立つと期待される。昨年第1回の本会議が中国で開催され,今年は韓国ソウルで第2回が行われた。

学術会議は,当初関係テーマ別に分けて討論時間を有効に利用する予定でいたが,演題数とテーマの折り合いがつかず約40名での合同会議となった。大韓結核協会(KNTA)のDr.Y.P.Hong,米国CDC/NIHのDr.M.S.Kimから開催の祝辞が述べられ,3国の結核研究のさらなる協力体制の強化が強調された。次に,3国結核研究所長の挨拶と記念品の贈呈が行われた。会議の始めに国際結核肺疾患予防連合(IUATLD)のDr.Hans Riderより「人社会からの結核根絶の戦略的対策」について特別講演がなされた。これまでの塗抹陽性患者発見と治療では,結核根絶を目的とした場合,予防投薬法などを考慮に入れて行うことが必要条件であることを示した。

3国の研究発表は次に要約する。森所長を座長にNTP&Training(国家対策プログラムとトレーニング)のセッションが行われた。北京結核胸部腫瘍研究所(中国)では,日本政府からの抗結核薬や顕微鏡等の無償資金援助により,DOTS普及率が2005年までに90%2010までには95%に達成できる見通しであることが示された。ほかに肺結核症の患者の薬剤耐性と治療条件の研究では,最近再治療群が減少し未治療群が多いこと,多剤耐性菌が増加したが獲得耐性の患者数は変化していないことが示され,INH,TH,PZA,EMB,PASとKMを投与していたグループの多剤耐性結核ではLVFX,AugmentinCapreomycin が有効であることを報告した。分子疫学では,北京と近隣地区で実施されたIS 6110 を用いた結核菌RFLP分析で結核まん延国に見られる様な85%もの高い類似性パターンが検出されたことが示された。また,外科的手術や肺がんについて報告がなされた。

大韓結核協会結核研究所(KIT )からは,KITがセンターとなり,韓国全地区にあるKNTAの施設より塗抹陽性材料が持ち運ばれ,薬剤感受性試験や同定試験が行われること,その精度管理のためにKIT職員が派遣され各地区での検査指導をすること,国際研修の対象が看護婦から医師に変わったことなどが報告された。分子疫学ではDr.Park が韓国に多く検出されるK familyの分布について報告した。また,迅速同定試験法として,rpoB遺伝子のPCR産物を使用した制限酵素部位の差異による分別について報告があった。

当結核研究所からは須知企画調整科長が日本のNTP(国家結核対策プログラム)について発表し,山下対策支援部長が日本で行われている国内・国外の研修について報告した。鹿住細菌学科主任が結核症細菌学の精度管理について報告し,著者が沖縄県でのRFLP分析の解析について報告した。

おわりに

会議終了後個別にKIT Dr.Parkを訪問した。結核予防会の事業の大半はクリスマスシール運動の益金(約6億円)で運営していることや研究所のシステムの安全性と機能面についてお話を伺い,検査の流れと人員の配置の点は組織運営上見習うべきことが多々あった。中でも迅速診断法の評価・開発に力を入れており,rpoB 遺伝子のPCR産物と制限酵素の部位からの抗酸菌同定法は,簡易法として有望であると思われた。


Updated 01/10/05